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孫子の兵法|第3話 なぜ人は「計る前に動いてしまう」のか ~顔色・前例・空気が判断を奪う~(計篇)

孫子は、戦い方の前に
「計(はかりごと)」を置きました。

勝つためではありません。
致命的な判断ミスを避けるためです。

にもかかわらず、人はなぜ
計る前に動いてしまうのでしょうか。

それは、能力不足でも
知識不足でもありません。

多くの場合、
判断を引き受けたくない心理が先に立つからです。


顔色・前例・空気が判断を奪う

日本の組織で、特に多く見られる現象があります。

・上司がこう言ったから
・前にこれで怒られなかったから
・皆がそうしているから

一見すると「慎重」に見えますが、
実際に起きているのは、こういうことです。

判断基準が、事実ではなく「空気」にすり替わっている

この瞬間、
計(はかりごと)は消えます。

・勝てるかどうか
・負け筋はどこか
・撤退ラインはどこか

こうした問いは立てられず、
「問題にならないこと」だけが目的になります。

これは判断ではありません。
責任回避です。


前例踏襲が判断を鈍らせるとき

前例そのものが悪いわけではありません。
問題は、前例が思考停止の理由になることです。

かつてのシャープでは、
社長が代わるたびに新工場を建設する、
という慣習が繰り返されていました。

当時は合理的でした。
成功体験もありました。
誰かが間違っていたわけではありません。

しかし、

「前もそうだったから」

という判断基準が固定された瞬間、
環境変化を計る力は失われていきました。

前例は、本来
比較対象の一つでしかありません。

基準になった瞬間、
計は壊れます。


「やっているフリ」が最も危険

さらに厄介なのが、
やっているフリです。

・会議はしている
・資料は揃っている
・検討した形跡はある

しかし、

・何と何を比べたのか
・どこで勝てないと判断するのか
・失敗したらどこで退くのか

これが誰も言語化できていない。

これは
「計っていない」のではありません。

計っているつもりになっている状態です。

孫子が最も警戒したのは、
まさにこの状態でした。

なぜなら、

・負けていることに気づけない
・撤退の判断ができない
・判断を修正できない

からです。


上司の言葉を「尊重する」という判断放棄

自分の判断を捨て、
「上司の言葉を尊重する」。

これも「やってるフリ」同様、
非常に危険な行動です。

・社長はこうしたいと言っていた
・こうすれば上手くいくと力説していた
・自分の意見を言っても、どうせ通らない
・計画は既に決まっていて、実行を任されただけ

これは、日本の会社ではよくある光景です。

特に予算作成の場面では、
「君の部署はいくらの利益を出せるか」と問われ、
会話で出た数字を
暗黙の了解で予算に落とし込むことがあります。

内心では、
「どう考えても無理だ」と思っていても、

・社長が言ったから
・役員が決めたから

努力目標として頑張ろう。
という形で話が進む。

ここには
計もなければ、意思もありません

これはまさしく、
出たとこ勝負です。


孫子が否定したのは「勇気」ではない

孫子は、
勇気を否定していません。
行動を否定していません。

否定したのは、
出たとこ勝負です。

・とりあえずやる
・走りながら考える
・後で修正すればいい

これらは一見、前向きに見えます。

しかし、

・撤退基準がない
・負け筋を想定していない
・責任の所在が曖昧

この状態は、
負ける前提で動いているのと同じです。


計とは何か

ここで重要なことがあります。

計とは、
未来を当てることではありません。

・判断を誤らないための準備
・致命傷を避けるための設計

これが計です。

・どこで勝てなくなるか
・どこで撤退するか
・どこで判断を変えるか

これを事前に持たない限り、人は必ず

・顔色を見る
・前例にすがる
・空気に流される

ようになります。


次回予告【第4話】
五事とは何か ~道・天・地・将・法で、孫子は何を見ていたのか~

計篇の核心である 五事
ーー道・天・地・将・法を見ていきます。

ここから、
判断が歪む正体が、さらに明確になります。

孫子の兵法シリーズ目次 ※最新記事までの全話が確認頂けます

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