税金で高めたクラブ価値を誰が受け取るのか〜木村オーナーの株式売却益を防ぐ仕組みが必要だ〜

岡山県では現在、フットボールスタジアムの場所、規模、コスト、建設・運営主体などの検討が進んでいる。新設も公費負担もまだ決まっていない。だからこそ、建設前に決めておくべきことがある。ファジアーノ岡山は株式会社で、木村正明氏はJリーグ専務理事就任時に保有全株式を譲渡し、退任後の2022年に再び筆頭株主となり、現在もクラブから「オーナー」と呼ばれている。新スタジアムによってクラブの収益力や企業価値が高まった場合、その価値が将来の株式売却益として株主だけに帰属してよいのか。木村氏が株式を売る予定だと言っているのではない。誰がオーナーであっても、公費によって生じた価値を私人だけが取得できない仕組みを建設前に作るべきだという問題である。

新スタジアムはクラブ価値を高め得る〜公共施設でも経済的便益はクラブへ入る〜

ファジアーノはJ1昇格後に急成長した。2025年2〜6月の5カ月で営業収入19億900万円、営業利益1億5,800万円を計上し、累積赤字も解消した。クラブは営業収入40億円、さらに50億円の早期達成を目標とし、現在の約1万5,500人規模のスタジアムについて「入場者数の伸長が見込めない現在の施設環境」と説明している。

新スタジアムは単なる観客席ではない。収容人数が増え、VIP・ホスピタリティ、飲食・物販、スポンサー価値などが拡大すれば、クラブの収益力を高める事業基盤になる。公設ならスタジアム自体はクラブの資産にならないが、公共投資によって将来収益が増えれば、クラブの経済的価値を押し上げる方向に働く。もちろん企業価値はチーム成績や経営努力にも左右されるため、将来の価値上昇すべてを税金によるものとはみなせない。それでも巨額の公費で収益基盤を拡張するなら、公的投資によって生じた価値を誰が最終的に取得するのかまで決めておく必要がある。

マイアミは売却益還元条項を設けた〜「棚ぼた利益」を契約で防ぐ〜

米国には実例がある。2009年、MLBマーリンズの新球場をめぐるマイアミ・デイド郡などとの契約には、球団売却時に公共側へ支払う「Payment Upon Sale of Team」条項が盛り込まれた。郡の公式資料は、現オーナーがこの取引によって即座に「windfall profit(棚ぼた利益)」を得ることを防ぐ目的を明記している。

還元率は売却1年目70%、2年目60%、3年目50%、4年目30%、5年目10%、6年目7.5%、7〜10年目5%。正確には売却価格そのものの一定割合ではなく、売却時のNet Proceedsのうちフランチャイズ価値の上昇に対応する部分から公共側へ支払う仕組みだった。公費で球場を造る以上、その結果高まった球団価値をオーナーが売却時に独占する問題まで契約段階で扱っていたのである。

公費による新スタジアム整備でファジアーノ岡山の企業価値が上昇するのであれば、その価値上昇分が将来、木村氏を含む株主の株式売却益として私的に帰属することを避ける仕組みが絶対に必要だ。

マイアミでも抜け穴が生じた〜岡山は建設前にルールを決めるべきだ〜

しかもマイアミでは、実際の売却時に還元額を巡る争いが起きた。マーリンズは2017年に約12億ドルで売却されたが、旧オーナー側は取得価値、資本拠出、債務、売却費用、税金などを差し引くと約1億4,106万ドルの「損失」になるとして、公共側への支払いを0ドルと算定した。郡はこれを認めず提訴し、最終的に2021年、550万ドルを支払うことで和解した。

この事例が示すのは、売却益還元条項を一つ入れれば済むわけではないということだ。岡山で同様の仕組みを導入するなら、公費投入前のクラブ価値、控除できる費用・債務、株式譲渡価格の開示、支配株主変更の扱い、行政の監査権、還元義務の期間まで契約で決める必要がある。高値で売却されても「利益ゼロ」という計算を巡って紛争になる余地を残してはいけない。

木村オーナーが将来株式を売るかどうかは問題ではない。問題は、巨額の公費でクラブの収益基盤を強化した後、その価値が株式売却益として私人だけに帰属し得る制度のままでよいのかということだ。マイアミはオーナーの「棚ぼた利益」を防ぐ条項を建設前に設けた。岡山でも公費を投入するのであれば、木村氏を含め誰がオーナーであっても、公費で高めたクラブ価値を丸ごと株式売却益にできない仕組みを先に作るべきだ。

参考情報

フットボールスタジアム検討協議会の概要 岡山県スポーツ振興課

https://www.pref.okayama.jp/page/1023395.html

筆頭株主の異動について 株式会社ファジアーノ岡山スポーツクラブ/2022年4月1日

https://www.fagiano-okayama.com/news/p1473057384/

2026年7月のお知らせ(木村正明オーナー登壇告知) 株式会社ファジアーノ岡山スポーツクラブ/2026年7月31日

https://www.fagiano-okayama.com/news/lm/l133_202607/

第20期 経営状況について 株式会社ファジアーノ岡山スポーツクラブ/2025年9月24日

https://www.fagiano-okayama.com/news/202509241700/

Development and Construction of the Marlins’ Ballpark/Legislative File No.090730 Miami-Dade County/2009年

https://www.miamidade.gov/govaction/matter.asp?file=true&fileAnalysis=false&matter=090730&yearFolder=Y2009

Miami Marlins Equity Payment/Legislative File No.180483 Miami-Dade County/2018年

https://www.miamidade.gov/govaction/matter.asp?file=true&fileAnalysis=false&matter=180483&yearFolder=Y2018

Settlement Agreement/Resolution R-100-21, File No.210580 Miami-Dade County/2021年2月17日

https://www.miamidade.gov/govaction/matter.asp?file=false&matter=210580

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