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六本木の美容室で「こんな変な髪型にしたくない」と、カットを断られたことがある

私が美容室から帰ると、夫は毎回確認してくる。

「その髪型は、やりたくてやっているんだよね?」

この言葉には、「あなたは今、だいぶ個性的な髪型をしているけど、それは美容師さんが失敗したわけではないよね?大丈夫よね?」という心配が含まれている。

「はい、やりたくてやっています。大成功です」と私がご機嫌に答えると、彼は初めて「それは良かった」と安堵の顔を見せる。

思い返せば私は今までいろいろな髪型をしてきた。

3秒でシャンプーが終わるくらいのベリーショートや、バターで炒めたくなるようなキノコヘア、欧陽菲菲 オーヤン・フィーフィー氏をラブ・イズ・オーバーさせたような強めのパーマに、襟足ともみあげを青々と刈り上げたこともあった。

私のコボちゃん化に母は動揺し、娘がなにか人に言えない悩みを抱えているのではないかと不安がっていた。

私は別に誰かを驚かせたいわけでも、4コマ漫画を描きたいわけでもない。

小学生の女の子たちがぷくぷくしたシールに心躍らせるように、私はその髪型に魅了され、ただ切っているだけなのだ。

それなのに、美容師さんからカットを断られたことがある。

初めて六本木の美容室に行った時だ。

男性の美容師さんに、「この髪型にしてください」と写真を見せながらオーダーしたら、彼は目を細めた。光で反射して見えないのかなと思い、指をぐいんと開き、画面いっぱいに拡大する。

それは、前から見たらショートカットで後ろから見たらロングヘアという、だまし絵みたいな髪型だった。耳が出る髪型なので大きめのピアスを合わせたら、さぞ素敵だろう。

美容師さんが画面を見つめたまま黙りこくっている。あまりのかわいさに言葉を失っているのかもしれない。

ひとりほくそ笑んでいると、美容師さんが口を開いた。

「あなたをこんな変な髪型にしたくない」

変な!?

風向きが急に変わった。

髪質やダメージ具合によって施術を断られることはあっても、感性の問題で断られるとは思ってもみなかった。美容師さんから見ると、私の「だまし絵ヘア」はこの世に誕生させてはいけない代物だったらしい。

しかし、ここは六本木だ。

美術館が立ち並び、アートやファッションが交差する街である。さっきも、セーラームーンのようなロングヘアのおじさんが、我が物顔で横断歩道を渡っていた。その人は自然に街へ溶け込んでいるのに、なぜ私の髪型はだめなのだろう。

「そんな……」と意気消沈していると、毛先が傷んでいるのでそこを切ったらどうかと提案された。きれいになりたいという気持ちはあったので、そのままお願いした。

心のどこかでは、まだ少し期待していた。美容師さんの気が変わり、「だまし絵ヘア、やっぱりやってみましょう」と言ってくれることを。

完成した髪型は、申し訳程度に毛先を切っただけだった。美容師さんの固い意志を感じる。

仕上げに「サービスです」と髪を巻いてくれたのだが、くるんとした毛先が、あのセーラームーンのおじさんに少しだけ似ていた。

私は六本木の街に溶け込みながら、帰路についた。

その巻き髪をばっさり切り落とし、おかっぱ頭にしたころ、私は夫と出会った。

おかっぱ頭は、ちょっと古めかしい重めの切りっぱなしだった。無理に背伸びもせず、飾りたてもせず、自然体を重んじているような雰囲気が気に入っていた。

言うなれば、朝起きて水道水をがぶ飲みする自分が、鉄瓶で白湯をつくるような人間に見える感じが好きだった。ベランダではきっとルッコラやバジルを育てているだろう。

それに味を占めて、私はしばらくおかっぱ頭を楽しんでいた。

しかし、結婚してから分かったことなのだが、夫は違う感情で私のおかっぱ頭を見つめていたらしい。

私が髪を揺らすたび、「年頃のお嬢さんがこんなおかっぱ頭にするなんて、よっぽどの事情があるのだろう。会社の規定だろうか。かわいそうに」と憐れんでいたらしい。

まさか気に入っていた髪型を、同情されていたなんて。

私はこの話を聞いた時、息ができないくらい笑った。

笑いすぎて呼吸が苦しくなり、夫のおしゃべりを「もうやめて」と手で制した。なのに、自分たちのすれ違いがあまりにおかしく、やっぱり話してと彼にせがんだ。

私の会社も濡れ衣を着せられて、さぞ驚いたことだろう。

確かに私が働いている会社は変わっていて、社長が差し入れしてくれるお菓子はだいたい賞味期限が切れている。どこで購入して、どこで保管されているのか、長いこと働いているパートさんも分からないという。そんな会社でも、おかっぱ頭の義務はなく、あの髪型は私が好きでやっていただけだと、夫に改めて訂正した。

彼はこのときも、それは良かったと安堵していた。

そういう夫は、髪を切るとき大幅な変化を求めない。

いつも担当してくれる美容師さんに、「伸びた分だけ切ってください」と毎回同じオーダーをしている。

それなのに、仕上がったそれは、ゴルゴ13を彷彿とさせる角刈りだったり、白いハイソックスが似合いそうな坊ちゃん刈りだったりする。

「ねえ、それは美容師さんが失敗したわけではないよね?大丈夫よね?」

私は私で、夫の切りたての髪を見るたび、心配しているのだった。



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