戦国三英傑シリーズ|第2話 競争戦略― 弱者は、どうすれば強者に勝てるのか
~信長に学ぶ、橋頭堡を築き市場シェアを奪う経営~
大企業と中小企業が、同じ市場で戦えば、
資金力で負ける。
人材の数でも負ける。
ブランド力でも負ける。
営業拠点の数でも負ける。
広告宣伝費でも負ける。
それでも中小企業が、
「商品をもっと良くしよう」
「営業人数を増やそう」
「もっと広告を出そう」
と考えたらどうなるだろう。
それは、
強者が最も得意とする戦場で、強者と同じ戦い方をする
ということになる。
弱者が強者に勝つために必要なのは、
強者と同じ力を持つことではない。
自分が勝てる市場を見つけ、そこで勝てる条件を作ることである。
約450年前、
圧倒的な兵力差を前に、それを実践した人物がいた。
織田信長である。
1.弱者は「市場全体」を取りに行ってはいけない
市場規模1000億円。
業界トップ企業のシェア30%。
自社のシェア1%。
この状態で、
「トップ企業に勝つ」
という目標を掲げても、社員は何をすればいいのか分からない。
しかし市場を細かく分解したらどうだろう。
地域。
顧客層。
価格帯。
用途。
販売チャネル。
商品カテゴリー。
市場全体では1%でも、
ある地域では10%。
ある顧客層では20%。
ある商品カテゴリーなら30%を取れるかもしれない。
ここが弱者の入口になる。
最初から市場全体を取ろうとしない。
まず、自分が勝てる小さな市場を取る。
そこを橋頭堡にして、次の市場へ進むのだ。
2.シェア率は、会社の戦闘力を変える
市場シェアというと、
「売上が増えること」
と思われがちだが、実はそれだけではない。
一定の市場で存在感を持てば、
顧客から認知される。
取引先との交渉力が上がる。
採用もしやすくなる。
情報が集まる。
取引量が増えれば仕入条件も変わる。
利益が増えれば、次の投資もできる。
つまり、
市場シェアは、次の市場を取るための戦闘力になる。
売上を増やす。
利益を出す。
その利益を、人材、設備、システム、商品開発へ再投資する。
生産性を上げる。
競争力を高める。
そして、さらに市場シェアを取る。
シェア → 利益 → 投資 → 生産性 → 競争力 → 次のシェア
この循環を作ることができれば、
小さな会社でも徐々に大きな相手と戦えるようになる。
3.桶狭間を「奇襲」で終わらせてはいけない
1560年、
今川義元は大軍を率いて尾張へ進軍した。
対する織田信長の兵力は、およそ10分の1だった。
普通に考えれば、信長は不利である。
ここで、「信長は奇襲によって大軍を破った」
と説明すれば、歴史の話は終わる。
しかし経営として見ると、大切なのはその先である。
もし信長が、
「今川軍全体を倒す」
ことを目的にしていたらどうだっただろう。
兵力差の大きな相手と全面的に戦うことになる。
そこで信長が狙ったのは、
巨大な軍全体ではなく、
今川義元という指揮中枢だった。
強者のすべてと戦わない。
勝敗を決める場所を絞る。
これは現代企業にも通じる有効な戦略だ。
4.大企業の「全部」と戦う必要はない
大企業には多くの強みがある。
資金。
ブランド。
人材。
販売網。
商品数。
顧客基盤。
信用力。
しかし、そのすべてで勝つ必要はない。
自社が勝敗を決められる一点を探せばいい。
例えば大企業の商品数が1000あるなら、
中小企業が1000の商品を揃える必要はない。
一つの商品カテゴリーだけで、
品質、価格、納期、専門性を徹底的に高めてもいい。
全国展開している企業なら、
全国で戦う必要もない。
一つの地域だけで圧倒的なシェアを取ってもいい。
すべての顧客を取る必要もない。
特定の顧客だけに、
大企業ではできないサービスを提供してもいい。
つまり、
強者の強みを消そうとするのではなく、強者の強みが効かない戦場を選ぶ。
これが弱者の競争戦略である。
5.戦う前に「情報」を取る
戦う場所を決めるためには、情報が必要になる。
信長は敵の動向や地形などの情報を重視したことで知られる。
桶狭間でも、
敵がどこにいるのか。
どのように動いているのか。
どこに本陣があるのか。
自分たちはどこから動けるのか。
こうした情報なしに、少数側が勝機をつかむことは難しい。
これは現代の経営でも同じである。
市場規模はどれくらいか。
競合のシェアはどれくらいか。
顧客は何に不満を持っているのか。
競合の強みは何か。
逆に、競合が対応できていない顧客は誰なのか。
市場はこれからどちらへ動くのか。
弱者ほど、
「売る前に調べる」
必要がある。
大企業より資金が少ないなら、
一回の失敗が与えるダメージは大きい。
だからこそ、
情報によって、戦わなくていい場所を捨てる。
そして勝てる場所へ経営資源を集中するのだ。
6.橋頭堡を取ったら、そこから市場を広げる
一つの市場で勝っただけでは、会社は大きくならない。
重要なのは、
最初の勝利を次の成長へどう使うか
である。
信長にとって桶狭間は天下統一ではない。
今川義元を破ったことで、すぐに全国の覇者になったわけでもない。
しかし、その勝利によって信長を取り巻く環境は変わった。
今川氏の尾張方面への圧力が弱まり、
その後、松平元康、のちの徳川家康との関係も変化していく。
信長は次第に美濃へ力を向けることができるようになる。
つまり一つの勝利が、
次の市場へ進むための橋頭堡
になったのである。
企業も同じだ。
一地域で成功したら、その隣へ行く。
一商品で顧客を獲得したら、関連商品を販売する。
一業界で信用を得たら、近接業界へ進出する。
最初の市場は、
最終目的ではない。
次の市場へ進むための足場である。
7.売上だけでなく「現金を生む市場」を持つ
企業が市場を拡大するには資金が必要になる。
人を採用する。
設備を導入する。
新商品を開発する。
営業拠点を増やす。
システムを導入する。
すべてに金がかかる。
だから0→1の段階では、
売上だけでなく、
キャッシュを生み出せる事業基盤
を持つことが重要になる。
尾張には津島など、水運と商業によって栄えた地域が存在した。
信長以前から発展していた商業基盤ではあるが、
織田氏にとって、こうした経済圏を押さえる意味は大きかった。
戦を続けるには兵だけでは足りない。
兵糧も武器も移動も情報も、
最後には経済力が必要になる。
現代企業でも、
利益を生まないシェアは、長期的な戦闘力にはならない。
市場を取る。
利益を生む。
その利益を次の成長へ投資する。
この循環があって初めて、
橋頭堡は事業基盤へ変わる。
8.人を増やす前に、生産性を上げる
会社が成長すると、
「もっと人が必要だ」と考える。
しかし人を増やすだけでは、売上と一緒にコストも増える。
重要なのは、
一人当たりの戦闘力を上げること
である。
信長の軍事を経営に置き換えて考えると分かりやすい。
戦国社会では農業と軍事は密接につながっていたが、時代が進むにつれて、より専門的・継続的に軍事を担う家臣や兵の重要性が高まっていく。
信長もまた、拡大する戦線を支えるため、
専門性の高い軍事組織を活用していった。
現代企業なら、
営業と製造の専門化 と考えることができる。
営業は顧客開拓に集中する。
製造は品質と生産性に集中する。
物流は物流の専門家が担う。
経理、人事、ITも同じである。
全員が何でもやる組織から、
役割を分け、専門性を高める組織へ変える。
会社が大きくなるほど、この転換が必要になる。
9.武器とは「人を強くする仕組み」である
信長を語るとき、鉄砲は欠かせない。
もちろん、鉄砲を日本へ持ち込んだのは信長ではない。
重要なのは、
新しい武器を、戦い方の中へどう組み込むか である。
現代企業にも武器がある。
機械。
システム。
IT。
データ。
そして現在ならAIもその一つである。
AIを導入すること自体に意味があるのではない。
一人の営業担当者が10社しか担当できなかったものを、
仕組みによって20社担当できるようにする。
一人の事務担当者が一日かけていた仕事を、一時間で終わらせる。
熟練者にしかできなかった仕事を、
標準化して他の社員でもできるようにする。
つまり武器とは、
人を減らすためのものではなく、人の戦闘力を高めるためのもの
と考えればいい。
弱者が強者と戦うなら、
人数を同じにするのではなく、
一人当たりの生産性を上げる
という方法がある。
10.弱者が強者になる瞬間
弱者の戦略は、
いつまでも弱者でいるための戦略ではない。
勝てる小さな市場を選ぶ。
そこでシェアを取る。
利益を生む。
情報を集める。
人材を専門化する。
機械やシステムを導入する。
生産性を上げる。
そこで生まれた経営資源を、
次の市場へ投入する。
この循環を繰り返せば、
企業の戦闘力そのものが変わっていく。
最初は市場の1%しか持っていなかった企業が、
あるカテゴリーでは30%を取る。
そこで得た利益とブランドを使って隣の市場へ進む。
すると、
昨日までの弱者が、次の市場では強者になる。
信長の勢力拡大も、
一つの戦だけで説明することはできない。
勝利によって条件を変え、
その条件を使って次の勝利を作っていった。
ここに競争戦略の本質がある。
まとめ
弱者が強者に勝つために必要なのは、
強者と同じものを持つことではない。
強者と同じ条件で戦わないことである。
市場を分解する。
勝てる場所を選ぶ。
情報を集める。
経営資源を集中する。
そこでシェアを取る。
利益を生み出す。
その利益を、人材、設備、システムへ再投資する。
そして次の市場へ進む。
市場シェアとは、単なる売上の数字ではない。
次の市場を取るための戦闘力である。
桶狭間で信長が手に入れたものも、
一つの戦の勝利だけではなかった。
次の市場へ進むための条件だった。
しかし、市場が広がれば、次の問題が起きる。
社長一人では、
すべての市場を見ることができなくなる。
すべての顧客に会うことも、
すべての社員へ指示を出すこともできない。
そこで必要になるのが、
組織化と権限移譲である。
次回は、
「社長が頑張る会社」から「組織で勝つ会社」へ、どう変えるのか。
信長が全国へ勢力を広げる過程から考えてみたい。
次回予告
戦国三英傑シリーズ|第3話
組織化―なぜ社長一人では全国市場を制覇できないのか
~信長に学ぶ、全国展開と権限移譲~
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