《ショートショート》ある冬の夜
「今日はここまでにしよう」
私はそう呟き、筆を置いた。
時計を見ると、いつの間にか日付が変わっている。
「ここまで」とは言ったものの、原稿用紙は真っ白だ。ネタが思い浮かばない日はどんなに粘っても、何も出てこない。諦めるのが吉だと、経験で知っていた。
コンビニでホットスナックを買って帰ると、ドアの前に先ほどまではなかった段ボール箱が置いてある。
置き配か?と思ったが、こんな時間に来るわけがない。
恐る恐る箱に耳を近づけると、カサカサ、ゴソゴソと音がした。
生き物なのか?
身に覚えのないものは、触らない方がいいに決まっている。
そう自分に言い聞かせて一旦部屋に入ったものの、どうしても気になり、またドアを開けた。
相変わらずカサカサと物音が聞こえる。
このまま知らん顔を続けたら、中の生き物が死んでしまうかもしれない。
とりあえず、箱を中に入れた。
用心しながら、ガムテープを剥がしてみる。
中にいたのはーー
真っ白な、雪うさぎだった。
「え?」
解放された雪うさぎは、鼻をうごめかせながら、部屋の中をあちこち歩き回っている。
お腹が空いているのかもしれないと思い、とりあえずさっき買ったチキンを差し出してみたが、見向きもしなかった。
そういえば、うさぎは草食に決まっている。
試しに冷蔵庫からレタスを取り出してみたら、食べる食べる。よほど空腹だったのか、なんと一玉食べてしまった。
満腹になった雪うさぎは、安心したのか、丸くなって寝てしまった。
撫でてみると、ふわふわとした毛が指を包んだ。規則正しく上下する背中を眺めているうちに、不思議に私まで安らかな気持ちになり、いつの間にか眠りに落ちていた。
翌朝目を覚ますと、雪うさぎはどこにもいなかった。
その代わり、ちょうど雪うさぎが眠っていたところに、一面水たまりができている。
昨夜のあれは、夢だったのか…?
そう思って冷蔵庫を開けると、レタスはどこにも見当たらなかった。
筆を執り、机に向かう。
今日は、書けそうな気がした。
