戦国三英傑シリーズ|第4話 合目的経営―なぜ「成功パターン」を捨てなければならないのか
~秀吉に学ぶ、常識ではなく目的から考える1→10~
会社が成長すると、一つの「成功パターン」が生まれる。
この商品なら売れる。
この営業方法なら契約が取れる。
この地域なら出店すれば成功する。
この価格なら利益が出る。
このやり方で会社は成長してきた。
だから経営者は考える。
「次も同じ方法でやろう。」
それは当然である。
成功した方法を再現することは、経営の基本でもある。
しかし、
市場は変わる。
顧客も変わる。
競合も変わる。
技術も変わる。
会社の規模も変わる。
それなのに、
経営者だけが過去の成功体験から抜け出せない。
1→10の成長段階で、これほど危険なことはない。
豊臣秀吉の経営を見ていくと、興味深い特徴がある。
秀吉には、
決まった勝ち方がなかった。
1.経営者は「自分が知っている方法」で戦おうとする
営業出身の社長は、
「もっと営業すれば売れる」と考える。
技術出身の社長は、
「もっと良い商品を作れば売れる」と考える。
財務に強い社長は、
「もっと数字を管理すれば利益が出る」と考える。
M&Aで成長した会社は、次もM&Aを考える。
出店で成功した会社は、次も出店する。
広告で成功した会社は、広告費を増やす。
つまり経営者は、
自分が成功した方法を「正解」だと思いやすい。
しかし、それは本当に正解なのだろうか。
それは、
過去のある条件の中で正解だった方法
にすぎないかもしれない。
条件が変われば、正解も変わる。
2.「普通はどうするか」から考えない
企業が何か問題に直面すると、
「普通はどうするのか」を調べる。
競合はどうしているのか。
業界ではどうするのか。
過去はどうしてきたのか。
もちろん、それを知ることは重要である。
しかし秀吉的な発想は、そこから始まらない。
最初に考えるのは、
「目的は何か。」である。
城を落とすことが目的なら、
必ずしも城へ攻め込む必要はない。
相手を味方にすることが目的なら、
必ずしも戦って倒す必要はない。
必要な物資を確保することが目的なら、
必ずしも金を払って買う必要もない。
目的と手段を分離すると、
選択肢は一気に増える。
常識 → 手段 → 結果
ではなく、
目的 → 最適な手段 → 結果
から考える。
これが「合目的経営」である。
3.「薪は買うもの」という常識を疑う
秀吉には、こんな逸話が伝わっている。
清洲城で使う薪の仕入れ代が高いと信長が嘆いていた。
そこで秀吉は信長に、
自分なら仕入れ代を下げることができると申し出た。
普通なら、「もっと安く買え」と命じるだろう。
仕入先と値段を交渉する。
相見積もりを取る。
購入量を増やして値引きしてもらう。
つまり、
「薪は買うもの」という前提の中で改善しようとする。
ところが秀吉は、その前提自体を疑った。
山を維持するには木を伐るだけではなく、間引きや植林も必要になる。
そこで、間伐した木と苗木交換を提案した。
この逸話の史実性そのものより、経営として面白いのは発想である。
秀吉は、
「薪をどう安く買うか」
ではなく、
「必要な薪を、どうすれば最も合理的に確保できるか」
と考えた。
目的から考えれば、
「買う」という手段さえ絶対ではなくなる。
4.コスト削減とは「値切ること」ではない
これは現代企業にもそのまま当てはまる。
仕入価格が高い。
そこで購買担当者へ、
「5%下げろ」と指示する。
もちろん価格交渉も必要である。
しかし、本当の目的が、
「必要な品質と数量を、安定して低いコストで確保すること」
なら、方法は値引き交渉だけではない。
仕様を変える。
発注単位を変える。
物流を変える。
共同購買する。
取引先と長期契約を結ぶ。
廃棄していたものを再利用する。
内製していたものを外注する。
逆に外注していたものを内製する。
取引先と設備を共有する。
価格を下げるのではなく、コストが発生する構造そのものを変える。
ここまで考えて初めて、
「値下げ」ではなく「経営」になる。
5.「もっと頑張れ」ではなく仕事の構造を変える
秀吉には、清洲城の城壁修理に関する有名な逸話もある。
工事がなかなか進まない。
普通なら、
「もっと働け」
「人数を増やせ」
「工期を守れ」
となる。
しかし秀吉は、工事区間を分け、それぞれの担当を明確にし、
競わせることで工事を急速に進めた。
ここでも発想は同じである。
問題は、
「人が働かないこと」なのか。
それとも、
「人が働いても成果が出にくい仕事の構造」なのか。
秀吉は人間を変えようとする前に、
仕事のやり方を変えた。
現代企業なら、
一人の社員が最初から最後まで担当していた業務を工程別に分ける。
担当者を明確にする。
進捗を見える化する。
成果を測る。
評価する。
必要ならシステム化する。
すると同じ人数でも、生産性は変わる。
人を叱って生産性を上げるのではない。
仕事の構造を変えて生産性を上げるのだ。
6.城を落とすのに、城を攻める必要はない
秀吉の戦い方を見ると、この発想はさらに明確になる。
城を落とす。
普通なら城へ攻める。
しかし秀吉は、必ずしも正面から攻めなかった。
鳥取城では兵糧攻め。
備中高松城では水攻め。
相手の戦闘力そのものと正面からぶつかるのではなく、
相手が戦い続けられない条件を作る。
経営に置き換えれば、
競合の商品に勝つために、
必ずしも「もっと良い商品」を作る必要はないということである。
販売方法を変えてもいい。
価格体系を変えてもいい。
納期を変えてもいい。
顧客層を変えてもいい。
サービスを組み合わせてもいい。
競争する場所そのものを変えてもいい。
競合が強いところを攻めるのではなく、
競争の条件を変えてしまう。
これも合目的経営である。
7.勝てない相手なら「倒さない」という選択肢もある
秀吉の発想は、
戦い方だけにとどまらない。
小牧・長久手では、
徳川家康との戦いで秀吉側は思うような結果を得られなかった。
では、家康を完全に倒すまで戦い続けるのか。
秀吉は最終的に、軍事だけで決着させるのではなく、
政治や交渉、関係構築を通じて家康を自らの秩序へ組み込んでいく。
ここにも重要な経営原則がある。
経営者の目的が、
「競合に勝つこと」になってしまうことがある。
しかし会社の本当の目的は、
競合を倒すことなのだろうか。
事業を成長させること。
利益を増やすこと。
市場を広げること。
企業価値を高めること。
こちらが目的なら、
競合と戦うことは手段の一つにすぎない。
場合によっては、
戦うより、組んだ方が目的に近づく。
8.一夜城が象徴する「目的から逆算する」という発想
秀吉には「一夜城」と呼ばれる逸話が二つある。
墨俣一夜城。
そして小田原攻めの際の石垣山一夜城である。
墨俣については後世の創作を含む可能性が指摘されており、
石垣山城も実際に一晩で築いたわけではない。
しかし経営の題材として興味深いのは、
なぜ、その場所に、そのタイミングで城が必要だったのか である。
城を作ること自体が目的ではない。
次の行動を有利にする。
相手へ心理的圧力をかける。
自軍の拠点を作る。
自らの動員力を見せる。
目的が違えば、城の意味も変わる。
これは企業の設備投資も同じである。
立派な本社を作る。
工場を建てる。
システムを導入する。
AIを導入する。
それ自体が目的になった瞬間、投資は経営ではなくなる。
常に問うべきなのは、
「それによって、何を実現するのか。」
である。
9.1→10で必要なのは「経営資源を10倍にすること」ではない
会社を1から10へ成長させようとすると、
社員を10倍にする。
設備を10倍にする。
営業所を10倍にする。
資金を10倍集める。
と考えがちである。
しかし、それではコストも10倍になる。
秀吉の経営から見えてくるのは、別の考え方である。
同じ人をどう使うか。
同じ資金をどこへ使うか。
同じ情報をどう利用するか。
同じ時間でどう成果を増やすか。
相手の力をどう利用するか。
戦わずに目的を達成できないか。
つまり、
経営資源そのものを10倍にするのではない。
経営者の使い方によって、経営資源から生まれる成果を10倍にする。
これが1→10における「経営者の腕力」である。
10.「成功パターンを持たない」ことが成功パターンだった
兵糧攻め。
水攻め。
一夜城。
交渉。
調略。
人材登用。
既存の権威の利用。
相手を倒すのではなく取り込む。
秀吉の行動を並べても、
一つの方法に統一することは難しい。
しかし、その奥には一つだけ共通するものがある。
目的から考えている。
だから方法が変わる。
相手が変われば、策を変える。
環境が変われば、策を変える。
自分の立場が変われば、策を変える。
つまり、
成功パターンを持たないことが、秀吉の成功パターンだった。
これは変化の速い現代企業にも重要な示唆を与える。
昨日成功した方法を捨てることは難しい。
なぜなら、それを最も信じているのが成功した経営者自身だからである。
しかし、
目的を固定し、手段を固定しない。
それが1→10へ進む経営者に必要な能力ではないだろうか。
まとめ
経営者は、自分が知っている方法で戦おうとする。
そして成功すると、その方法への確信はさらに強くなる。
しかし市場は変わる。
顧客も変わる。
競合も変わる。
技術も変わる。
だから、
「普通はどうするのか」
から経営を始めてはいけない。
まず、
「目的は何か」を考える。
そして、
「その目的を、最も早く、安く、確実に達成する方法は何か」
を考える。
買う必要はないかもしれない。
自分で作る必要もないかもしれない。
競合と戦う必要さえないかもしれない。
目的と手段を分離した瞬間、経営の選択肢は増える。
秀吉には決まった勝ち方がなかった。
だからこそ、状況が変わっても勝ち方を変えることができた。
目的を固定し、手段を固定しない。
これが秀吉から読み取れる「合目的経営」である。
そして、ここから次の問題が生まれる。
自社に人がいない。
資金がない。
設備がない。
技術がない。
販路がない。
それなら、本当にすべてを自社で揃える必要があるのだろうか。
持っていないなら、外にある経営資源を使えばいい。
次回は、秀吉が限られた経営資源をどう組み替え、
足りない力を補いながら組織を拡大していったのか。
1→10に必要な「経営資源の使い方」を考えてみたい。
次回予告
戦国三英傑シリーズ|第5話
経営資源―なぜ「足りないもの」を自社で揃える必要はないのか
~秀吉に学ぶ、人・物・金・情報・時間を組み替える経営~
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