「好き」が分からなかった小学生の僕の残念な末路
ねぇ、君は
好きな人がいるのに、
どうしたらいいか分からなくて、一人で悩んでること、ない?
僕はね、君と少しだけ違う時間を生きてきたけれど、
同じように悩んで、
そして、今になって
『あの時、こうしていれば…』って思うことがたくさんあるんだ。
もしよかったら、
僕のちょっと恥ずかしい小学生時代の話を聞いてみてほしい。
君がこれから、僕みたいに後悔しないためのヒントが、
きっと隠れているから。
「人生には三度モテ期がある」
なんて、
大人になってからよく聞く話だ。
もしそれが本当なら、僕の最初のモテ期は、
間違いなくあの小学生時代だった。
運動神経はそこそこ、勉強も特に苦労せず、
学級委員を自発的にやってしまうそんな小学生だった。
ちびまる子ちゃんの丸尾君ほどガリ勉ではなかったけれど、
運動会のリレーではアンカーを任されることもあったし、
先生からの信頼も厚かったと思う。
今思えば、周りの大人たちから見れば、
少しばかり、いや、かなり年齢にそぐわない
優等生に見えていたのかもしれない。
小学校に入学して初めてのバレンタインデーが近づくと、
小学生ながらクラスの女子たちが一同にソワソワし始める。
生まれて初めてチョコレートを差し出された時のことは、
今でも鮮明に覚えている。
小さな手のひらに、
すっぽり収まるくらいのハート形のオレンジ色の包み。
あの子のドキドキの高揚が伝染していたからなのか、
少し溶けかかったチョコレートの甘い香りが、
教室の隅にまで漂ってきた気がした。
渡してくれたあの子の頬は、
夕焼け空のようにほんのり赤く染まり、
潤んだ瞳が僕をじっと見つめていた。
でも、
あの年齢にしてはなのか、あの年齢だからなのか、
自分の気持ちをチョコレートに込めてまっすぐ素直に届けてくれた。
それに比べ当時の僕は、
周りの友達の目が気になって仕方なかった。
「チョコ渡されたの?モテモテじゃん!」
なんて冷やかされるのが嫌で、
とっさに「いらない」と突き返してしまったのだ。
あの子の、あの悲しそうな顔は、
今でも時折夢に出てくる。
あの時の僕がしたことは、
ガラス細工のような繊細な彼女の心を、
石ころで何度も叩きつけていたようなものだったと思う。
時は経ってあれは4年生のことだ。
初めて好きになった子のことも、よく覚えている。
明るくて、いつも笑顔が可愛らしい
ツインテールがよく似合う女の子だった。
少しづつ年齢はあがっていったが小学生の僕には、
その子とどうやって接していいのか、
この好きという気持ちとどうやって向き合ったらいいのか、
が全く分からなかった。
好きなのに、
好きだから、
ついつい意地悪なことをしてからかってしまう。
どう接していいか分からないもどかしさを、
僕は意地悪という形でしか表現することができなかった。
彼女が困ったように眉をひそめたり、
今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で僕を見上げたりするのを見るのは、
歪んだ優越感のようなものを満たしてくれた。
最低なガキだった
と、
今の自分は過去の自分を叱り飛ばしたい。
案の定、彼女はどうしてそんなことをされているのかわからず、
最後はクラスのみんなの前で泣かせてしまった。
そんなことをしていた僕にも告白してくれた女の子が現れた。
小学生の女の子の結託力は今思っても感服してしまう。
放課後の教室に
その子と僕を残すようにうまく周りを誘導することに成功すると、
その子が前の日までに
何日も頑張って考えたであろう告白文を綴った手紙を
僕に渡させる。
突然のことに頭が真っ白になった僕は、
なんて言って手紙を受け取ったのかを、実はよく覚えていない。
『これ、受け取ってください』。
消え入りそうな小さな声が、
夕暮れの教室に響いた。
手渡されたのは、丁寧に装飾された可愛らしい手紙。
初めてのことで頭の中は真っ白になり、
心臓が早鐘のように打ち始めた。
『え、あ…うん、ありがとう』
我ながら気の抜けた返事だったと思う。
手紙を受け取ると、
僕はまるで何かから逃げるように、
彼女に背を向けて教室を飛び出してしまった。
彼女の、期待と不安が入り混じった、
けれどどこか決意を秘めた瞳から、
僕は最後まで目を逸らした。
後日
「ごめん」
と簡単に3文字だけの返事を書いた手紙を、
あの子の友達にあの子へ渡してもらうようにお願いした。
あの頃はその子の気持ちを
しっかりと考えることが出来なかったという自分の未熟さが、
子供っぽく少し可愛らしいと思う反面
ぶん殴ってやりたくもなる。
手紙を渡してきたあの子の期待と不安が入り混じった瞳を、
まともに見ることができなかった。
今、大人になって振り返ると、
あの頃の自分がどれだけ愚かだったか痛感する。
周りの目を異様に気にしていた。
「先生にどう見られるか」
「親にどう思われるか」
そんなことばかりを気にして、
自分の素直な気持ちを押し殺していた。
変なプライドもあった。
「恋愛なんてガキっぽい」
「真面目な自分がそんなことに興味を持つのは恥ずかしい」
と、勝手に思い込んでいたのだ。
真面目であることの意味を、
僕は完全に履き違えていた。
ただ優等生に見られたいだけの、
薄っぺらな真面目さだった。
あの時、どうすればよかったのだろう。
周りの目を気にせず、
自分が正しいと思う行動をとるべきだったと今は強く思う。
チョコレートをくれたあの子に、
もし素直に
『ありがとう』
と言えていたら、
何かが変わっていたのだろうか?
好きな子には、
素直な気持ちを伝えればよかった。
それが難しくとも、
相手のことを考えて、悲しむことをしなければよかった。
それができていたら、
もっと違った人生が待っていたのだろうか?
告白してくれた子には、
ちゃんと向き合って、友達から手紙を渡してもらうのではなく、
しっかりと自分の気持ちを面と向かって正直に伝えるべきだった。
周りと比べる必要なんてなかった。
相手を思いやる気持ちがあれば、
言葉や態度は自然と変わったはずだ。
自分の気持ちに正直に、
自分を貫く強い意志を持つことが大切だった。
そして、
大人に良く見られること
と、
本当に誠実であること
は違う。
あの頃の僕に、そう教えてあげたい。
人生最初のモテ期を、僕は自分の愚かさで棒に振ってしまったのだ。
小学生の僕の経験は、
決して スマートなものじゃなかった。
むしろ、
たくさんの後悔が残ってしまっている。
でもね、あの時の僕が間違えたからこそ、
今の君に伝えたいことがある。
『好き』
って気持ちは、
すごく力のあるものだ。
それとどう向き合っていくかは、
まだ分からなくて当然だよ。
でも、
周りの目を気にしたり、
変なプライドにとらわれたりして、
自分の本当の気持ちを押し殺してしまうのは、
すごくもったいないことなんだ。
この物語が、
君が自分の本当の気持ちと向き合い、
後悔のない選択をするための、
ほんの少しの勇気になれば嬉しい。
君の未来が、
僕の過去よりもっと輝かしいものになることを、
僕は心から願っているよ。
