リゾバ人間観察記③
2024年5月〜10月まで、山奥で住み込みアルバイトをした時の人間観察日記。
太陽みたいな子
彼女は太陽みたいな子だった。
常にニコニコして周りに愛想を振り撒く。一度は経営陣から目をつけられかけたが、お得意の愛想振り撒き大作戦で、挽回が異常に早かった。彼女のその立て直しは、本当に素晴らしかった。
彼女はオタクだ。ジャ◯ーズや乃木坂46が大好きで、それらのライブやイベントを中心に、人生が回っていた。そんな彼女が、ライブやイベントから戻ってくると、肌がプルンプルンになっている。いつもみんなから、『推し活』によってこんなにも人間は若返るのかと、噂をしていた。「きっとだから、太陽みたいにみんなを照らせるのかな?」なんて思ったりもした。
そんな彼女と腹割って話せるようになったのは、次のリゾバ先で偶然再会を果たしてからだった。彼女はホテルスタッフで、私はパトロール隊員で、程よい距離での関係性だから、とても居心地が良い。「前回のリゾバ先のメンバーは本当に当たりくじだったね。」とか「今後の人生どうするよ?」とか、色々語り合った。
その中で、私たち同世代として毎度盛り上がるのが、『結婚』の話だった。彼女は、以前のリゾバ先で、断固として変えなかった意思があった。それは「私は絶対に結婚しない。」だった。30を目前にして、周りが結婚・出産ラッシュを迎えるオトナ女子としては、かなりの強気発言だった。しかし、彼女の発言に、見栄や強がりは見えず、本当に心の底から言っているようだった。
「私は結婚向いていないから。」
そんな彼女とスキー場で再会を果たし、2人で飲みながら同じ話題になった。すると彼女は、この会わなかった数ヶ月で考えを改めたのか、「結婚も視野に入れて、今後の人生設計を考えることにした。」と呟いた。
現在のリゾバ先の年齢層というのは、めためたに若い10代〜20代前半か、子育て層〜第二の人生層という極端な具合だ。我らのような、結婚もせずにプラプラしているミドル層というのは、レア中のレア。
彼女の職場にいるおじちゃんは、いわゆる第二の人生層だったが、未婚。毎日仕事終わりに、浴びるように酒を飲んで、眠りにつく。酒がないと寝付けない、そしてアルコールを常に欲する、アル中っぽい人らしい。
その人が『独り身だから』と言うのが口癖らしく、そんな姿を見ていたら、結婚しなかったらこんな未来が待っているのかと思うと、幸せってなんだろう、と思うようになったんだとか。
お互いどうなるかわからないが、ひとつだけ彼女と一緒にいて思ったことがある。私も彼女のように、常に周りに元気を与えられるような、太陽みたいな子になりたい。
女性の色気ってこのことか…
今まで色んな人に出会ってきたが、こんなにも色気ある人に出会ったのは初めてな気がする。
漆を塗ったような墨色の艶やかなショートヘアをかきあげて、ハスキー声で普段はクールに話をするのに、お腹を抱えながらゲラゲラ笑う姿ですら、他の女の子と違って異彩を放っていた。バーテンダーをやっていたという彼女の所作や指使いは、何とも言えない大人のエロさを垣間見せる。
そんな彼女の人生はとても興味深かった。
中学から不登校となり、社会で生きることに苦しさを感じ、今でも友達と約束をしてどこかに行くなんてことはハードルが高すぎて難しいと言う。だから、私が今話している彼女と、彼女が描写する彼女自身にギャップが感じられて、とても気になった。だからこそ、彼女は魅力的なのかもしれない。
彼女のキャリアも面白かった。
高校卒業後、服飾系の専門学校に進学。そこからアパレル系の道には行かず、飲食の道へ進んだ。それがバーテンダーだ。彼女は長いことバーテンダーとして働き、その間、色気あるお酒の作り方を叩き込まれたのだそうだ。私もマドラー片手に、彼女の手捌きを真似したが、周りから「エロさのエの字もない」と批判殺到だったのは、言わずもがな。付け加えて、彼女はゲイバー、キャバクラの黒服を勤めて、ラブホテルのフロントとしても働いたそうだ。とにかく、今まで経験してきた職種が面白すぎるのだ。その勤め先でのエピソードが、これまたパンチ効きすぎていて、話を聞くのが面白い面白い。
彼女はお酒が大好きだった。彼女がここに来てから、喫煙所にみんなで集まり、宴が開かれることが多くなった。彼女の笑い方は豪快で、でも品があって、やはり色気があった。そんな彼女から、上記のような人生を送ってきたと告げられた時、私は彼女により惹かれた。
そんな真反対の彼女の人生は深みがあった。こうキラキラしているだけじゃなくて、人間のアンニュイな部分も網羅しているからこそ、人を惹きつける。私も彼女のように、ちょっとこうサブカルな雰囲気を出せるような一面を作り上げたい。
嵐の様な人だったなぁ。
彼女は突然現れた。そして突然、嵐のように去っていた。彼女は私よりも年上だったが、見た目も中身も若々しかった。広島出身の彼女の方言はとても可愛らしく、語尾に「じゃけ」とよくつけていた。
彼女はリゾバ経験が豊富で、過去に星野リゾートでも働いていたと言う。だから、彼女のスタンダードのサービスは、私たちが働くホテルサービスのスタンダードよりも高く、それがマネージャーの心証を害した。
彼女の経験の豊富さから来る『先回り』は、見事に空回り。『蛇足』という評価となり、彼女は追放された。
彼女と過ごした時間は、おそらく私がいちばん長かった。基本的にシフトが被ることが多く、一日の流れや、それぞれの持ち場(家族経営ホテルのため、レストラン、売店、客室清掃をこなす)の仕事内容の説明を丁寧にした。それがたった3日でパーになるのは、こちとらやるせなかった。
彼女はお喋りが大好きな人だった。
この3日間のシフトが全部被っていたというのもあるけど、かなり濃い時間だった。彼女は、北海道の礼文島でのリゾバ経験があり、礼文の話をよくしてくれた。
広島から北海道の稚内まで自分の車でドライブして、フェリーに車を乗せて礼文島まで行ったということ、礼文の島民たちが集まる飲み屋さんに行っては、地元の方々と杯を交わしたこと、同じホテルで働く人たちと島内をドライブしたこと、島価格はやはり高いということ。礼文の魅力を、これでもかというくらい話してくれたのだ。
彼女のその人懐っこく、お喋りが大好きな性格だからこそ、そんな礼文での素敵な思い出があるのだろうなと思った。今回私たちのいたホテルとは相性が合わなかったが、彼女の素敵な人柄で、きっと新しい地で、素敵な人に囲まれて働いていることだろう。
おもろい人きたー!
彼女はとてもユニークだった。経歴がまずすごい。某有名私立大学を卒業後、オランダへ渡り、10年もの間オランダの企業に勤めて、オランダ語と英語を操る。オランダ永住権保持者だった彼女は、それを捨てて日本へ戻ることを決意した。
とんでもないハイスペ女子がやってきた。
自分も海外での生活や暮らしに憧れはあるため、それをやってのけた彼女に尊敬の念を持ち、たくさんお話ししたいと思っていた。
彼女はアーティストだ。絵を描くことが大好きで、それも一つ一つの絵のスタイルが全く異なり、変幻自在というか、カメレオンみたいな芸術的感性をお持ちなのかな、と思うような感じだ。そんな彼女は、私の誕生日に、自作のバースデーカードをプレゼントしてくれた。
彼女の男関係がまた面白い。
彼女は典型的なダメ男大好き人間だった。今カレ、元カレの話を聞いてきたが、私の許容範囲外の話が沢山出てきて、圧倒される私の反応を横目に、最後につぶやくフレーズがいつもこれだ。
「私っていつもダメな男ばっかり好きになっちゃうからダメなのよね。」
その割にはそのダメンズたちとよりを戻したり、別れたりの繰り返しで、なかなかにその言葉の説得力がない。だけど、それでいいのだ。
彼女の生き様とは、そんな感じだ。
彼女はどちらかと言うと、今回のようなマルチタスクで周りの動きを見ながらするような仕事が苦手だった。仕事ぶりから、女将アタック(※)をモロに受け、マネージャーとも口論になるようなそんな感じだった。我々は、「ああ、また始まってしまった…」と陰から見つめ、お互いに彼女のカバーに入ることぐらいしかできない。それでも彼女はちゃんと任期を全うし、みんなから愛されて、そして惜しまれて、退寮していった。そんなこんなで、一緒に働いていた人の一人が、彼女をこう形容した。
「何にもできないけど、何でもできる。」
そう、彼女は何でもできるんだよな。
(※)女将アタック・・・女将さんから目をつけられ、することなすことに全て口を出されて、メタメタにされること。
この子将来素敵な子になるわ、絶対。
彼女は現役女子大生。
関西大学の4年生で来年度からは新社会人となる。フル単で卒業の見込みもついているため、最後の夏休みに、リゾバで夏山の思い出を作りにきたという。
彼女はとても素敵な子だった。気のおけない子で、私の中ではマブダチだった。年齢も離れているというのに、なぜかとても気が合った。
彼女は登山部に所属していて、色んな山に部員のみんなと繰り出していたという。彼女がここにいる間にも、何度か部員たちと合流して、小屋泊やテント泊登山を楽しんでいた。
彼女との思い出はたくさんある。
きっと彼女も私のことをよく思ってくれていたのか、よく彼女の夢の中に私が登場していたという。シチュエーションは不思議で、彼女と私が、同級生のクラスメイト。先生は、当時のホテルのマネージャーだったそうだ。マネージャーから授業を受け、二人で板書を写したり、話し合ったりしたと語る彼女。いや、おもろすぎる。
彼女は9月の半ばに去った。
去る前に少しずつ変わりゆく葉の色を見て、彼女は「だいぶ黄ばんできはりましたね。」と言った。紅葉を見ながら、「黄ばんでいる」と形容した子と出逢ったのは彼女が初めてだ。あまりにも衝撃的だったので、その出来事を今でも覚えている。そんなところも可愛らしく見えて、彼女の人間性が大好きだった。
しかし、きっと彼女は何かウチに秘めているものがあった。それは少し心配になるような部分でもあり、抱え込んでいるようにも見えた。傷口を抉りたくなかったから、こちらから深掘りをするようなことはしなかったが、「打ち明けたくなったら、いつでも聞くよ。」とだけ伝えた。彼女から伝えられることはなかったが、それが彼女の強さなんだと思う。強さとしなやかさを兼ね備えているようで、素敵な女性だなと思った。
彼女とは、大阪で再会した。
彼女の通う大学のキャンパスツアーをしてもらうという名目で、潜入させてもらった。そこで退寮してから今までの話に花を咲かせた。
彼女は退寮してから直接、鹿島槍ヶ岳へ向かっていた。1泊2日で山頂まで登ったというのだが、その道中で元ヒッピーの素敵な70歳のおじいちゃんと出逢ったそうだ。鉄製品の職人で、30代のときにバックパッカーとしてヨーロッパを旅して、長野の村に移住を決断。家庭を持ちながらも自由に生活される姿に刺激をもらったんだそう。その話を聞いて、私自身も刺激をもらっていたから、きっと私たちの考える『rich(豊かさ)』は似ていたんだと思う。
友情に年齢なんて関係ないんだなぁ。
でも彼女は若いのに立派で、本当に素敵な女性だ。
みんなの特徴を理解できてる人
彼女は大阪出身のアラフォーだった。
ずばり、私のちょっと先を行く、人生の先輩だ。
彼女はおおらかで、みんな、一人一人のことをいちばん理解している人でもあった。そう、あの名言、「何にもできないけど、何でもできる。」を放ったのは、彼女だった。
もともと、おもろい人の仕事のできなさを最初に痛感していたのは、彼女だった気がする。そして最初に、おもろい人に頭にきていたのも彼女だった。だが、彼女は、頭にきて終わらず、それを全て受け入れた。
全てを受け入れて、彼女はあの言葉を残した。
彼女の懐の広さというか、寛容さというか、それは一言では表しきれない、彼女の素晴らしい人間性だ。
彼女は、ホール、キッチンのスタッフ関係なく、全ての人とコミュニケーションを取り、この職場の絆を深めてくれるような役割の人だった。キッチンのスタッフでも、女将アタックの餌食になってしまった方がおり、その人が少しでも嫌な記憶を忘れられるようにと、夜な夜なみんなで集まっては、酒を交えながら笑い話をした。その彼女もその宴が、心の拠り所になっていたらしく、普段仕事の時には見せないような、晴れやかな表情をしていた。
彼女はいつも笑っていた。
大阪出身の人って、なんでこんなにも豪快に、そして本当に幸せそうに笑うんだろう。彼女はその頂点みたいな人だ。でもそんな彼女も、リゾバで苦い経験があるらしく、「沖縄のリゾバで上智の男子学生に泣かされたわ。覚えてろよ、アイツ!」と、ゲラゲラ笑いながら語った。続けて、「アフターファイブも充実!みたいな謳い文句があるリゾバ先は絶対ダメよ。スタッフガチャがすごいんだから!長いことリゾバしているけど、ここのスタッフはSランクだわ。」と言いながら、私たちのことを上げまくっていた。
彼女は、私のこともよくわかっていた。
彼女や現役女子大生が同じ時期に抜けるため、私は少し気分を落としていた。寂しくなるな〜と思っていると、新しく入ってくる子が二人。そのうちの1人の子の第一印象で、「もう、大丈夫。あなたと気のあいそうな子だったわ。これであなたも最後まで安泰ね。」と私に言った。
彼女の言う通り、私はその子ととんでもなく仲良くなった。リゾバ後に、その子に会いに行くほどだ。やはり彼女の鋭い洞察力には敵わない。
彼女の人を見る目というのは、
今までの豊かな人生経験で養われ、そしてそれを周りの人へ優しく紡いでくれる。彼女の素敵な才能に、私の豊かさも上がった。いつか私も彼女くらいの年齢になった時に、周りからそう思われるような人になっていたい。
写真は双六台地から望む槍ヶ岳📷
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