短編小説|虫にすら優しい人
春風に運ばれてきた一匹のテントウムシ。
何気ないその仕草から始まった、静かでやさしい恋の物語。
これは「優しさ」がゆっくりと心をほどいていくお話です。
第1章:ベランダとテントウムシ
「うわっ!」
アスカの小さな悲鳴に、ミナは飲みかけのビールを取りこぼしそうになった。
「どうしたの?」
「テントウムシ…テーブルに…」
アスカが指さす先には、確かに小さな赤い点。まだらの模様が見える。五月の風が運んできたのだろう。ベランダでの鍋パーティーは、ちょうど盛り上がり始めたところだった。
「あ、ほんとだ」ミナも身を乗り出す。
その時、ミナの隣にいた男性が、静かに立ち上がった。ヒロの同僚で、今日初めて紹介された――ショウタという名前だったはず。
彼は何も言わず、ティッシュを一枚取り、そっとテーブルに近づいた。ミナは「潰す気?」と一瞬不安になったが、彼の動きはとても緩やかだった。
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