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【個人開発者必見】開業届 完全マニュアル

個人開発でちょっとでも収入が入ったとき、最初にぶつかるのが「開業届って出すの?」です。

自分も今年アプリの協賛収入で初めて事業収入が発生して、全部を国税庁と e-Gov の一次情報で調べ直しました。そのとき、ネットの記事の大半が古い or 間違っていることに気づいたので、まとめて置いておきます。

この記事を読めば、開業届の判断から提出、その後の帳簿管理まで全部わかるようにしました。長いので、気になる章から読んでください。

⚠️ 自分は税理士ではありません。全部の記述に国税庁・e-Gov・各自治体の一次情報のリンクを付けています。最終判断は必ずご自身で原典を確認するか、税務署・税理士に相談してください。

目次

  1. この記事を書いている人と、作っているもの

  2. まず結論

  3. 【重要】2026年から開業届の期限が変わりました

  4. 開業届を出すメリット

  5. 開業届を出すデメリット・注意点

  6. 扶養はどうなるのか(103万円の壁の説明はもう古い)

  7. 【学生向け】親の扶養から絶対に外れたくない人の運用方法

  8. 青色申告65万円控除の条件

  9. 【2027年分から】青色申告特別控除が改正されます

  10. 開業日はいつにするか/開業費を使い倒す

  11. 実際の出し方 — 書く内容を全部載せます

  12. 県への届出は要るのか問題

  13. 帳簿はどう管理すればいいのか

  14. 個人開発者がハマりやすいポイント

  15. チェックリスト

  16. 出典

0. この記事を書いている人と、作っているもの

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で、なぜ開業届の記事を書いているのか

スポンサーがついた瞬間、人生初の事業収入が発生しました。うれしかったのも束の間、次に来たのが「え、これ税金どうすんの?」でした。

プログラミングと同じで、税金の知識もゼロです。開業届が何なのかも知りませんでした。

そこから国税庁とe-Govを1つずつ読んで、税務署に電話して、全部調べ直したのがこの記事です。

つまりこれは税理士が書いた一般論ではなく、個人開発者が自分ごととして国税庁とe-Govを読み倒した記録です。だからこそ「会計ソフトが県の書類を作ってくれない」「Macだと開業届をe-Taxで出せない」みたいな、実際に手を動かさないと絶対に気づかないところまで入っています。

同じところで詰まる人が減ればうれしいです。

1. まず結論

先に要点だけ書きます。

  • 開業届は「事業」をしているなら出す義務がある(所得税法229条)

  • ただし開業届そのものにはほぼ意味がない。本当に価値があるのはセットで出す青色申告承認申請書のほう

  • 期限は開業届より青色申告承認申請書のほうが圧倒的にシビア。1日遅れると65万円の控除が消える

  • 学生で親の扶養に入っている人は、税・住民税・健康保険で基準がバラバラ。特に多子世帯の授業料無償化を受けているなら防衛ラインが変わります(→ 6章)

  • 都道府県への届出も別にある。会計ソフトが作ってくれないので存在自体を知らない人が多い

  • Macユーザーは国税庁の公式ソフトだけでは開業届を電子提出できません。 自分は freee開業(無料) を使ってスマホから出しました。これがいちばんラクでした(→ 10-3)

出す書類は最大3つ

① 個人事業の開業・廃業等届出書 出す先は税務署。期限は開業した年分の確定申告期限(=翌年3月15日)。

② 所得税の青色申告承認申請書 出す先は税務署。期限はその年の3月15日。ただし1月16日以後の開業なら開業日から2か月以内

③ 個人事業開始等の届出(名称は都道府県によって違います) 出す先は都道府県税事務所。期限も都道府県によって違い、多くは1か月以内、東京都は15日以内です。

2. 【重要】2026年から開業届の期限が変わりました

ネットの記事の9割がまだ「開業から1か月以内」と書いていますが、これは2025年までの話です。

所得税法229条が改正され、2026年1月1日以後の開業から提出期限が変わりました。e-Gov法令検索で新旧を突き合わせるとこうなっています。

改正前(2025年12月31日まで)

…その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。

改正後(2026年1月1日から)

…その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない。

改正したのは令和7年法律第13号(所得税法等の一部を改正する法律)です。国税庁の手続案内ページ「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」も、すでに次のように更新されています。

[提出時期] 事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください。

つまりどうなるのか

2026年に開業した人の開業届の期限は2027年3月15日。丸々1年以上あります。「1か月過ぎちゃった、どうしよう」と焦る必要はもうありません。

ただし油断は禁物です。青色申告承認申請書の期限(開業から2か月以内)は改正されていません。 実質的な締切はこちらです。

3. 開業届を出すメリット

正直に言うと、開業届そのもののメリットはほとんどありません。 本体は「開業届を出すことで開ける扉」のほうです。

① 青色申告ができる(これが9割)

青色申告承認申請書は開業届とセットで出すのが普通です。青色にすると次が使えます。

  • 青色申告特別控除 最大65万円 … 所得から65万円引ける。所得税・住民税・国民健康保険料が全部下がる

  • 赤字を3年間繰り越せる(純損失の繰越控除) … 個人開発は初年度赤字になりがちなので効く

  • 家事按分の要件が緩くなる … 自宅の家賃・光熱費・回線費を事業分だけ経費にできる。白色だと「業務遂行上必要な部分を明らかに区分できる」場合に限られるのに対し、青色は所得税法施行令96条2号でより緩い基準が使える

  • 家族への給与を全額経費にできる(青色事業専従者給与)

なお最後の青色事業専従者給与は、青色申告承認申請書とは別に「青色事業専従者給与に関する届出書」を出す必要があります。 しかも期限が青色申告承認申請書とまったく同じで、**その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した人は開業から2か月以内)**です。青色にしただけでは使えないので注意してください。

② 事業所得として認められやすくなる

ここが個人開発者にとって地味に重要です。

所得税基本通達35-2は、帳簿書類の保存がない場合は原則として雑所得として扱う、としています。雑所得になると青色申告特別控除は使えず、赤字を他の所得と相殺することもできません

開業届と青色申告承認申請書を出して帳簿をつけていることは、「これは事業です」と主張するための最低ラインです。詳しい判定基準は13章①に書きました。

③ 屋号付きの銀行口座が作れる

たとえば個人アプリを「FesRegi」という名前で運営しているなら、FesRegi 山田太郎 のような口座名にできます。事業用のお金と生活費が混ざらなくなるので、帳簿をつけるのが劇的にラクになります。

多くの銀行で開業届の控えの提出を求められます(後述しますが、この控えの扱いが2025年から変わっています)。

④ 小規模企業共済に入れる

個人事業主・共同経営者・会社役員が入れる制度です(中小機構)。

  • 掛金は月額 1,000円〜70,000円、500円刻み

  • 掛金が全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除になる

  • 廃業時や65歳以降に共済金として受け取れる

年間84万円まで所得控除できるので、利益が出てきたときの節税手段としてかなり強力です。

⑤ 少額減価償却資産の特例が使える(青色申告者限定)

通常、10万円以上のPCやカメラは減価償却で数年に分けて経費にします。青色申告なら取得価額 30万円未満のものを一括で経費にできる特例があります。

しかも令和8年度税制改正で 30万円未満 → 40万円未満に引き上げられました(2026年4月1日以後に取得するものから、年間合計300万円まで)。開発用のMacやディスプレイを買う個人開発者には直撃で効きます。

ひとつ注意点があります。これは恒久制度ではなく期限付きの特例です。 令和8年度改正では40万円への引き上げと同時に「適用期限を3年延長」も措置されました(あわせて対象法人から常時使用する従業員400人超が除外され、要件はやや厳しくなっています)。買うタイミングを決めるときは、そのときの適用期限を確認してください。

4. 開業届を出すデメリット・注意点

① 失業保険(雇用保険の基本手当)が受けられなくなる可能性がある ← 最重要

会社を辞めて独立する人は、ここを絶対に確認してください。

雇用保険の基本手当は「失業の状態」にある人に支給されます。「失業の状態」とは、①積極的に就職しようとする意思があり、②いつでも就職できる能力があり、③積極的に仕事を探しているにもかかわらず職業に就けない状態、を全部満たすことです。

自営業を開始した場合、あるいは事業の準備に専念し始めた場合は、この「失業の状態」を満たさなくなります。 特に待期期間(7日間)中に事業を始めると、基本手当や再就職手当を受けられなくなる可能性があります。

ただしこの待期期間まわりの具体的な扱いは、厚生労働省のQ&Aに明記されているものではなく、ハローワークの運用に委ねられている部分です。 判断されるのも書類の有無ではなく実態です。開業届は「事業を始めた」ことの証拠そのものなので、出すタイミングは必ずハローワークに相談してから決めてください。ここは記事で断定できる領域ではありません。

なお2022年7月から、事業を開始した期間を最大3年間まで受給期間に算入しない特例(受給期間の特例)が新設されています。事業がうまくいかず廃業した場合に基本手当を受けられるようにするものです。これも申請が要ります。

② 健康保険の扶養から外れる可能性がある

税金の扶養と、健康保険の扶養は完全に別の制度です。 ここを混同している記事が非常に多い。

健康保険の被扶養者の基準は、協会けんぽの場合おおむね年間収入130万円未満(かつ被保険者の年収の1/2未満など)。

そして重要な点として、健康保険の「収入」の考え方は税金と違います。 青色申告特別控除は引けませんし、必要経費として認められる範囲も税務上より狭いのが一般的です。健保組合によって基準が異なるので、加入している健保に直接確認するのが唯一の正解です。

また、組合によっては「個人事業主は一律で扶養に入れない」という運用をしているところもあります。

なお、19歳以上23歳未満の人は2025年10月1日以降の扶養認定から、この基準が 130万円未満 → 150万円未満 に引き上げられました(配偶者を除く)。学生の個人開発者には朗報です。

③ 帳簿をつける義務が発生する

青色申告をするなら複式簿記です。ただし後述するとおり、いまはかなりラクにできます。

④ 確定申告が必要になる

とはいえ、開業届を出さなくても所得があれば申告義務はあるので、これは実質デメリットではありません。

5. 扶養はどうなるのか(103万円の壁の説明はもう古い)

令和7年度税制改正で仕組みが根本から変わりました。「103万円の壁」で説明している記事は全部古いです。

令和7年度改正で何が変わったか

  • 基礎控除が合計所得金額に応じた段階制になった(合計所得132万円以下なら95万円 など)

  • 給与所得控除の最低保障額が 55万円 → 65万円 に引き上げ(給与収入190万円以下の人が対象)

  • 扶養親族の合計所得金額の要件が 48万円以下 → 58万円以下 に

  • 「特定親族特別控除」が新設された

(原則として令和7年12月1日施行、令和7年分以後の所得税について適用)

19歳以上23歳未満の場合(大学生の個人開発者はここ)

「58万円を1円でも超えたら親の扶養から外れて世帯の手取りが激減する」は、税金に関しては誤りになりました。

本人の合計所得金額に応じて、親が受けられる控除はこうなります。

  • 58万円以下 … 扶養控除(特定扶養親族)で 63万円

  • 58万円超 85万円以下 … 特定親族特別控除で 63万円(同額!)

  • 85万円超 90万円以下 … 特定親族特別控除で 61万円

  • 90万円超 95万円以下 … 特定親族特別控除で 51万円

  • 95万円超 100万円以下 … 特定親族特別控除で 41万円

  • 100万円超 105万円以下 … 特定親族特別控除で 31万円

  • 105万円超 110万円以下 … 特定親族特別控除で 21万円

  • 110万円超 115万円以下 … 特定親族特別控除で 11万円

  • 115万円超 120万円以下 … 特定親族特別控除で 6万円

  • 120万円超 123万円以下 … 特定親族特別控除で 3万円

  • 123万円超 … 控除なし(0円)

所得税だけを見れば、合計所得85万円までは控除額63万円で変わりません。 崖ではなく、なだらかな坂になりました。

ただしこれは所得税の話だけです。 学生の場合、本当に見るべき基準は別にあります。次の章で説明します。

6. 【学生向け】親の扶養から絶対に外れたくない人の運用方法

「絶対に扶養から外れるな」と親に言われている学生向けの章です。 ここだけは慎重に読んでください。

「扶養」は4種類あって、基準が全部バラバラです

① 所得税の扶養控除/特定親族特別控除 基準は、合計所得58万円以下で扶養控除。58万円超〜85万円以下は特定親族特別控除で控除額が同じ63万円。 外れると、85万円までは実害ゼロ。それ以降なだらかに減ります。

② 住民税の扶養親族 基準は合計所得58万円以下(令和8年度分から。改正前は48万円)。 外れると親の住民税が上がります。そして多子世帯の判定からも外れます(後述)。

③ 健康保険の被扶養者 基準は年収130万円未満。19〜23歳は2025年10月1日以降の認定から150万円未満。 外れると自分で国民健康保険に加入することになり、年10万円以上の出費になることもあります。

④ 親の会社の家族手当・扶養手当 基準は会社の就業規則次第(103万円・130万円基準が残っていることが多い)。 外れると手当が止まります。月1〜2万円のところが多いです。

税金(①)だけ見ていると足元をすくわれます。

自分自身にかかるものも2つあります

上の4つは全部「親の側」の話です。ここに載っていないけれど、あなた自身にかかってくるものが2つあります。 ネットの記事でほぼ触れられていないので、書いておきます。

⑤ 自分の住民税 … 合計所得45万円

住民税の非課税限度額(均等割)は、扶養親族のいない単身者なら合計所得45万円以下です。令和7年度改正で引き上げられたのは「扶養親族の所得要件」(48万円→58万円)のほうで、本人の非課税限度額45万円は据え置きです。

バイト収入だけなら給与所得控除65万円があるので年収110万円まで非課税ですが、事業所得の場合は45万円がそのまま壁になります。 超えると均等割(年5,000円前後)と所得割がかかり、人生で初めて自分で住民税を納めることになります。

金額としては小さいですが、「58万円まで何も起きない」と思っていると面食らいます。なお非課税限度額は自治体の級地区分によって45万円・41.5万円・38万円と差があるので、自分の市区町村のページで確認してください。

⑥ 国民年金の学生納付特例 … 前年所得 128万円+(扶養親族等の数×38万円)

20歳以上の学生なら全員関係します。保険料の納付を猶予してもらう制度ですが、本人の前年所得に基準があり、事業所得もここに乗ります。

扶養親族がいない学生なら128万円。これは扶養の防衛ライン(58万円)よりずっと高いので、多くの人は気にしなくて大丈夫です。そしてここでも青色申告特別控除65万円が効きます。 所得を下げる手段を持っているかどうかが、そのまま効いてきます。

多子世帯の授業料無償化を受けているなら、防衛ラインは「合計所得58万円」です

2025年度から、扶養する子どもが3人以上の世帯は、所得制限なしで大学等の授業料・入学金が一定額まで減免されます(文部科学省「高等教育の修学支援新制度」)。

この「扶養する子ども」の数え方が問題です。 JASSOの資料にこう書かれています。

多子世帯の判定における「子ども」は、奨学金申込者や給付奨学金の生計維持者(原則父母)の扶養親族(※)のうち、「生計維持者の子」や「扶養している生計維持者よりも年長でなく、尊属でもない人」をいいます。

※ここでいう扶養親族とは、住民税における扶養親族をいい、生計維持者が税の申告(年末調整や確定申告)の手続きを行い対象となった方をいいます。

そして、外れた場合についても明記されています。

所得が一定以上である(いわゆる「扶養を外れた」)方など、生計維持者が扶養していない親族は、「子ども」に含みません

さらに文科省のQ&Aは、こう説明しています。

一番上のお子さんが社会人となって扶養から外れていれば、「扶養する子供」の数としては2人になり、支援対象から外れます

つまり、あなたが個人開発で稼ぎすぎて住民税の扶養親族から外れると、「子ども」の数が3人から2人になり、兄弟姉妹全員の授業料無償化がまとめて消える可能性があります。

ここが最大の罠です。 所得税だけ見れば合計所得85万円まで無傷ですが、多子世帯の給付を受けている家庭では、住民税の扶養親族の要件である「合計所得58万円」が絶対防衛ラインになります。

同じことは高校の就学支援金や自治体独自の給付にも起こりえます。該当しそうな人は、稼ぐ前に一度確認してください。

合計所得金額の計算式

まず、これを頭に入れてください。

合計所得金額 = 給与所得 + 事業所得

 給与所得 = 給与収入 − 給与所得控除
      (給与収入190万円以下なら控除は一律65万円。収入65万円以下なら給与所得は0円)

 事業所得 = 売上 − 必要経費 − 青色申告特別控除(最大65万円)

注目してほしいのは、青色申告特別控除が合計所得金額をそのまま下げるという点です。

バイトより個人開発のほうが、扶養の観点では有利です

なぜなら給与所得控除65万円と、青色申告特別控除65万円は、別枠で両方使えるからです。

具体例で見てみます。同じ130万円を稼ぐケースです。

バイトだけで130万円稼いだ場合 給与所得は 130万円 − 65万円 = 65万円。合計所得金額は 65万円。→ 58万円ラインを ❌ 超過。

バイト65万円+個人開発65万円の場合 給与所得は 0円、事業所得も 65万円 − 65万円 = 0円。合計所得金額は 0円。→ ✅ 余裕。

同じ130万円を稼いでも、内訳を分けるだけで合計所得が65万円から0円になります。 これは制度の穴でもなんでもなく、単に控除が別枠だからです。

ただし「事業と認められること」が大前提です

上の話には、はっきりした前提があります。これは全部「事業所得として青色申告特別控除65万円が使えること」を前提にした計算です。

ところが、個人開発の収入が事業所得と認められるかどうかは自動で決まりません。 帳簿をつけていても、収入が僅少だと個別に判定される、というのが国税庁の考え方です(→ 13章①)。判定で雑所得に落ちると、青色申告特別控除は使えず、この章の計算は丸ごと成立しなくなります。

つまり「事業所得を65万円作れば控除で0円にできる」という話は、実際に65万円規模の事業収入があって、それを継続的に得ていることが前提です。扶養対策のために形だけ事業所得を作る、という使い方はできません。 ここは13章①とセットで読んでください。

バイト収入別・個人開発でいくらまで稼げるか(防衛ライン58万円の場合)

「事業の利益」= 売上 − 必要経費 です。 青色申告特別控除65万円を引く前の数字で見てください。

  • バイト65万円以下 … 給与所得0円/使える事業所得の枠58万円 → 事業の利益は123万円まで

  • バイト80万円 … 給与所得15万円/枠43万円 → 事業の利益は108万円まで

  • バイト90万円 … 給与所得25万円/枠33万円 → 事業の利益は98万円まで

  • バイト100万円 … 給与所得35万円/枠23万円 → 事業の利益は88万円まで

  • バイト110万円 … 給与所得45万円/枠13万円 → 事業の利益は78万円まで

  • バイト123万円 … 給与所得58万円/枠0円 → 事業の利益は65万円まで

  • バイト130万円 … 給与所得65万円 → ❌ バイトだけで超過

(青色申告特別控除65万円をフルに使える前提。控除は所得金額が限度なので、これで赤字にはできません)

逆に「所得税だけ気にすればいい」人(多子世帯の給付などを受けていない人)は、防衛ラインが合計所得85万円になります。 バイト65万円以下なら、事業の利益は150万円まで大丈夫です。

上の各行に27万円ずつ上乗せして考えてもらえば合います。ただし最終行(バイト130万円)だけは別です。 85万円ラインなら給与所得65万円でもまだ20万円の枠が残っているので、事業の利益85万円まで大丈夫で、「❌」ではありません。

経費を積めば、合計所得は下がります

事業所得は「売上 − 必要経費」なので、正当な経費を漏らさず計上することが、そのまま扶養の防衛になります。

個人開発者が計上できる経費の例を科目ごとに挙げます。

  • 広告宣伝費 … X(Twitter)広告、Apple Search Ads、Google広告、プレスリリース配信(PR TIMES・@Pressなど)、チラシ・ノベルティ制作

  • 通信費 … サーバー代、ドメイン代、自宅回線・スマホ代の事業割合分

  • 支払手数料 … App Store/Google Playの手数料、Stripe・PayPalの決済手数料、振込手数料

  • ソフトウェア利用料 … GitHub、Figma、各種AIのサブスク、Adobe、開発ツール

  • 消耗品費 … 10万円未満の周辺機器、書籍、文房具

  • 減価償却費/少額減価償却資産 … PC・ディスプレイ(青色なら30万円未満、2026年4月以降の取得は40万円未満を一括)

  • 新聞図書費 … 技術書、有料記事、オンライン講座

  • 旅費交通費 … 勉強会・カンファレンスの参加費と交通費

  • 地代家賃・水道光熱費 … 自宅の家賃・電気代の事業割合分(家事按分)

家事按分は「測れる根拠」を残してください。 スクリーンタイムの実測値、作業スペースの面積比、作業時間の記録など。根拠のない「なんとなく50%」が一番危険です。

⚠️ ただし、経費を盛って赤字にするのは危険です

事業所得の赤字は給与所得と損益通算できるので、合計所得をさらに下げられます。しかしこれをやりすぎると、「営利性が認められない」として雑所得に判定されるリスクが上がります(→ 13章①)。

雑所得になると青色申告特別控除も損益通算も使えなくなるので、本末転倒です。 実際に使った経費を漏れなく計上する、以上のことはしないでください。

実務の運用手順

1. 年の初めに、自分の防衛ラインを確定させる

  • 多子世帯の授業料無償化・給付型奨学金を受けている → 58万円

  • 親の会社の家族手当がある → 会社の規定を親に確認(103万円・130万円のことが多い)

  • どちらもない → 85万円(所得税だけ見ればいい)

  • 健康保険は別枠で 150万円(19〜23歳)

  • 自分の住民税は 45万円、国民年金の学生納付特例は 128万円

2. 毎月、売上と経費を記帳する。 年末にまとめてやると手遅れになります。

3. 10月〜11月に着地見込みを計算する。 個人開発は12月に売上が跳ねることがあります。

4. 枠が危なくなったら、正当な範囲で経費を年内に前倒しする。 買う予定だった機材、更新予定のサブスク、参加予定の勉強会など。

5. 売上を翌年に回すのはNG。 発生主義なので、恣意的に売上の計上時期をずらすのは認められません。

6. 勤労学生控除も確認する。 本人の所得税で27万円の控除が使えます。ただし要件が3つあり、所得金額だけではありません。

  • 給与所得などの勤労による所得があること

  • 合計所得金額が85万円以下であること(令和7年度改正で75万円→85万円に引上げ)

  • かつ、その勤労に基づく所得以外の所得が10万円以下であること

  • 特定の学校の学生・生徒であること

3つ目を落としている記事が多いので注意してください。とはいえ、個人開発の事業所得は「自己の勤労に基づく事業所得」なので、通常は「勤労による所得」のほうに入ります。 ここに引っかかるのは、株の配当や不動産収入のような、働かずに得た所得が10万円を超えるケースです。

7. 青色申告65万円控除の条件

これを全部満たす必要があります。1つでも欠けると控除額が下がります。

  1. 不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること

  2. 正規の簿記の原則(=複式簿記)により記帳していること

  3. 貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付し、確定申告期限(3月15日)までに提出すること

  4. 現金主義による所得計算の特例を選択していないこと

  5. e-Taxで確定申告書・貸借対照表・損益計算書を期限内に送信すること(または仕訳帳・総勘定元帳について優良な電子帳簿保存を行うこと)

ハマりどころ

  • 期限後申告になった瞬間 65万円 → 10万円 になります。1日でも遅れたらアウト

  • PDF(イメージデータ)で決算書を送るのは不可。 e-Taxのデータ形式で送る必要があります

  • 税務署に行ってパソコンで申告すると決算書データをe-Tax送信できず、65万円を取れないケースがあります

  • 現金主義の特例(別の届出書)は絶対に出さないこと。65万円と75万円の控除が使えなくなります

要するに「複式簿記でつけて、e-Taxで期限内に出す」が全てです。

8. 【2027年分から】青色申告特別控除が改正されます

令和8年度税制改正で、令和9年分(=2027年分)の確定申告から構造が変わります。国税庁もすでにパンフレットを出しています。

改正後の控除額

複式簿記+e-Tax+(優良な電子帳簿 or デジタルシームレス保存) 令和8年分(2026年分)まで 65万円 → 令和9年分(2027年分)から 75万円

複式簿記+e-Tax 65万円 → 65万円(変わらず)

複式簿記+書面申告 55万円 → 10万円

簡易簿記 10万円 → 10万円。ただし前々年分の収入金額が1,000万円を超える場合は0円(10万円控除が適用されなくなります)

国税庁のパンフレットの表現はこうです。

令和8年分の確定申告までは、書面申告でも55万円の青色申告特別控除が適用可能でしたが、令和9年分以降は、書面申告の場合の控除上限額は10万円となります

2027年分からは、紙で出した瞬間に45万円ぶん損します。 e-Taxは実質必須になったと考えてください。

75万円を取るには

65万円の要件に加えて、「優良な電子帳簿の保存」か「デジタルシームレス保存」のどちらかを満たしたうえで、届出書の提出が必要です。

この届出書の期限は「事前」ではありません。 国税庁パンフレットの原文はこうです。

「…届出書」を、適用を受ける年分の確定申告期限までに所轄の税務署に提出する必要があります。

同じパンフレットに「既に『優良な電子帳簿の保存』による65万円の青色申告特別控除を受けている方は、改めて上記の届出書を提出する必要はありません」という注記もあります。

なお、優良な電子帳簿は訂正・削除・追加の履歴が残ることなどが要件なので、自作CSVや手書きExcelでは無理です。もう一方のデジタルシームレス保存も、デジタルインボイスか預貯金口座の決済データを、国税庁長官が定める基準に適合するシステムで送受信・保存することが必要です。どちらのルートも、実質的にJIIMA認証のクラウド会計ソフトを使っている人向けの制度と考えてよいと思います。

9. 開業日はいつにするか/開業費を使い倒す

ここは意外と語られないのに、金額インパクトが一番大きいところです。

9-1. 開業日はいつにするか

法律に「開業日とはこの日である」という定義はありません。 自分で決めて、開業届に書きます。

実務では「事業として収益を得る活動を開始した日」を、説明できる根拠とともに決めます。個人開発者の場合、候補は次のあたりです。

  • 最初の売上が発生した日 … ◎ いちばん強い。入金記録が証拠になる

  • 最初の契約が成立した日 … ◎ 契約書が証拠になる

  • アプリ/サービスを公開した日 … ○ ストアの公開日が証拠になる

  • 事業用の口座を開設した日 … △ 単独では弱い

  • 「なんとなくこの日」 … ✗ 説明できない

大事なのは「なぜその日なのか」を、後から税務署に聞かれて答えられることです。 自分は「最初の協賛契約が成立した日」にしました。契約書の日付がそのまま根拠になります。

⚠️ 開業日を決めるときの3つの注意点

① 開業日を過去にしすぎると、青色申告承認申請が間に合わなくなる

青色申告承認申請書の期限は「開業日から2か月以内」です。「去年から実質やってたし、開業日を1年前にしよう」とすると、その瞬間に青色申告承認申請の期限を過ぎていることになります。 これが一番痛い事故です。

② 開業日を遅くするほど、開業費が増える

開業日より前の支出は「開業費」になります(次項)。開業費は好きなタイミングで好きな金額だけ経費にできるので、実は経費として非常に使い勝手がいい。だから説明できる範囲でなるべく遅めに設定するほうが有利です。

③ ただし実態から離れすぎない

すでに売上が立っているのに「まだ開業していません」は通りません。「収益を得る活動を始めた日」という定義から外れない範囲で選ぶ、が答えです。

9-2. 開業費とは何か

法的な定義は所得税法施行令7条1項1号にあります。

開業費(不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。)

これは「繰延資産」に分類され、任意償却が認められています。根拠は所得税法50条と所得税法施行令137条1項1号・3項で、繰延資産の償却は「60か月の均等償却」か「任意償却」のどちらかを選べる、という建て付けです。

任意償却=好きな年に、好きな金額だけ経費にできる、ということです。 全額でも、一部でも、0円でも構いません。

しかも期限がありません。 国税庁の質疑応答事例は、7年前に開業した繰延資産でも任意の年に必要経費に算入できると回答しています。理由も明快で、「繰延資産となる費用を支出した後60か月を経過した場合に償却費を必要経費に算入できないとする特段の規定はない」からです。

9-3. 開業費になるもの(個人開発者の例)

開業日より前に、開業準備のために使ったお金です。

  • ドメイン取得費・サーバー代・ホスティング代

  • 開発ツールのサブスク(GitHub、Figma、各種AI、Adobe など)

  • Apple Developer Program の年会費(年12,980円)

  • 技術書、オンライン講座、Udemyなど

  • 勉強会・カンファレンスの参加費と交通費

  • ロゴ制作費、名刺代

  • 市場調査のための費用(競合アプリの課金など)

  • 打ち合わせの飲食費・交通費

どこまで遡れるのか

ここに明確な基準はありません。 施行令7条が言っているのは「開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」だけで、「何年前まで」とは書かれていません。

なので基準は**「その支出が、いま開業した事業の準備だったと説明できるか」**の一点です。開発を始めた日、最初のドメインを取った日など、起点そのものに根拠があることが大事になります。

自分の場合は、いま運営しているサービスの前身となるアプリの開発を始めた日を起点にしました。開業日の約1年4か月前です。GitHubの最初のコミット日がそのまま根拠になります。「なんとなく2年前から」では説明になりません。 逆に言えば、説明できるなら年をまたいでも問題ありません。

9-4. 開業費に「ならない」もの ← ここ間違えやすい

施行令7条の柱書きが、**「資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く」**と明記しています。つまり次は開業費に入りません。

  • 10万円以上のPC・機材固定資産として減価償却します(青色なら少額減価償却資産の特例あり)

  • 前払費用(年払いサブスクの未経過分など) … 前払費用として資産計上し、期間に応じて費用化します

  • 敷金・保証金 … 資産です(返ってくるお金なので経費ではない)

  • 商品の仕入れ … 棚卸資産です

  • 開業日以後の支出 … 普通の経費です

「開業前に買ったMacは開業費」と書いているブログがありますが、間違いです。 10万円以上のパソコンは固定資産です。

9-5. 【重要】開業費は温存したほうが有利です

初年度に全額償却して大赤字にするのは、たいてい損です。理由は3つ。

理由① 赤字の繰越には期限があるが、開業費にはない

純損失の繰越控除が使えるのは翌年から3年間だけで、しかも毎年連続して確定申告することが条件です。 これに対して開業費の任意償却は期限なし、いつでも使えます。条件は未償却残高を帳簿で示せることだけ。

赤字を作って3年の期限に追われるより、売上が伸びた年に開業費をぶつけるほうが自由度が高いです。

理由② 初年度に大赤字を作ると「雑所得」判定のリスクが上がる

例年赤字で、赤字を解消する取組を行っていない場合は事業所得と認められない可能性があります(→ 13章①)。

理由③ 学生なら、そもそも所得が低いので償却しても効果が薄い

合計所得が扶養の範囲に収まっているなら、開業費を償却しても税金は1円も減りません。将来、税率が上がってから使うべき「弾」です。

9-6. 開業費を使うための必須条件

国税庁の質疑応答事例が、こう書いています。

なお、支出した開業費の内容及びその開業費の額が過年分において必要経費に算入されていないことを明らかにしておく必要があります。

つまり、開業費の明細と未償却残高を帳簿にずっと残し続ける必要があります。

自分は 開業費.csv というファイルに「日付・内容・金額・事業割合・証憑ファイルのパス」を1行ずつ書いて、貸借対照表の繰延資産に未償却残高を載せています。

帳簿の保存期間は原則7年ですが、開業費が残っている限りは7年を過ぎても捨てないでください。 償却しきるまで必要です。

10. 実際の出し方 — 書く内容を全部載せます

10-1. 開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)に書く内容

様式と記載要領は国税庁のサイトにPDFがあります(出典の章にリンクを置きました)。書く欄はこれだけです。

  • 提出先 … 納税地を所轄する税務署長。国税庁のページで住所から検索できます

  • マイナンバー … 12桁。書面提出なら本人確認書類の提示か写しの添付が必要(e-Taxなら不要)

  • 氏名・フリガナ・生年月日 … 本人

  • 職業 … 「ソフトウェア開発業」「Webサービス業」など。この欄は個人事業税の業種判定の入口になります

  • 屋号 … 任意。空欄でOK。屋号付き口座を作りたいなら書きます(例:FesRegi)

  • 区分(納税地) … 自宅なら「5(住所地)」

  • 納税地・郵便番号・電話番号 … 自宅の住所

  • 上記以外の住所地・事業所等 … 自宅=仕事場なら空欄

  • 届出の区分 … 「開業」の欄に「1」

  • 所得の種類 … 「事業(農業)所得」にチェック

  • 開業・廃業等日開業日(→ 9章)

  • 開業・廃業に伴う届出書の提出の有無 … 青色申告承認申請書は/消費税の課税事業者選択届出書は通常

  • 事業の概要できるだけ具体的に。 例:「スマートフォンアプリ及びWebサービスの企画・開発・運営、並びにこれらに係る広告・協賛収入の獲得」

  • 給与等の支払の状況 … 従業員がいなければ全部空欄

  • 源泉所得税の納期の特例の申請書の提出の有無 … 無

10-2. 青色申告承認申請書に書く内容

  • 「__年分以後の所得税の申告は…」 … 開業した年(令和8年など)

  • 氏名・納税地・職業・屋号開業届と完全に同じにする

  • 1 事業所の名称及びその所在地 … 屋号と自宅住所。無ければ空欄でも可

  • 2 所得の種類事業所得を○

  • 3 取消し・取りやめの有無 … (2) 無 を○

  • 4 本年1月16日以後新たに業務を開始した場合、その開始した年月日開業日(開業届と一致させる)

  • 5 相続による事業承継の有無 … (2) 無 を○

  • 6(1) 簿記方式複式簿記を○ ← ここが生命線

  • 6(2) 備付帳簿名仕訳帳・総勘定元帳は必須。あとは実際に備え付けるものだけ○(固定資産台帳、売掛帳、経費帳など)

⚠️ 「所得税の青色申告承認申請書、現金主義の所得計算による旨の届出書」という似た名前の別様式があります。これを使うと65万円控除が取れません。 間違えないでください。

10-3. 提出方法 — ここに罠があります

方法ごとに、開業届と青色申告承認申請書で対応状況が違います。

e-Taxソフト(WEB版) — ブラウザで動き、Mac可・スマホ可 開業届は ❌ 対応していない。青色申告承認申請書は ✅ 対応。

e-Taxソフト(ダウンロード版) 開業届は ✅ 対応。青色申告承認申請書も ✅ 対応。ただし Mac非対応・Windows専用

会計ソフト経由(freee開業など) どちらも ✅ 対応。スマホ+マイナンバーカードで送信できます。

書面(郵送・窓口持参) どちらも ✅ 対応。

これが地味に厄介です。

国税庁の「e-Taxソフト(WEB版)で作成可能な手続一覧」を見ると、個人向けの「所得税・消費税関係」には「所得税の青色申告承認申請」はありますが、「個人事業の開業・廃業等届出」がありません。スマートフォン版の一覧も同じで、開業届は載っていません。

そして開業届に対応している e-Taxソフト(ダウンロード版)は、公式にこう書かれています。

Mac OS をご利用の方は、e-Taxソフトをご利用いただけません。

つまり Macユーザーは国税庁の公式ツールだけでは開業届を電子提出できません。

回避策:freee開業の「電子申告・申請アプリ」(iOS/Android)を使えば、スマホでマイナンバーカードをかざすだけで開業届も青色申告承認申請書もe-Tax送信できます。 ICカードリーダーもWindowsも不要です。無料です。

もちろん書面でも問題ありません。郵送か、税務署の窓口(8:30〜17:00、閉庁日は時間外収受箱)へ。

10-3-2. 自分は freee開業で出しました ← いちばんラクでした

結論から書きます。開業届を出すなら freee開業を使うのがすごい便利でした。自分もこれで出しました。

freee開業https://www.freee.co.jp/opening/

自分は Mac ユーザーなので、上のとおり国税庁の公式ツールだけでは開業届を電子提出できません。それで freee開業を使ったのですが、想像していたより圧倒的にラクでした。

よかったところ

  • 無料。 freee会計の有料プランを契約する必要もありません。登録に要るのはメールアドレスだけです

  • 質問に答えていくだけで書類ができる。 「いつ開業しましたか」「何をしますか」に答えていくと、開業届と青色申告承認申請書が同時にでき上がります

  • いちばんありがたいのが、間違えると65万円が飛ぶ欄を自動で埋めてくれること。 10-2 に書いた 簿記方式=複式簿記備付帳簿名=仕訳帳・総勘定元帳 のあたりです。ここは白紙の様式を渡されると初見でまず迷います

  • 氏名・納税地・職業・屋号が2枚の書類で自動的に一致する。 手書きだとここがズレて、あとで面倒になります

  • 提出先の税務署が住所から自動で決まる

  • スマホアプリ(freee電子申告・申請アプリ)でマイナンバーカードをかざすだけでe-Tax送信できる。 ICカードリーダーも Windows も要りません

自分は 開業届と青色申告承認申請書を同じ日にまとめて送信して、その場で e-Tax の受信通知が返ってきました。 10-4 に書くとおり2025年1月から控えにハンコを押してもらえないので、この受信通知がそのまま「出した証拠」になります。 書面提出より明確に有利なところです。

注意点も書いておきます

  • 都道府県あての届出は作ってくれません(→ 11章)。freee開業もマネーフォワードも税務署あてだけです。ここは自分で出す必要があります

  • 中身は必ず自分で確認してください。 特に 開業日(→ 9章)と 事業の概要 は、あとから説明を求められる欄です。ソフトが作ってくれても、責任を負うのは自分です

念のため書いておくと、案件でも何でもありません。Mac ユーザーが開業届を電子で出す方法が実質これくらいしか無かったのと、実際に使ってみてラクだったからです。

10-4. 【要注意】2025年1月から控えにハンコを押してもらえません

これ、知らない人が多いです。

令和7年1月から、申告書等の控えへの収受日付印の押なつを行いません。

書面で出すときは正本(提出用)のみを提出します。控えが欲しければ自分でコピーを取り、提出日を自分で記録しておく必要があります。

屋号付き口座の開設や、補助金・融資の申請で「開業届の控え」を求められることがありますが、もう受付印は押されません。 代替手段は次の3つです。

  • 申告書等情報取得サービス … e-Tax経由でPDFを無料取得

  • 保有個人情報の開示請求

  • e-Taxの受信通知 … メッセージボックスに記録される

e-Taxで出しておけば受信通知がそのまま証明になるので、この点でも電子提出が有利です。

11. 県への届出は要るのか問題

ここが今回いちばん調べ甲斐がありました。「そんなの出さなくていい」と言う人がめちゃくちゃ多いのですが、正確には「義務はあるが、守らせる仕組みが弱い」です。

なぜ「不要」と言われるのか — 理由は3つ

理由A:会計ソフトが作ってくれない

freee開業もマネーフォワード クラウド開業届も、作成できるのは開業届/青色申告承認申請/青色事業専従者給与/給与支払事務所等の開設/源泉所得税の納期の特例 の5種類です。そして都道府県あての書類は、どちらも作れません。

どちらも税務署あてだけです。 ソフト経由で開業した人は、都道府県への届出の存在自体を知らないまま終わります。これが「聞いたことない」という声の量産元だと思います。

理由B:罰則が事実上ない

地方税法72条の57はこうなっています。

道府県は、個人の行う事業に対する事業税の納税義務者が第七十二条の五十五の規定によつて申告し、又は報告すべき事項について正当な理由がなくて申告又は報告をしなかつた場合においては、その者に対し、当該道府県の条例で十万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる

二重の絞りが入っています。対象は「納税義務者」に限られ、過料は「設けることができる」という任意規定です。

理由C:確定申告で情報が伝わる

地方税法72条の55の2に、確定申告書を提出した日に事業税の申告がされたものとみなす、と明記されています。確定申告書第二表に「住民税・事業税に関する事項」欄があるのはこれが根拠です。

しかもこれは「なんとなく情報が伝わる」という話ではありません。県が国税のデータを見て課税することは、法律にそう書いてあります。

道府県知事は、当該個人の…前年中の所得税の課税標準である所得のうち…不動産所得及び事業所得について当該個人が税務官署に申告し、若しくは修正申告し、又は税務官署が更正し、若しくは決定した課税標準を基準として、事業税を課するものとする(72条の50第1項)

道府県知事が事業税の賦課徴収について、政府に対し…個人が政府に提出した申告書…を閲覧し、又は記録することを請求した場合には、政府は、関係書類を道府県知事…に閲覧させ、又は記録させるものとする(72条の59第1項)

そして個人事業税は、自分で税額を計算して納める税ではありません。県が計算して納税通知書を送ってくる「賦課課税」の税です(納期は8月と11月。72条の51)。課税されるなら、向こうから通知が来ます。

でも「義務ではない」は言い過ぎ — 2つの書類が混同されています

ここが核心です。まったく別の2つの書類が、同じものとして語られています。

① 事業開始の届出 出すのは開業時に1回だけ。根拠は地方税法72条の55第4項(条例に委任)+各都道府県の条例・規則。 確定申告では代替できません。

② 個人事業税の申告 毎年3月15日が期限。根拠は地方税法72条の55第1項確定申告で代替できます(72条の55の2)。

「確定申告すれば県への提出は不要」という説明は、②のことを言っています。

岡山県のFAQがこの区別をいちばん明確に書き分けています。

「事業を始めてから1か月以内に、個人事業税の事業開始等の届出が必要です。」 「税務署に所得税の確定申告書を提出された方…については、個人事業税の申告の必要はありません。」

各都道府県の公式見解 — 13都府県を見比べました

期限がバラバラで、しかも1県だけ「不要」と明記しています。

都道府県事業開始の届出期限広島県必要5日以内 ← 最短東京都必要15日以内(LoGoフォームでオンライン可)福岡県必要翌月10日まで神奈川県必要1か月以内(県税条例施行規則)愛知県必要1か月以内岡山県必要1か月以内千葉県・群馬県・長野県・茨城県・奈良県・大阪府必要各府県の定めによる愛媛県必要ありません

同じ国の同じ制度で、5日以内の県と、そもそも要らない県が並んでいます。

「税務署に出せば県には出さなくていい」と、県が言っている例があります

いちばんはっきり書いているのが愛媛県です。

個人事業を開業・廃業する際の県への提出書類はありますか。 管轄の税務署に開業・廃業の届出を行えば、県への届出は必要ありません。 ただし事業内容調査や税額等の決定のため、個別に照会文書を送付させていただく場合があります。その際は回答及び必要書類のご提出をお願いします。

「県税事務所に電話したら『国税から情報が来るので、わざわざ出しに来なくていい』と言われた」という話をときどき見かけますが、これは職員の勝手な運用ではありません。 公式に同じことを書いている県が実在します。

なぜ県によって答えが割れるのかも、条文で説明がつきます。

確定申告を事業税の申告とみなす規定(72条の55の2第1項)は、対象を「前条第一項から第三項まで」と限定しています。みなされるのは②の申告だけで、①の届出の根拠である第4項(条例への委任)はここに入っていません。 だから条例で報告を求めている県では建前上の義務が残り、そこを実務で求めない運用に振り切ったのが愛媛県、という構造です。

そして出していない人がいても、県は確定申告のデータから拾えます。 足りない情報は照会文書で聞いてきます。届出を出す実益は「県の把握が数か月早まる」程度です。

税理士たちの実際の見解

freeeの税理士相談Q&Aに同じ質問があり、5事務所が回答していました。

  • 熊澤会計事務所 … 「(税務署)だけ提出する方が多いようです。確定申告によって…税金が変わることはありません

  • スタートアップ税理士法人 … 「確定申告書を提出した段階で各役所が開業を把握することができますので、提出をしない場合でも罰則等は特に課されていないのが現状です」

  • 荒井会計事務所 … 「開業届は原則として税務署に提出すればよく、県や市町村への提出は義務ではありません

  • Gemstone税理士法人 … 「これらの届出を提出しない場合でも、確定申告を通じて所得情報は自治体に伝わります」

ある税理士事務所はもっと踏み込んでいます。

会計事務所(税理士事務所)であっても、こちらの申告書を開業時に提出しているというケースは非常に少ない 「提出しなくても特に不利益がなく、各都道府県税事務所もこちらの申告書の提出の有無に関してうるさく言ってくることがほとんどない

一方、弥生(監修:ベンチャーサポート税理士法人 森健太郎税理士)・小谷野税理士法人・マネーフォワードなどの大手記事は**そろって「罰則はないが出しましょう」**です。

業界の共通見解は「罰則なし・実務では出していない人が多い・でも建前は義務」で一致していて、割れているのは推奨の強さだけです。

そもそも個人事業税は個人開発者にかかるのか

ほとんどの個人開発者にはかかりません。 理由は2つ。

(1) 事業主控除が年290万円ある(地方税法72条の49の14)。事業期間が1年未満なら月割ですが、所得290万円以下なら税額はゼロです。

(2) そもそも法定業種に入っていない可能性がある。 個人事業税は地方税法72条の2が列挙する70業種にしかかかりません。「ソフトウェア開発業」も「アプリ運営業」もリストにありません。

実務では第1種の「請負業」で拾われることが多いのですが、たとえば神奈川県は請負業の認定要件を4つ挙げています。

(1)仕事の完成を目的とした契約に基づき収入を得ていること (2)資本的経営を行っていること (3)仕事の計画及び遂行について独立性を有すること (4)危険負担を有すること

受託開発は素直に(1)を満たしますが、自社アプリの広告収入や協賛収入は「仕事の完成を目的とした契約」に当たりにくいです(第1種の「広告業」で拾われる余地はあります)。判定は都道府県税事務所がします。

⚠️ ただし、適当に書いて出すのは最悪手です

地方税法72条の56は、虚偽の申告・報告に1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を定めています。出さないことより、事実と違うことを書いて出すほうがはるかに重い扱いです。

結論

出さない判断で問題ないと思います。自分は出していません。

調べた結果、理由はこうなりました。

  • 課税に必要な情報は確定申告で県に届く。 運用ではなく、法律がそう設計している(72条の50第1項・72条の59第1項)

  • 個人事業税は賦課課税。 課税されるなら県から納税通知書が来るし、判定に情報が足りなければ照会文書が来る

  • そもそも申告義務があるのは、所得が事業主控除(290万円)を超える人だけ(72条の55第1項)。多くの個人開発者は最初から対象外

  • 過料は「条例で…規定を設けることができる」という任意規定で、対象も「納税義務者」に限られる(72条の57)

  • 公式に「県への届出は必要ありません」と書いている県が実在する(愛媛県)

ただし、代わりに絶対にやることが1つあります。確定申告書第二表の「住民税・事業税に関する事項」欄を必ず埋めてください。 これが県への情報伝達の正規ルートで、72条の55の2第3項が「事業税の賦課徴収につき必要な事項を附記しなければならない」と義務にしています。届出を省くなら、こっちは省けません。

それでも気になるなら、自分の県の県税事務所に電話1本かけるのがいちばん早いです。 「不要です」と言われればそれで終わり、「出してください」と言われても紙1枚です。どちらにしても、青色申告承認申請書のような取り返しのつかない期限ではありません。

自分の都道府県の様式と期限は「〇〇県 個人事業税 事業開始 申告書」で検索すれば公式ページが出ます。

12. 帳簿はどう管理すればいいのか

65万円控除を取るなら複式簿記が必須です。「なんとなくスプレッドシートで売上を並べる」では要件を満たしません。

12-1. 備え付ける帳簿

所得税法施行規則58条が名指ししているのは2つだけです。

仕訳帳 すべての取引を借方・貸方に仕訳し、取引の発生順に、年月日・内容・勘定科目・金額を記載します(規則59条1項)。

総勘定元帳 すべての取引を勘定科目別に分類し、その勘定ごとに、年月日・相手方の勘定科目・金額を記載します(規則59条2項)。

これに加えて「その他必要な帳簿」として固定資産台帳を持ちます。

国税庁が実務例として挙げるのは仕訳帳・総勘定元帳・現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳ですが、取引が少ないうちは補助簿(現金出納帳・売掛帳など)は総勘定元帳の各勘定がそのまま代わりになります。

⚠️ 総勘定元帳は「確定申告のときに作ればいい」ものではありません。 帳簿書類の備付け・記録・保存が省令どおり行われていないことは、青色申告承認の取消事由です(所得税法150条1項1号)。

12-2. 方法① クラウド会計ソフト(王道・一番確実)

freee / マネーフォワード / 弥生 のどれかを使うのが圧倒的に速いです。 銀行口座とクレカを連携すれば、仕訳帳も総勘定元帳も自動で生成され、そのままe-Taxで申告まで通せます。

年1万円前後の出費で65万円の控除と自分の時間を買えると考えれば、まず間違いなく元は取れます。迷ったらこれです。

12-3. 方法② 税務署の無料の記帳指導を受ける ← 意外と知られていません

税務署は無料で記帳を教えてくれます。 しかも青色申告向けのちゃんとしたやつです。

(a)記帳説明会

税務署では、事業所得等を有する白色申告の方を対象に、記帳に関する説明会を開催し、記帳・帳簿等の保存制度の概要や具体的な記帳の仕方等についての説明を無料で行っています

記帳説明会・決算説明会・消費税等説明会の3種類があります。日程は国税庁のページに国税局ごとのExcelで掲載されています。

(b)記帳指導(こちらが本命)

こっちは青色申告する人が対象で、しかも複数回の伴走型です。

記帳指導を希望される方には、記帳の仕方のほか、一般的な決算における処理や確定申告書等の作成の仕方に至るまで一貫した指導を、各国税局が事業者に委託して行っています。 記帳指導の対象は、新たに青色申告を行うなど正規の簿記の原則に従った記帳を行う方や新たに消費税の課税事業者となる方などです。

方式は2つあります。

  • 集合形式 … 指導会場で会計ソフトを使って記帳の仕方を説明。パソコンは会場に準備されています

  • 個別指導方式自宅または事業所で、自分が備え付けている帳簿に基づいて指導

そして重要なのがここ。

記帳の仕方の指導から決算の方法、e-Tax(国税電子申告・納税システム)による申告まで、複数回(4〜5回程度)の記帳指導を行います。

初年度に4〜5回、無料で、申告までマンツーマンで伴走してもらえます。 実施内容は国税局・税務署によって異なるので、所轄の税務署に「記帳指導を受けたい」と電話するのが早いです。

(c)青色申告会・商工会議所・商工会

国税庁も「青色申告会・納税協会や商工会議所・商工会等の記帳指導機関においても、相談・指導を行っています」と案内しています。青色申告会は年会費が数千円〜1万円程度のところが多く、記帳指導や申告時の相談がセットになっています。

12-4. 方法③ Claude Code に記帳させる ← エンジニアなら一番ラクかもしれません

自分はこれでやっています。 会計ソフトを使わず、CSVで帳簿を持って、Claude Code に記帳をやらせています。

やり方はシンプルです。

1. 帳簿をCSVで持つ

日付,伝票番号,借方科目,借方金額,貸方科目,貸方金額,摘要,取引先,証憑

これが仕訳帳になります。総勘定元帳はスクリプトで自動生成します。

2. CLAUDE.md にルールを書いておく

  • 使っていい勘定科目の一覧

  • 端数処理のルール(按分は切り捨て、最後の行は差額で埋める、など)

  • 証憑ファイルの命名規約

  • 「事実が確認できないものは推測で書かず、摘要に 要確認 と書いて人に聞く」

3. 証憑を「受信箱」フォルダに放り込んで「記帳して」と言う

PDFを読んで、日付・金額・取引先・役務提供期間を取り、仕訳を切って、ファイルをリネームして所定のフォルダに移動するところまでやってくれます。

4. 検算スクリプトを毎回走らせる

  • 貸借が一致しているか

  • 伝票ごとの貸借が一致しているか

  • 勘定科目一覧にない科目を使っていないか

  • 証憑ファイルが実在するか

  • どの帳簿からも参照されていない証憑がないか(=判定漏れの検出)

メリット

  • ほぼ無料。自分の運用に完全に合わせられる

  • 「なぜこの仕訳になったか」を摘要に日本語で書かせられる。 後から税務署に聞かれても答えられる

  • CSVなので、集計も分析も自由自在。ダッシュボードも自作できる

  • 税制の調べ物も一緒にやってくれる(ただし必ず一次情報のURLを出させること

デメリット・注意点(ここは正直に書きます)

  • AIの出力を検算する仕組みを自分で作らないと危険です。 上の4番は必須。人間が目視でチェックするだけでは必ず漏れます

  • 最終的な責任は全部自分です。 「AIがそう言ったので」は通用しません

  • 75万円控除(優良な電子帳簿・デジタルシームレス保存)は取れません。 訂正・削除の履歴が残るシステムなどが要件なので、CSVを手で直す運用では要件を満たせません

  • 確定申告のe-Tax送信は自分でやる必要があります。 決算書の数字はClaude Codeに作らせて、入力は自分で

  • 最初の設計に時間がかかります。 会計ソフトなら30分で始められるものが、丸1日〜2日かかります

向いている人:CSVとGitとスクリプトに抵抗がなく、「仕組みを理解した上で回したい」タイプ。 向いていない人:とにかく早く終わらせたい人。素直にクラウド会計ソフトを使ってください。

事業用の口座がない場合はどうするか

個人開発者の多くは、開業してもしばらく事業専用の口座を持っていません。私用のクレカで払って、売上も私用口座に入ってくる状態です。

この場合は 事業主借 と 事業主貸 を使います。 難しく考えなくて大丈夫です。

  • 私用の財布・カードで経費を払った → 貸方は 事業主借(例:通信費 / 事業主借)

  • 売上が私用口座に入金された → 借方は 事業主貸(例:事業主貸 / 売掛金)

事業用口座ができたら、そこから先は 普通預金 に切り替えます。口座がないから記帳できない、ということはありません。

12-5. 【必須】電子帳簿保存法 — ここは義務です

電子帳簿保存法には3つの区分がありますが、義務なのは1つだけです。

  • 電子帳簿等保存(自分が作る帳簿・決算書を電子で保存) … 任意

  • スキャナ保存(紙の領収書をスキャンして保存) … 任意

  • 電子取引データ保存(電子で受け取った/送った請求書・領収書) … 義務(2024年1月に完全義務化)

個人開発者は電子取引だらけです。

  • App Store Connect / Google Play Console の売上レポート

  • Stripe / PayPal の取引明細

  • AWS・Cloudflare・GitHub・OpenAI・Anthropic などからのメール請求書

  • Amazonやヨドバシのオンライン注文の領収書

  • クレジットカードのWeb明細

  • 自分がクライアントに送った請求書PDF(送信側にも保存義務があります)

これらは電子データのまま保存する必要があります。印刷して紙で保存するのは不可です。

満たすべき要件は2つ。

① 真実性の確保(改ざん防止)

タイムスタンプや専用システムを使わないなら、「訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」を自分で定めて運用する方法で満たせます。国税庁がサンプルを公開しているので、個人事業者用をダウンロードして名前を入れるだけです。費用ゼロ。

② 可視性の確保(検索できること)

取引年月日・取引金額・取引先」で検索できる状態にします。専用ソフトは不要で、ファイル名を統一すれば足ります。国税庁も同じ方法を案内しています。

YYYYMMDD_金額_取引先_書類種別.pdf

例)20260819_11000_サンプル商事_請求書.pdf
  20260426_2588_Cloudflare_請求書.pdf

なお、基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者は検索要件が緩和され、税務調査時にデータをダウンロードできるようにしておけばOKです。さらに「相当の理由」がある場合の猶予措置もあります。ただし**「データのまま保存する」こと自体は免除されません。**

12-6. 保存期間

  • 帳簿(仕訳帳、総勘定元帳など) … 7年

  • 決算関係書類(損益計算書、貸借対照表、棚卸表) … 7年

  • 現金預金取引等関係書類(領収書など) … 7年。ただし前々年分の所得が300万円以下の場合は5年でよいという例外があります

  • その他の書類(請求書、見積書、契約書、納品書など) … 5年

全部7年で運用すれば間違いありません。 ただし開業費が残っているうちは、開業費の明細は7年を過ぎても捨てないでください(→ 9-6)。

13. 個人開発者がハマりやすいポイント

① 事業所得か雑所得か

一番大事な論点です。雑所得だと青色申告特別控除も損益通算も使えません。

まず通達本文(所得税基本通達35-2の注)はこうです。

事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。 なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得…に該当することに留意する。

帳簿がなければ原則として雑所得。ただし括弧書きの例外があります。

そして「帳簿があれば必ず事業所得」でもありません。 ここは通達本文ではなく、国税庁が通達改正時に公表した**解説(趣旨説明)**に書かれています。混同されがちなので分けて引用します。

(注)その所得に係る取引を記録した帳簿書類を保存している場合であっても、次のような場合には、事業と認められるかどうかを個別に判断することとなります。 ① その所得の収入金額が僅少と認められる場合  例えば、その所得の収入金額が、例年、300万円以下で主たる収入に対する割合が10%未満の場合は、「僅少と認められる場合」に該当すると考えられます。  ※「例年」とは、概ね3年程度の期間をいいます。 ② その所得を得る活動に営利性が認められない場合  その所得が例年赤字で、かつ、赤字を解消するための取組を実施していない場合は、「営利性が認められない場合」に該当すると考えられます

「例年=概ね3年程度」と明記されているのがポイントです。 開業1年目に収入が少ないこと自体が即アウトになるわけではありません。

副業の個人開発で年間数万円しか収入がない状態は、この「僅少」に当たりうる水準です。 だから次を意識しておくといいです。

  • 営利性の証拠を残す … 契約書、プレスリリース、アプリの公開実績、継続的なコミット履歴。「収益を得るために継続して活動している」という裏付けになります

  • 無理に赤字を作らない … 経費を盛って大赤字にすると「営利性がない」と見られる余地が生まれます

6章の扶養対策の話は、全部この判定を通過することが前提です。 順番を間違えないでください。

② PCは10万円の壁を意識する

  • 10万円未満 → 消耗品費で一括経費

  • 10万円以上 → 原則は減価償却(PCは法定耐用年数4年)

  • 青色申告なら30万円未満(2026年4月1日以後取得は40万円未満)を一括経費にできる特例あり

そしてプライベートでも使うなら家事按分が必要です。 「スクリーンタイムで測ったら事業利用が74%だった」のように、測れる根拠を残してください。

③ 外貨建てのサブスクは円換算額で記帳する

OpenAI、Anthropic、GitHub、Figma… ドル建てのサービスは多いです。カード明細で確定した円貨額で記帳します。 海外事務手数料が別行で引き落とされることもあるので、明細と突き合わせてください。

④ 年払いサブスクは期間で按分することがある

  • 月額課金(月ごとに更新されるもの)→ 短期前払費用として支払日の属する年の費用でOK

  • 年払い・複数年払い(ドメイン、Apple Developer、サーバー年契約)→ 開業日や年末をまたぐ場合は**経過分と未経過分を割って、未経過分は「前払費用」**にするのが原則

同じ性質のものを別々に扱うと必ず食い違うので、自分の中でルールを決めて統一してください。

⑤ App Store / Google Play の手数料

売上として計上するのは手数料が引かれる前の総額、手数料は支払手数料などの経費として別に計上するのが原則です(総額主義)。入金額だけを売上にすると、経費を1つ落とすことになります。

⑥ 領収書の額面と実際の支出が違うことがある

実際に自分が遭遇したパターンです。必ずカード明細・銀行明細と突き合わせてください。

  • 請求3,000円だが決済がPayPay 2,820円 + 残高180円に分かれていた

  • 領収書は3,000円だが翌々日に全額返金されていた(実際の費用は0円)

  • 海外サービスが「本体 + 海外事務手数料」の2行に分かれて引き落とされていた

  • 決済失敗 → 再決済 → 返金 で3行出るが、成立しているのは1件だけ

⑦ 消費税は当面気にしなくていい

基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円以下なら免税事業者です。

ただし条件はもう1つあります。 基準期間がセーフでも、特定期間(前年の1月1日〜6月30日)の課税売上高が1,000万円を超え、かつその期間の給与等支払額も1,000万円を超えると課税事業者になります。ひとりでやっている個人開発者は給与を払っていないので通常は関係ありませんが、人を雇い始めたら思い出してください。

インボイス登録をすると免税でなくなり納税義務が生じるので、BtoBの受託がメインでない限り、売上が1,000万円に近づくまでは登録しないのが基本方針でいいと思います。

14. チェックリスト

開業したらやること

  • [ ] 開業日を決める(説明できる根拠を持つ/青色申告承認申請の期限に注意)

  • [ ] 青色申告承認申請書を出す ← 開業から2か月以内。最優先

  • [ ] 開業届を出す(期限は翌年3月15日。2026年から改正)

  • [ ] 提出は freee開業(無料) が速い。Macでもスマホ+マイナンバーカードでe-Tax送信できる(→ 10-3-2)

  • [ ] 家族に給与を払うなら青色事業専従者給与に関する届出書も出す(期限は青色申告承認申請書と同じ)

  • [ ] 都道府県の事業開始届を出す(任意判断。自治体名+「個人事業税 事業開始 申告書」で検索)

  • [ ] 開業前に使ったお金を集計して開業費にする(10万円以上の資産は除く)

  • [ ] 会社を辞める予定があるならハローワークに相談

  • [ ] 健康保険の扶養に入っているなら健保に確認

  • [ ] 学生は自分の防衛ラインを確定させる(多子世帯の給付があるなら合計所得58万円)

  • [ ] 学生は自分の住民税(45万円)と国民年金の学生納付特例(128万円)も確認する

  • [ ] 税務署に電話して記帳指導を申し込む(無料・4〜5回)

日々やること

  • [ ] 複式簿記で記帳(クラウド会計ソフト/記帳指導/Claude Code のどれか)

  • [ ] 電子で受け取った請求書・領収書を電子のまま保存

  • [ ] ファイル名を「日付_金額_取引先_種別」で統一

  • [ ] 事務処理規程を作って置いておく(国税庁のサンプルで可)

  • [ ] 領収書とカード明細を突き合わせる

確定申告のとき

  • [ ] 貸借対照表と損益計算書を作る

  • [ ] 開業費をいくら償却するか決める(温存も有力な選択肢)

  • [ ] e-Taxで期限内に送信(PDFではなくデータ形式で)

  • [ ] 確定申告書第二表の「住民税・事業税に関する事項」を埋める

  • [ ] 帳簿と書類を7年保存

15. 出典

すべて一次情報です。気になったところは必ず原典を確認してください。

法令

  • 所得税法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033 … 第50条(繰延資産の償却費)、第148条・第150条(青色申告)、第229条(開業等の届出)

  • 所得税法施行令(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096 … 第7条(繰延資産の範囲=開業費の定義)、第96条(家事按分)、第137条(繰延資産の償却費の計算)

  • 地方税法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226 … 第72条の2(法定業種)、第72条の50(個人の事業税の賦課の方法)第72条の51(納期)、第72条の49の14(事業主控除)、第72条の55・55の2(申告・報告義務)、第72条の56(虚偽申告の罪)、第72条の57(不申告の過料)、第72条の59(所得税又は道府県民税に関する書類の供覧等)

国税庁

e-Tax

財務省・総務省・中小企業庁・中小機構

厚生労働省・協会けんぽ・日本年金機構

文部科学省・JASSO(多子世帯の授業料無償化)

都道府県(個人事業税)

参考にした税理士の見解

繰り返しになりますが、自分は税理士ではありません。判断に迷ったら税務署に電話するのが一番早くて確実です。 意外と丁寧に教えてくれますし、12-3で書いたとおり、記帳指導まで無料でやってくれます。

個人開発の収益化、頑張っていきましょう。

最後にもう一度だけ。文化祭の模擬店レジ、完全無料でやってます 🎪

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文化祭実行委員の方、模擬店をやる方に届いてほしいので、役に立ったと思ったらリポストしてもらえると本当に助かります。

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