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戦国三英傑シリーズ|第5話 経営資源―なぜ「足りないもの」を自社で揃える必要はないのか

~秀吉に学ぶ、人・物・金・情報・時間を組み替える経営~

会社を成長させようとすると、必ず「足りないもの」が出てくる。

人が足りない。
資金が足りない。
設備が足りない。
技術がない。
販路がない。
ブランド力もない。

そこで多くの経営者は考える。

人が足りないなら採用しよう。
設備が足りないなら購入しよう
技術がなければ開発しよう。
営業力が足りなければ営業部門を作ろう。

もちろん、それも一つの方法である。
しかし、本当にすべてを自社で持つ必要があるのだろうか。

「持っていない」ことと、
「使えない」ことは違う。

豊臣秀吉の1→10を経営として見ると、この違いがよく分かる。
秀吉は、自分が持っている経営資源だけで戦おうとしなかった。

必要なら借りる。
人を動かす。
相手の力を利用する。
組織を組み合わせる。
情報を使う。
そして、ときには敵だった相手まで自分の力へ変えていく。

何を持っているかではない。
持っているもの、そして使えるものを、どう組み合わせるか。

ここに1→10の経営がある。


1.会社の成長を「自社の資源」だけで考えない

経営資源は一般に、

人・物・金・情報

と言われる。
私は、ここにもう一つ加えたい。

時間である。

どれだけ優秀な経営者でも、一日は24時間しかない。
どれだけ成長した会社でも、
競合より10年遅れて市場へ参入すれば不利になる。
だから企業の成長を考えるとき、

「何を持っているか」

だけを見てはいけない。
どれだけ早く、その経営資源を使える状態にできるか
まで考える必要がある。

自社で一から作れば3年かかる。
しかし他社と組めば3か月でできる。
それなら、どちらが正しいのか。

答えは、目的によって変わる。
前回の「合目的経営」とつながってくる。


2.「自前主義」が成長速度を止める

会社が小さいうちは、自分たちでやることが多い。
しかし事業が成長しても、
「全部、自社でやる」を続けると、成長速度は遅くなる。

例えば全国へ商品を販売したい会社があるとする。

自社で営業所を全国に作る。
営業社員を採用する。
教育する。
倉庫を作る。
物流網を整備する。

これには時間も金もかかる。
しかし、すでに全国に販売網を持つ企業と提携できればどうだろう。

自社には販売網がない。
だが、

市場には、すでに販売網が存在している。

自社が所有していないだけである。
ここで問いを変える。

「どうすれば全国販売網を作れるか」ではない。
「どうすれば全国販売網を使えるか」と考える。

この違いは大きい。


3.経営資源は「所有」しなくても使える

工場が必要なら、工場を建てる。
物流が必要なら、物流部門を作る。
システムが必要なら、自社開発する。
営業力が必要なら、営業社員を採用する。

これが自前主義である。
しかし、経営資源を使う方法は所有だけではない。

外注。
業務提携。
共同開発。
共同購買。
販売代理。
物流共同化。
合弁会社。
フランチャイズ。
そしてM&A。

目的によって、使い分ければいい。
重要なのは、

「所有すること」が目的ではない

ということである。
必要な経営資源を、

必要なときに、
必要な量だけ、
目的達成のために動かせればいい。

会社の大きさと、動かせる経営資源の大きさは同じではない。

小さな会社でも、外部の力を使えば大きな仕事はできる。


4.秀吉は「自分の軍」だけで天下を取ったのではない

秀吉が天下統一へ向かう過程を見ると、
自分の直属の兵だけですべてを征服していったわけではない。

毛利氏。
宇喜多氏。
徳川氏。
前田氏。

その他、多くの大名や勢力が、
さまざまな経緯を経て秀吉の秩序へ組み込まれていく。
かつて戦った相手であっても、
徹底的に消滅させることだけが選択肢ではなかった。

必要なら残す。
役割を与える。
その軍事力や領国経営能力を、新しい秩序の中で利用する。

もちろん、すべての相手を同じ方法で処遇したわけではない。
しかし構造として見ると、

相手の経営資源を壊してゼロにするのではなく、自分の成長力へ変える

という発想が見えてくる。
これは現代企業の成長戦略にも通じる。


5.競合は「倒す相手」とは限らない

同じ地域に、似た規模の会社が5社あるとする。
それぞれが、

人手不足。
採用難。
資材価格の上昇。
IT投資負担。
物流コスト。
営業力不足。

という同じ問題を抱えている。
それでも、「競合だから」という理由で、すべてを別々に行う。
本当にそれが最適なのだろうか。

5社で共同購買すれば、仕入量をまとめられる。
共同配送すれば、物流費を下げられるかもしれない。
共同でシステムを導入すれば、一社当たりの負担を減らせる。
一社では受注できない大型案件も、企業連合なら受注できる可能性がある。

つまり、
一社では弱くても、連合すれば強者と戦える。

競合とは、
必ずしも倒す相手ではない。
目的によっては、
一緒に市場を取りに行く仲間にもなる。


6.これはM&Aだけの話ではない

「相手を取り込む」と聞くと、
M&Aを想像するかもしれない。
しかし、会社を買収する必要はない。

業務提携でもいい。
資本提携でもいい。
共同事業でもいい。
販売だけ組んでもいい。
技術だけ借りてもいい。
共同購買だけでもいい。

重要なのは、
「なぜ全部、自社で持たなければならないのか」
と問い直すことである。

自社で持つべき経営資源。
他社と共有した方がいい経営資源。
外部から借りた方がいい経営資源。
買収した方がいい経営資源。

それぞれ違う。
経営者が考えるべきなのは、
所有の範囲ではない。

目的を達成するために、どこまでの経営資源を動かせるか

である。


7.M&Aで「会社を買ったのに価値を失う」理由

では、M&Aを選んだ場合はどうだろう。
会社を買収すると、
買った側は自社のやり方へ統一したくなる。

システムを変える。
人事制度を変える。
評価制度を変える。
仕入先を変える。
ブランドを変える。
経営者を変える。

確かに統合によって効率化できる部分もある。
しかし、急ぎすぎると大切なものまで失う。

その会社の商品を知る社員。
顧客との関係。
地域での信用。
独自のノウハウ。
企業文化。

買収した理由そのものだった価値が、
統合によって消えてしまうことさえある。
つまり、

会社は買ったが、企業価値は買えなかった。

ということが起きる。

秀吉的に考えるなら、
相手を自分と同じにすることが目的ではない。

相手が持っている価値を、自分の成長へどう生かすか。

こちらが目的になる。


8.ローマ帝国も「取り込む」ことで大きくなった

この構造は、戦国時代だけのものではない。
以前取り上げたローマ帝国にも、似た考え方を見ることができる。

ローマは征服した地域を、
すべて同じ形で破壊し、住民を入れ替えていったわけではない。
時代や地域によって方法は異なるが、

現地の有力者。
行政。
文化。
宗教。
都市。
そして兵力。

既存の仕組みを利用しながら、
より大きなローマの秩序へ組み込んでいった。
すべてを自前で作り直していたら、
あれほど広大な領域を維持することは難しかっただろう。

これは企業でも同じである。
相手を取り込むとは、

相手を自分と同じにすることではない。

相手の強みを残したまま、
より大きな目的の中で機能させることである。

「支配する」のではなく、「参加させる」。

巨大組織を作る一つの方法である。


9.経営資源を増やすより「組み合わせ」を変える

ここまで考えると、
企業成長について別の見方ができる。

社員100人の会社を1000人にする。
工場を1つから10にする。
資本金を10倍にする。

もちろん、それも成長である。
しかし1→10では、
経営資源の量だけを見るべきではない。

人。
物。
金。
情報。
時間。
取引先。
競合。
顧客。
技術。
販売網。
ブランド。

これらを、

どう組み合わせれば、最も大きな成果になるか。

こちらを見る。
例えば、

自社の商品 × 他社の販売網。
自社の顧客 × 他社の技術。
自社のシステム × 同業他社の現場。
自社の資金 × ベンチャー企業のアイデア。

組み合わせが変われば、
同じ経営資源でも生み出す価値は変わる。

1+1を2にするのではない。
組み合わせによって、3にも5にも10にもする。

これが経営者の仕事になる。


10.1→10とは「会社を10倍にすること」ではない

ここで、このシリーズにおける1→10をもう一度考えてみたい。
1→10とは、

社員を10倍にすることではない。
資産を10倍にすることでもない。
店舗数を10倍にすることでもない。

経営者が動かせる経営資源を広げ、
その組み合わせによって成果を10倍へ近づけることである。

自社にないなら、外から使う。
競合なら、組めないか考える。
足りなければ、借りる。
必要なら買う。
買収したなら、相手の強みを残す。
そして不要になれば、手放すことも考える。

ここでも前回と同じ原則へ戻る。
目的を固定し、手段を固定しない。

秀吉の強さは、
何でも持っていたことではない。
むしろ最初は、
家柄も領地も軍隊も持っていなかった。

だからこそ、

「自分が持っているものだけで戦う」

という発想に縛られなかったのだろう。


まとめ

会社が成長すると、
必ず経営資源が足りなくなる。
しかし、そのとき経営者が最初に考えるべきなのは、

「どうやって手に入れるか」ではない。
「本当に自社で持つ必要があるのか」

である。

人・物・金・情報・時間。

すべてを所有する必要はない。
借りてもいい。
共有してもいい。
提携してもいい。
連合してもいい。
必要ならM&Aをしてもいい。

重要なのは、
所有することではなく、目的達成に必要な経営資源を動かせることである。

秀吉は、相手を倒すだけではなく、
相手の力を自らの成長へ取り込んでいった。
だから、

自分の組織の大きさ以上の力を動かすことができた。

これが1→10における、
もう一つの「経営者の腕力」ではないだろうか。
そして会社がさらに成長するためには、
既存市場の中で経営資源を増やすだけでは足りなくなる。
競合からシェアを奪うだけではなく、

自分たちが優位に立てる市場そのものを作る

という選択肢が出てくる。
秀吉が築いた大坂城も、
単なる巨大な城として見るだけでは、その意味は見えてこない。

人が集まる。
物が集まる。
金が集まる。
情報が集まる。

それらが動く場所を押さえる。
そこには、

「市場で戦う側」から「市場を作る側」へ

移ろうとする構造が見えてくる。


次回予告

戦国三英傑シリーズ|第6話
市場創造―なぜ「シェアを奪う」だけでは会社は大きくならないのか
~秀吉に学ぶ、競争・提携・M&A・新市場を使い分ける成長戦略~


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