サステナビリティを「顧客価値」に変える――KIRIN CSV戦略チームとの対話より
こんにちは、ファブリックのプログラムディレクターの柳です。
本年もどうぞよろしくお願いいたします!
昨年2025年12月23日、KIRIN(キリンホールディングス株式会社)のCSV戦略部の皆さまがFabricのオフィスを訪問してくださり、弊社メンバーとともにディスカッションおよびワークショップの場を設けました。
本記事では、当日の様子を写した写真も交えながら、その時間を振り返るFabricメンバー同士の対談としてまとめています。
KIRINさんとはB Corpの勉強会やイベントなどで以前から親睦を深めており、弊社開催のイベントにも頻繁に参加いただいているご縁から、今回の企画が実現いたしました!
当日はサステナビリティを軸に、資源循環や脱炭素の課題、地域とのつながり、さらには社内外のステークホルダーをどのように巻き込んでいくかといったテーマについて、互いの取り組みを共有しながらディスカッションを行いました。
いずれも、「正しいこと」を掲げるだけでは前に進まない、非常に難易度の高い領域です。だからこそ、率直で活発な意見交換ができました。

ディスカッションやワークショップを通じて特に印象的だったのは、KIRINのCSV戦略部の皆さまが、環境負荷を低減する取り組みを、どのように社会的価値や事業価値へと接続していくのかについて、本気で悩み、向き合っていた姿勢です。弊社を含めた参加者の全員が当然ながら、「自分ごと」として捉え、日々の業務やこれまでの取り組みを振り返りながら、さまざまな問いを互いに投げかけていました。
本記事は、サステナビリティを理想論として語るのではなく、現場の思考として捉え直す試みでもあります。ぜひ最後までお読みいただけると幸いです。
理想論じゃない“本気の悩み”を体感
柳(プログラムディレクター)
まず率直に、今回のセッションを終えて、(KIRINの)みなさんの印象はどうでしたか?私が感じたのは、理想論を語るのではなく、堅実に一歩一歩進める行動力やレジリエンスのようなものでした。
関根(サステナビリティストラテジスト)
同感です。真っ先に感じたのは、「これは表層的な悩みじゃないな」ということでした。
環境負荷を下げる、資源を循環させる——
そうした“やるべきこと”については、すでに十分な知識も経験もある。
でも、その先。
それをどう事業として成立させるのか。
どうすれば、顧客にとっての価値として届くのか。その部分で、真正面から壁にぶつかっている印象がありました。
簡単な答えが出ないからこそ、思考が深い。そんな印象を受けました。
山中(シニアストラテジスト)
私が印象的だったのは、距離感のなさです。「会社としてやっています」ではなく、「自分の人生のテーマとして向き合っている」空気があった。ある方が「ライフワークなんです」と話していたのが象徴的でした。
藤原(サステナビリティストラテジスト)
そうですよね。あれは、簡単な答えが出ない領域に、長く向き合ってきた人たちから発信される言葉だと思いました。CSVという言葉の表層ではなく、その“重さ”をしっかりと引き受けている感じがありました。
柳:CSVって、ともすると理想論に見られがちだけど、実際の現場はかなり現実的で、泥臭くて、情熱と推進力がいる仕事なんだなと、改めて実感しました。

毎日使われているのに、なぜ語られないのか
——消費財という、いちばん難しいフィールド
柳:議論の中で何度も行き来したのが、消費財ならではの難しさでしたよね。
関根:消費財って、生活の中での接点が本当に多い。飲む、買う、捨てる。毎日の行動に自然に入り込んでいる。本来は、ブランドとして語れる瞬間が無数にあるはずなんです。
山中:でも実際には、その接点の多さが、逆に思考を止めている気もします。「当たり前すぎて考えない」という状態。
藤原:価格帯が低く、選択の負荷が小さい商品ほど、その傾向は強いですよね。差別化が難しくて、“考えずに選ばれる存在”になる。
関根:そうなんです。だからこそ、サステナビリティをどう重ねるかが難しい。“いいことをしています”と主張した瞬間に、むしろ距離が生まれてしまうケースもある。
柳:今の話を聞いていて思ったのは、接点が多いことと、関係が深いことは全然イコールじゃない、ということですね。むしろ、近すぎるからこそ見えなくなる。
山中:距離が近い分、あらためて意味を考える余白がないんですよね。
藤原:消費財×サステナの難しさって、そこに集約されている気がします。

「正しいこと」を言った瞬間、人は離れていく
——行動は、理解よりも先に起こる
柳:この流れで、かなり議論が揺れたのが「どう伝えるか」でしたよね。というか、「本当に伝える話なのか?」というところまで行った。
山中:「サステナブルだから選んでください」と言われた瞬間、人は無意識に“評価される側”になると思うんです。それって、少し身構えてしまう。
関根:ワークショップで出てきた「気づいたら、やっていた状態をどう作るか」という話は、すごく示唆的でした。人って、理解してから動くより、動いてから意味づけすることの方が多い。
藤原:だから、伝え方以前に行動の設計がある。どういう導線なら、無理なく参加できるか、自然に選ばれるか。
山中:ただ、そこに引っかかりもあって。「それって、本当に顧客価値になるの?」という問いは、ずっと残っていました。
関根:たしかに。“伝え方を工夫すれば価値になる”のか、“価値そのものを再定義しないといけない”のかで、戦略は全然違う。
柳:この問いが出たことで、議論がコミュニケーションの話から、価値設計の話に一段ギアが上がった感覚がありました。
藤原:正直、まだ答えは出ていない。でも、この揺れ自体が大事だった気がします。

答えを出し過ぎない、という選択
——点と点をつなぐ“構造づくり”の価値
柳:ここで改めて、Fabricとして何ができたのかを考えると、どう感じますか?
藤原:CSVの現場って、とにかく「点」が多いんですよね。資源、排出量、容器、地域、サプライヤー、経営陣、消費者。それぞれが、それぞれの立場で正しいことを言っている。
関根:でも、正しさが増えれば増えるほど、全体像が見えなくなる。
山中:「全部大事」という状態が、一番思考を止めてしまう感じがあります。
藤原:Fabricがやったのは、答えを出すことではなく、「この点とこの点は、実は同じ構造の話ですよ」とつなぐことだったと思います。横串を刺すことで、考える順番が整理されていった。
柳:結論よりも、「考え方が変わる瞬間」に価値がある。ワークショップの本質を、改めて実感しました。

1円の差で競争する世界で、理想はどう生き残るのか
柳:価格の話は、かなり現実を突きつけられましたよね。
関根:1円、数銭単位で競争している世界で、サステナ対応はどうしても短期的にはコストに見えてしまう。
山中:その結果、どこかが抜け駆けしやすい構造が生まれる。
藤原:だからこそ、個社努力だけでは限界がある。「業界で集まる場」や「共通の前提」をつくる発想が必要になる。
関根:競合ではなく、同じ課題を抱える仲間として再定義する視点ですよね。
柳:簡単じゃないけれど、できたときの社会的インパクトは相当大きいと思います。

抽象論が“自分ごと”になった瞬間
——地域というリアリティ
柳:個人的に空気が変わったなあと思ったのは、地域の話が出てきたときでした。
山中:スリランカや岩手といった具体的な地名が出た瞬間、議論が一気に現実味を帯びました。
関根:マス商品でありながら、地域の物語を背負えるかどうか。これは消費財にとって、すごく強い差別化軸になる。
藤原:抽象的な「環境配慮」より、具体的な「場所」や「人」の話の方が、圧倒的に伝わる。
山中:「顔が見える」ことで、初めて自分ごとになる感覚がありますよね。
柳:サステナビリティを思想ではなく、風景として語れるか。ここに大きなヒントがあったと思います。

「やるかどうか」ではなく、「どう設計するか」
柳:この対話を通じて、何を持ち帰りましたか?
関根:サステナビリティは、もう「やるか・やらないか」の議論ではない。
山中:問われているのは、どう設計すれば、人が自然に関われるか。
藤原:価値の翻訳、仲間の巻き込み、実装への接続。設計すべき要素は、かなり見えてきていると思います。
柳:簡単ではないけれど、あの場には確かに、前に進むための思考と熱量がありました。

Fabricのスタンス|問いを、前に進む力に変えるために
Fabricでは、正解がひとつではないテーマに対して、「答えを出す」よりも先に、問いの構造、関係性、意思決定のプロセスを設計することを大切にしています。
対話やワークショップを一過性の場で終わらせず、価値の翻訳から実装までをつなぐ「思考と行動の流れ」としてデザインする。
それが、私たちがこの領域で果たせる役割だと考えています!
Fabricでは、正解がひとつではないテーマに対して、「答えを出す」ことよりも先に、問いの構造や関係性、意思決定のプロセスを設計することを大切にしています。
対話やワークショップを一過性の場で終わらせるのではなく、価値の翻訳から実装までをつなぐ「思考と行動の流れ」としてデザインする。
それが、私たちがこの領域で果たせる役割だと考えています。
今回のように、Fabricのオフィスでディスカッションやワークショップを体験してみたい企業様・団体様がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
そして、KIRIN CSV戦略部の皆さま、学びの多い時間を本当にありがとうございました。
