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「死ぬまでお金が尽きない」をどう作るか――『DIE WITH ZERO』と年金・保険の話

『DIE WITH ZERO』の「お金を使い切る」という考え方を実践しようとすると、一つの難問にぶつかる。
自分が何歳まで生きるのか分からない、という問題である。

80歳で死ぬと分かっているなら、80歳までに資産を使えばいい。しかし実際には、90歳まで生きるかもしれないし、100歳を超えるかもしれない。
そう考えると、老後のお金はなかなか使えない。
では、長生きしてもお金が尽きない仕組みをどう作るのか。

『DIE WITH ZERO』を読んでいて特に興味深かったのが、次の3点である。

① annuity(アニュイティ)
長生きして資産が尽きるリスクを、終身年金によって他者に移す。

② 保険の意義
保険は「得をするための商品」ではなく、自分では耐えられないリスクを移転する仕組みである。

③ 公的年金と繰下げ受給
日本の公的年金そのものが強力なannuityであり、受給を繰り下げれば、老後後半の終身収入をさらに厚くできる。



1.annuity――「長生きしすぎるリスク」を移す

▶ ポイント
annuityは、お金を増やす仕組みというより、安心してお金を使うための仕組みである。

annuity(アニュイティ)は、日本語では年金、年金保険などと訳される。
『DIE WITH ZERO』の文脈で重要なのは、生きている限り一定の収入を受け取れる終身年金である。

たとえば、一定額の資金を拠出する代わりに、65歳以降、毎年一定額を生涯受け取る。
70歳で亡くなれば受取総額は小さい。
一方、100歳まで生きれば、その間ずっと受け取ることができる。
つまり、ここで保険会社に移しているのは、
「想定以上に長生きして、資産が尽きるリスク」
である。

これは『DIE WITH ZERO』の考え方と相性がいい。
老後に必要な金額をすべて自分の預金として確保しようとすれば、100歳まで生きる可能性まで考えて、多額の資産を抱え続けることになる。

しかし、
「何歳まで生きても、毎年これだけは入ってくる」
という収入があればどうだろう。
それ以外の資産は、ずっと使いやすくなる。
旅行、趣味、家族との時間。
まだ健康で、行動できる時期にお金を使える。
annuityは、単なる金融商品ではない。

「長生きしたらどうしよう」という不安を小さくし、その分だけ今のお金を使いやすくする仕組みなのである。


2.保険の意義――「得か損か」では考えない

▶ ポイント
保険の役割は、期待値で得をすることではなく、起きたら困る大きな損失を他者に引き受けてもらうことである。

annuityを考えると、そもそも保険とは何なのか、という話に行き着く。
保険について、
「払った保険料以上のお金が戻ってくるか」
という損得だけで考えると、本質を見失う。

たとえば火災保険。
30年間加入して、一度も火事が起きなかったとする。
金銭だけ見れば、保険料を払い続けただけである。
では、火災保険は「損」だったのか。
そうではない。
自宅が全焼して数千万円を失うという、自分では簡単に耐えられないリスクを保険会社に移していたのである。

保険とは、

小さな損失を取り戻す仕組みではなく、人生を壊しかねない大きな損失を避ける仕組み

と考えると分かりやすい。
この考え方を寿命に当てはめると、annuityの意味もはっきりする。

生命保険が主として、
「早く死んでしまうリスク」
に備えるものだとすれば、
終身年金は、
「長く生きすぎて、お金が尽きるリスク」
に備える保険である。

長生きすること自体が問題なのではない。
問題なのは、自分が何歳まで生きるのか分からないことである。
その不確実性をすべて貯金で解決しようとすると、私たちは必要以上にお金を残すことになる。
保険の意義は、その不確実性を自分一人で抱え込まないことにある。


3.日本では、公的年金そのものが強力なannuityである

▶ ポイント
公的年金の繰下げは、単に「年金を増やす方法」ではなく、長寿リスクへの備えを厚くする方法と考えられる。

この話を日本に置き換えると、民間の年金保険より先に考えるべきものがある。
公的年金である。

老齢基礎年金や老齢厚生年金は、原則として生きている限り受け取ることができる。

つまり、日本人の多くは、すでに終身のannuityを持っている。

さらに、公的年金には「繰下げ受給」という制度がある。
65歳から受け取る年金を遅らせると、1か月につき0.7%ずつ年金額が増える。
70歳まで繰り下げれば42%増。
75歳まで繰り下げれば84%増。
しかも、増えた年金額はその後も生涯続く。

もちろん、繰り下げれば必ず得をするわけではない。
早く亡くなれば、65歳から受け取った方が受取総額は多くなる。
一方、長生きするほど、増額された終身年金の価値は大きくなる。

ここでも重要なのは「得か損か」だけではない。

たとえば、
60代 → 自分の金融資産を使う
70代以降 → 増額した公的年金を受け取る
という設計もできる。
これなら、100歳までの生活費をすべて預金で確保する必要はない。

元気な60代には旅行や趣味、家族との時間にお金を使い、老後後半は増額した公的年金という終身収入で守る。

『DIE WITH ZERO』の考え方を日本で実践するなら、公的年金の受給時期はかなり重要な論点だと思う。


まとめ――「安心」があるから、お金を使える

『DIE WITH ZERO』というタイトルからは、「死ぬまでにお金を使え」という本を想像しやすい。
しかし、実際にはそう単純ではない。

今回取り上げた3つのポイントは、すべて同じ方向を向いている。

・annuityで長寿リスクを移す
・保険で致命的なリスクを移す
・公的年金と繰下げ受給で終身収入を厚くする

将来への不安をゼロにはできない。
しかし、不安を合理的に小さくする仕組みは作れる。
その仕組みがあるからこそ、若さや健康が残っている時期のお金を、人生のために使えるのである。

『DIE WITH ZERO』には、このほかにも「経験にお金を使う意味」「子どもにいつお金を渡すべきか」など、掘り下げたい論点がいくつもある。
それらについては、また別の記事で考えてみたい。


本書はこちら

ビル・パーキンス
『DIE WITH ZERO――人生が豊かになりすぎる究極のルール』

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