2028年、本の運賃は2倍になる|「今」出版を動かすべき3つの理由
「見積もりって、来年も同じ金額でお願いできますか?」
出版を検討している経営者の方から、最近こんな質問を受けました。理由を聞くと、社内稟議に時間がかかるので、来年に持ち越したいというお話でした。
正直に答えました。「来年の金額は、今の金額より上がる可能性があります」と。
驚かれるかもしれませんが、これは大げさな話ではありません。2025年6月に成立した「貨物自動車運送事業法改正」、通称トラック新法により、2028年頃までに物流の運賃が現在の約2倍まで跳ね上がるという試算が業界内で出されています。この影響を最も強く受ける業界のひとつが、実は出版業界です。
今回は、なぜトラック新法が出版に大打撃なのか、そして「今」出版を動かすべき3つの理由と、唯一の現実的な解決策を、順を追ってお伝えします。
① 2028年、本の運賃は2倍になる|トラック新法の衝撃
まず、事実から整理します。
2025年6月に成立した「貨物自動車運送事業法改正」、通称トラック新法では、次の2つが大きく変わります。
「適正原価」を下回る運賃での契約が禁止される
多重下請け構造の是正が義務化される
これまで、トラック運送業界は長年にわたって、実際のコストを下回る安い運賃で契約するのが常態化していました。その積み重ねが、ドライバーの低賃金・長時間労働・若年層の入職減という悪循環を生んできました。
この構造を、法律で強制的に是正する。それがトラック新法の趣旨です。
一方で、当然その分のコストは荷主側に返ってきます。日本出版取次協会(取協)は、2028年頃までに出版流通の配送運賃が現在の約2倍まで跳ね上がる試算を出しています。そして、出版社・書店に対して運賃分担や価格転嫁の協議を求めているのが今の状況です。
実は、変化はすでに始まっています。2025年2月には、大手取次の日販がローソン・ファミリーマートへの雑誌配送から撤退しました(現在はトーハンが引き継ぎ)。運ぶ量が減れば1冊あたりの物流コストは割高になる。この悪循環は、これから加速していきます。
2028年に向けて、本の物流コストが劇的に変わろうとしています。
② なぜこの法律が通ったのか|ドライバー不足という社会全体の問題
「なぜ、いま急にこんな法律が」と感じる方もいるかもしれません。
背景には、日本の物流全体が抱える構造問題があります。
2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働が年960時間に上限規制されました。これがいわゆる「物流の2024年問題」です。
長時間労働で走り続けることでかろうじて成り立っていた運送業が、労働時間の上限で走れなくなる。ドライバーの数を増やそうにも、若年層が入ってこない。既存ドライバーは高齢化していく。
このままでは日本の物流が止まる。そういう危機感の中で、根本原因である「適正原価を下回る運賃契約」を止めさせる法律が、2025年に成立しました。
出版業界だけの問題ではなく、日本の産業全体が直面している構造問題です。ただ、そのしわ寄せが特に厳しく出やすい業界のひとつが、出版業界なのです。
③ なぜ出版業界は特に困るのか|3つの構造的な弱点
出版流通には、他業界と比べて特殊な事情があります。
弱点1|委託販売制で「往復輸送」が発生する
出版業界は委託販売制を採用しています。取次を通して書店に本を届け、売れなかった本は返品として出版社に戻ってきます。つまり、本は往復で運ばれています。新刊配送だけでなく、返品配送のコストも運賃2倍の影響を受けます。他業界のように「片道分だけ」ではありません。
弱点2|低単価・低粗利で送料転嫁の余地が薄い
書籍1冊あたりの粗利は、他の商品と比べて非常に低いのが実情です。たとえば1,500円の書籍の場合、原価・印刷費・取次マージン・書店マージンを差し引いた出版社の手取りは、想像より小さい金額です。ここに運賃2倍のコスト増を吸収する余地は、正直、ほとんど残っていません。
弱点3|全国一律発売日を前提とした流通設計
出版流通は「全国どこの書店にも同じ日に届く」ことを前提に設計されてきました。しかし、これは大量の中継拠点とドライバーを必要とします。運賃2倍の時代に、この「全国一律発売日」がそのまま維持できるかは疑問です。実際、取協は雑誌の付録一体納品や発売日前倒しなど、流通合理化案を提示しています。「地方では発売が数日遅れる」「一部書店には入荷しない」という事態が常態化する可能性が、業界内で真剣に議論されています。
そしてこれから起きうる大きな変化のひとつが、「見計らい配本」から「完全注文制」への移行です。取次が推測で書店に配本する仕組みは効率が悪いため、注文があった分だけ運ぶ、という方向に流通が動き出しています。
最大の壁|再販制度で「書店の価格転嫁」ができない
もうひとつ、他業界にはない大きな壁があります。それが再販制度です。書籍は再販制度の対象品目のため、書店側が価格を上乗せすることができません。運賃が2倍になっても、書店で「送料込み価格」で売ることは制度上できないのです。
つまり、コスト増を吸収できるのは出版社側だけ。しかも、既刊書の定価を後から上げることはできないため、新刊の定価を上げていく形でしか対応できません。書店の粗利は増えないため、書店経営はさらに厳しくなっていきます。
この4つが同時に襲ってくるのが、2028年に向けた出版業界の現実です。
④ 送料は誰が負担するのか|1,200円から2,000円へ、ビジネス書10年史
コスト増を、誰かが負担しなければなりません。
前のセクションでお伝えした通り、再販制度がある以上、書店側で価格を上乗せすることはできません。そのため、コスト転嫁は「出版社が新刊の定価を上げる」形でしか進みません。しかも、上がった定価から書店の粗利が増えるわけでもない。物流の負担は、出版社と書店で分け合うしかない構図です。
ここで少し、ビジネス書の価格の変化を振り返ってみたいと思います。
10年ほど前、ビジネス書は1,200〜1,300円くらいが主流でした。ここ数年で1,500〜1,800円がすっかり当たり前になり、書店で1,600円台の帯付きハードカバーを見ても、もう驚かなくなりました。そして2028年に向けて、2,000円を超えるビジネス書が増えてくるのは、ほぼ確定路線だと私は見ています。
この物流危機を正面から扱った書籍として、小島俊一さんの『2028年 街から書店が消える日』(プレジデント社)が出版業界で大きな注目を集めています。書店・取次・出版社それぞれの視点から、2028年に何が起きるのかを解き明かした一冊です。
「街から書店が消える」という言葉は、決して大げさではありません。地方の中小書店は、輸送コストが2倍になった時点で経営が成り立たなくなる可能性があります。
「2,000円の本」に読者が納得するには|本の価値を上げる設計が問われる時代
ここで、著者にとって新しい課題が生まれます。
1,200円の本と、2,000円の本では、読者が本に対して感じる「価値の期待値」がまったく違います。単に価格が上がるだけでは、読者は買ってくれません。値上げした分、本の中身も分厚くしたり、読み終わったあとに得られるものを増やしたりする、本の価値そのものを引き上げる設計が必要になります。
たとえば、こういう選択肢があります。
ページ数を増やして情報量を上乗せする
巻末に独自の書き下ろし章や事例を追加する
購入者だけがアクセスできる特典コンテンツ(動画・音声・ワークシート)を設計する
著者への相談権や勉強会招待をセットにする
改訂版を出しやすい仕組みを用意する
これらは、出版が「書いて売って終わり」ではない時代に入ってきたことを意味します。本と一緒に何を届けるか、本を読んだあと読者とどうつながるかまで設計してこそ、2,000円の本は選ばれます。
そして、この「本の価値を上げる設計」を、初期投資を抑えながらもっとも柔軟に実現できるのが、次に触れるPODという仕組みなのです。
⑤ 経験から言えること|「来年は分からない」と言われる時代
出版の相談に乗っていて感じるのは、この物流変化を「まだ先の話」と捉えている経営者が非常に多いということです。
先日、企業出版を検討中の経営者の方と、企画段階の見積もりについてお話ししました。ご本人は「稟議に3ヶ月ほどかかりそう」とおっしゃったので、私は正直に伝えました。
「今のお見積もりの金額は、今のうちなら約束できます。ですが、来年、再来年になると、印刷会社も出版社も、正直、同じ金額を保証できないと言うかもしれません」
すると、その経営者はこう聞かれました。
「なぜですか。物価上昇の話ですか?」
私はトラック新法の話をお伝えしました。運賃が2倍になれば、書籍の印刷後の輸送コストも上がります。倉庫保管、書店配送、返品輸送、すべてが影響を受けます。
その方は、その日のうちに稟議を早める方向で社内調整を始めました。
これは特別な話ではありません。すでに一部の印刷会社では、翌年以降の見積もりを「参考価格」としてしか出さなくなっています。「来年の金額は分からない」というのが、いま出版業界の現場で聞こえ始めている言葉です。
⑥ これから出版する人へ|「今」動くべき3つの理由
企業出版・自費出版・商業出版のいずれを検討している方であっても、「今」動くべき理由が3つあります。
理由1|今の見積もりが、これから数年で最も安い
現時点の印刷費・流通費・出版社の見積もり金額は、これから数年で見ると、実は「一番安い」タイミングにあります。2028年に向けて運賃が2倍まで上がる過程で、印刷後の全ての物流コストが少しずつ上乗せされていきます。「今」動けば、その上乗せを回避できます。
理由2|2028年以降、「追加費用」の可能性がある
現時点で見積もりを取ってから実際の出版が2028年以降になる場合、契約段階では想定されていなかった追加費用が発生する可能性があります。「輸送費の高騰により、〇〇万円の追加でお願いしたい」という話は、あり得ないシナリオではありません。長期プロジェクトほどこのリスクは大きくなります。
理由3|印刷ロット・条件が悪化する前に確定できる
運賃2倍の時代には、印刷会社や出版社も生き残りのために取引条件を厳しくします。
最低印刷部数の引き上げ
返品ポリシーの厳格化
在庫保管期間の短縮
こういった条件の変化は、一度動き始めると戻せません。「今」の条件で契約を確定できるかどうかは、これから出版する著者にとって大きな分岐点になります。
⑦ 解決策はひとつ|POD(受注生産)という活路
ここまで読んで、「では、どうすればいいのか」と思われた方に、私がもっとも現実的だと考えている解決策をお伝えします。
答えは、POD(プリント・オン・デマンド)です。
以前の記事「Amazonのペーパーバック(POD)とは何か|在庫ゼロで紙の本を出版できる時代」でも詳しく書きましたが、PODは受注生産型の出版方法です。読者が注文したときに、Amazonの倉庫内で1冊だけ印刷され、そのまま発送される仕組みです。
なぜPODが物流危機の解決策になるのか
理由は5つあります。
取次を通さない:物流コスト2倍化の影響を直接受けない
在庫ゼロ:倉庫保管費・在庫リスクがない
返品廃棄なし:委託販売の往復輸送コストが発生しない
注文が入ってから印刷・発送する完全注文制:業界全体が「見計らい配本→完全注文制」へ動く方向と一致している
最低印刷部数なし:1冊単位で作れるため、初期投資が最小
つまり、2028年に向けて出版業界が直面する構造的な問題(委託販売の往復輸送・再販制度下での価格転嫁の限界・全国一律発売日の維持困難・取引条件の悪化)を、すべて回避できる仕組みなのです。しかも、業界がこれから向かおうとしている「完全注文制」の姿を、Amazon PODはすでに実現しています。
PODは「本の価値を上げる設計」とも相性がいい
前のセクションで、これからの著者は「本の価値そのものを引き上げる設計」が求められるとお伝えしました。実はここでもPODは強力な味方になります。
改訂・増補が低コストでできる:ページ追加も版下差し替えもオフセット印刷より柔軟
特典コンテンツを載せた巻末QRコードを、必要に応じてアップデートできる
電子書籍(Kindle)と紙のペーパーバックの両方を同時に流通させられる
紙の本購入者に向けた特典動画・音声を、Amazonの仕組みで配信しやすい
大量印刷を前提とした従来の出版では、一度印刷した後の内容変更は現実的ではありませんでした。PODなら、読者からのフィードバックを受けて、本の中身も特典も育てていけます。「価格に見合う価値の本」を作り、その価値を後から積み増していける仕組みなのです。
もうひとつの現実解|「仕上がりへのこだわり × Amazon限定販売」というハイブリッド
「せっかく出版するなら、本を手にした瞬間の肌触りまで大切にしたい」──そう感じる著者は少なくありません。私も相談を受けるたびに、その思いはよく分かります。
本文用紙のめくり心地、カバーに使う紙の質感、帯の色や書体、本文の刷り色が単色か2色か、あるいはフルカラーか。装丁の意匠と紙の選び方が響き合ったとき、読者が箱を開けて本を手に取った瞬間、指先で感じる「あ、これはいい本だ」という感覚が生まれます。そこには、著者と編集者が積み重ねてきた細かなこだわりが詰まっています。
内容が同じ本でも、仕上がりが違えば読者の受け取り方は変わります。手触りや刷り色、紙の選び方は、著者が届けたい世界観そのものの一部です。カバーの紙にほんの少し厚みと風合いを持たせるだけで、本を持ったときの満足感が変わることを、経験のある編集者ならよく知っています。
ただ、正直にお伝えすると、こだわり仕様の本は原価が上がるため、これから商業出版のハードルはさらに上がります。返品率が高くなりそうな企画は、出版社の企画会議で通りにくくなる。物流コストが2倍になる時代、返品は出版社にとって単なる機会損失ではなく、そのまま経営を圧迫する要因になるからです。
だからこそ、有効なのが次のハイブリッドです。
本文用紙・カバー・帯・刷り色まで、著者と編集者で丁寧に作り込む
書店委託は行わず、書店から個別に発注が入った分だけ供給する
販売の主軸はAmazon限定にする
返品を発生させない「買い切り」を前提にする
この形なら、出版社にとって返品リスクがゼロになるため、企画が通りやすくなります。著者は「仕上がりまでこだわった本」を作れる。読者はAmazonで確実に入手し、届いた本の質感まで含めて、著者と編集者の思いを受け取れる。三方にとってメリットのある選択肢です。
もちろん、PODほど初期投資リスクを抑えられるわけではありません。ですが、「用紙や刷り色までこだわった本を届けたい」という著者の思いと、「返品リスクを減らしたい」という出版社の事情を両立できる、リアルな落としどころだと私は思っています。
PODと Amazon広告の組み合わせが未来を作る
もうひとつ大事なポイントがあります。
PODで本を作っても、Amazonの膨大な商品数の中に埋もれてしまえば、意味がありません。ここでAmazon広告の出番です。
Amazon広告は、1日100円単位で予算設定でき、競合が少なければ1日500〜1,000円から始められます。しかも、発売前・レビュー0件の段階から広告運用が可能です。
在庫ゼロ(POD)
広告予算も小さく始められる(Amazon広告)
全国即日配送(Amazon物流)
この3点セットが、これからの著者にとって最もリスクの低い出版モデルになると私は考えています。
⑧ 未来の出版は「取次前提」から「著者×プラットフォーム」へ
田岡凌さんの『急成長企業だけが実践するカテゴリー戦略』(クロスメディア・パブリッシング、2025年)では、「頭に浮かべば、モノは売れる」と述べられています。
ニッチなカテゴリーで第一想起を取れば、既存流通の中で埋もれていた本でも読者に届きます。PODは、この「ニッチで第一想起を取る」戦略と非常に相性がいい仕組みです。
大量の全国配送を前提とした従来の出版流通が細くなる一方で、著者が読者と直接つながれるプラットフォームは、これから重要度を増していきます。
出版は「取次前提」から「著者×プラットフォーム」の時代へ、静かに移り変わっています。
その分岐点が、2028年です。
⑨ 2028年に向けた出版の準備について相談したい方へ
「2028年までに本を出版したいが、どの形態がいいのか整理したい」「PODとAmazon広告の組み合わせについて、もっと具体的に話を聞きたい」という方は、お気軽にご相談ください。
初回30分・無料でお話しします。下記リンクからお問い合わせいただけます。 https://bookads.etolabo.jp/
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