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ご縁を想う 【ママ】

トイレに行きたいのに、外が騒がしい。
何か文句を言っている人たちがいる。
一旦、トイレの鍵を閉めたものの、再度開けて外を見た。

「あれ?ママじゃないですか?」

文句を言っている人の中に、知っている顔があった。
ママは、私を見ると少し気まずそうな顔をした後に、ふんわりと笑って、言った。
「来てくれて、ありがとうね」

そこで、目が覚めた。夏の暑い日だった。

夢に出てきたママは、日本舞踊の教室を紹介してくれた人だった。

紹介してくれたご縁で、
スナックでたまにバイトをする事になった。
どうせふらっと飲みに行くのなら、飲み代でも稼ごうかな、という軽い気持ちで。

当時のママは、50代後半で、小柄でチャキチャキとしたカラオケの上手なママだった。花の生け方や、おつまみの盛り付け、トイレ掃除など、厳しく言われた。
段々と慣れてくると、もっとバイトに来てほしいと言い出した。
普通に昼間働いていたし、自分の余裕がある時にしかバイトには行けなかったから、次第に辛くなっていった。
休む時には、他のバイトの女の子を探して!と言われだしたので、正直に、これ以上は無理ですと伝えた。
ママも余裕が無くなっていたらしく、数日後にお互いにごめんなさいと言い合ったものの、若干わだかまりも残った。

たまに、イケメンのママの息子がバイトに入るようになった。
そんなに、人手が足りないのか、とその時は思っていた。

その後、結婚の報告と共に、もうバイトには入れない旨を告げた。
ママは残念そうに、「今度はご主人も連れて遊びにおいで」と言ってくれた。

最後のバイトの日、常連のお客さんに、耳打ちされた。
「ママは、湖畔ちゃんと息子さんをくっつけたかったんだよ」
びっくりした。そんな思惑があったなんて、しかもそんな風に思ってくれていたとは。
寂しい気持ちと、いや、ないな。ママがママだと厳しいと思った。

辞めた後も、時々顔を出していた。年賀状のやり取りもしていた。

ある日、自宅にお店を閉めるというハガキが届いた。
コロナの影響で客足が鈍って大変だったのかなと呑気に思いながら、花束を持って行くと、
痩せ細ったママがいた。

「乳ガンなのよ。」

ママは、どんな顔をしていただろう。
それを聞いた時に、私は、すごく曖昧な表情をしていたと思う。

最後にハグだけさせてもらった。
もっと柔らかかったはずなのに、と思うと涙が出そうになった。
ママの前では絶対に泣きたくなかったから、必死に笑った。

その後会う機会もなく、お元気にされているかなあ、会いに行きたいなあと思っていたら、
たまたま見た新聞のお悔やみ欄で、ママの名前を見つけた。

夏の暑い日だった。

お通夜に伺い、ひとりで、ぼうっと立ちながら思った。

「会いたいと思ったら会わなきゃ、後悔するなあ」

誰も知る人がいない会場で、ひとりで泣いた。

夢から覚めた時に、ふとママが亡くなってから一年かな?と思った。
亡くなった日にちは覚えてない。

ママ、夢に出てきてくれてありがとうございます。
もしかすると、義娘になっていた可能性もありました。

そんなパラレルワールドの世界の私だったら、
どんな風に思っていたかな。

最後のやり取りから何度か携帯を変えているけど、ショートメールは消せないでいる。