映画note『晩菊』(1954)
夜雨の名画座100本目の映画は、成瀬巳喜男監督の『晩菊』(1954)です。節目を飾る映画にしては地味かしら、でもお気に入りの1本です。
ドラマティックな展開はないけれど、こうゆう作品が撮れたということが映画全盛期の日本映画の底力のようなものかもしれません。
成瀬巳喜男監督の作品は、下町、花柳界、お金の話というのが個人的には3大ポイントだと思っていて、『流れる』などもそうゆう映画で『晩菊』もまた然り。
『流れる』が芸者屋を舞台にしていたのに対して、『晩菊』は現役ではない年増の女たちの日常の物語になる。それでも花柳界にいた残り香みたいなものをどことなくその身から漂わせてもいる。
原作は林芙美子の『晩菊』など短編三本を紡いでいる。成瀬巳喜男監督はこの作品以前に『めし』『稲妻』、この作品以降に『浮雲』と、林芙美子の作品をとっているので、よほどお気に入りなのだろう。
また、彼女たちの生態をちょいとユーモラスにも描いている。成瀬監督のユーモアなので爆笑することはないかもしれないが、ニンマリとさせてくれる。
主演は杉村春子。彼女は名女優だが舞台での活躍が中心で、映画は数あれどほとんどが脇役。そんな中で『晩菊』は数少ない主演映画となっている。
もっともこの作品の中心的な四人の女優、杉村春子、望月優子、細川ちか子、沢村貞子といった芸達者な女優で、映画スターとは言い難いところを集めて撮っているのだから、地味というか渋いけれども、共演がたのもしい。
倉橋きん(杉村春子)は芸者あがり。いまはかつての仲間に金を貸したり、不動産売買などして暮らしている。いまは独りで、耳の不自由な住み込みの若い女中と本郷あたりに住んでいる。
むかしの仲間からは、『たかが金貸しのババァじゃねぇか』と陰口を叩かれている。
若い頃に惚れ込んだ田部(上原謙)がおきんを訪ねてきた。久しぶりの再会に、小娘のように浮足立つ彼女だったが、男は金の工面をお願い出来ないかとおきんに持ちかけてくる。なんだ、この男もカネの話かとガッカリ。
おきんと並行して二人の女性の日常も描かれている。
鈴木とみ(望月優子)も芸者あがり。いまは雑役婦である。パチンコや競輪が好きで、借金もあるがおきんからは借りていない。ちょっとだらしがない印象を受ける。
幸子(有馬稲子)という娘がいる。娘にも小遣いをせびる母親だが、娘は好きだと言ってくれる男と結婚するという。さっさと荷物をまとめて出ていってしまう。
小池たまえ(細川ちか子)は料亭の女中だった。いまは旅館の掃除婦。ちょっと病弱なところがあり、夫と死別してからは苦労つづきのようだ。
息子の清(小泉博)がいる。どこぞのお妾さんと付き合ってみたり、北海道へ就職を決めて来たり、母親を驚かせる。
中田のぶ(沢村貞子)も料理屋の女中だった。いまは亭主(沢村宗之助)とおでんやを開いている。おきんからは金を借りている。夫婦に子どもはないが。欲しいと思っている。沢村貞子は割烹着がよく似合う。
撮影は玉井正夫。美術は中古智。実物と見まごうセットが下町の雰囲気が出ていてとても素敵。そこで生活されている感がある。これモノクロだから尚更いいんだと思う。終戦からまだ十年と経ていない日本の下町の暮らしを垣間見る。
ただしこの『晩菊』は残念な点がひとつある。それは倉橋きんが田部に対してガッカリしてゆく過程で、きんのナレーションが入るところ。
要らないと思う。
浮かれていた彼女が落胆してゆくところは、本作でも興味深いところなのだから、名女優杉村春子の芝居で見せられると思うので。
『晩菊』(1954)
監督:成瀬巳喜男
製作:藤本真澄
原作:林芙美子『晩菊』『水仙』『白鷺』より
脚色:田中澄江、井手俊郎
撮影:玉井正夫
美術:中古智
音楽:斎藤一郎
出演
杉村春子 … 倉橋きん
沢村貞子 … 中田のぶ
細川ちか子 … 小池たまえ
望月優子 … 鈴木とみ
上原謙 … 田部
小泉博 … 小池清
有馬稲子 … 鈴木幸子
見明凡太郎 … 関
沢村宗之助 … 中田仙太郎
加東大介 … 板谷
鏑木ハルナ … 女中・静子
