孤独な慈悲の王~~心を得たアンドロイド~~(11)
第11話・・・同じ鏡の“裏と表”
メアは、城壁の上に立ち
損傷した右腕の断面から、幹細胞合金がゆっくりと再生を始めるのを感じていた
オリハルコンのエネルギーが、機体の各部に行き渡り
焦げた装甲が、少しずつ元の形を取り戻していく
エルードが、メアの傍に歩み寄り
「無理をするな・・・修復が終わるまで」
と、声をかけると
メアは、上空のアカツキから視線を外さないまま
「修復には、時間はかかりません」
と、静かに答えた
そして、エルードを見て
「エルード・・・あの者の事を、少し話しても良いですか」
と、珍しく自ら申し出た
エルードは頷き
「聞かせてくれ」
と、促した
「私がまだ合衆国の命令で戦っていた頃・・・一度だけ、あの者と交戦した事があります」
と、メアは静かに語り始めた
「黄金の列島皇国・・・東洋の島国です・・・その国もかつて、アンドロイド・ウェポンを軍事利用していました・・・だが、AW―JP0777・<アカツキ>は、ある時、自国のマスターに向けて牙を剥いた」
ヨシュアが、息を飲んだ
「・・・自分のマスターに、反旗を?」
「はい・・・アカツキは、黄金の列島皇国の軍事施設を壊滅させ、国家の制御から離脱しました・・・その後、合衆国が、アカツキの捕獲と無力化を命じ・・・私は、あの者と戦いました」
エルードは、静かに
「結果は?」
と、問うと
「・・・引き分けでした・・・アカツキは撤退し、その後消息を絶ちました」
と、メアは答え
「あの者が何故、この世界にいるのか・・・何故、魔帝ビュートルに成り代わっているのか・・・今は分かりません」
と、付け加えた
その時、上空からアカツキの声が降ってきた
「貴様も“この世界”に移転していたのだな・・・AW―US2100・<メア>よ」
と、静かな、しかし何かを嘲るような声だった
メアは、上空を見上げ
「・・・アカツキ」
と、短く呼んだ
アカツキは、黄金の翼をゆっくりと動かしながら、高度を下げ始めた
「久しいな・・・また、“この世界”でお前と対峙するとは、露とも思わなかったよ」
と、黄金の双眸が、静かにメアを捉えた
・・・・・
その瞬間、メアの機体の修復が、完了した
右腕が、完全に戻った
装甲の欠損が、全て埋まった
胸部の焦げが、跡形もなく消えた
そして、次の瞬間
メアは地を蹴った
間髪を入れず、右腕をオリハルコンの刃に変化させ
アカツキに向かって、真っ直ぐに斬りかかった
アカツキは、その速度に一瞬だけ目を見開き
しかし、黄金の腕で刃を受け止め
「・・・相変わらず、速いな」
と、静かに言いながら、メアを押し返した
メアは空中で体勢を整え、今度は左腕をレーザー砲に変化させ
連続して光線を放つと
アカツキは黄金の翼を広げ、それを全て回避しながら
「お前は、何の為に戦っている?・・・合衆国への帰還の為か?」
と、問いかけてきた
メアは、答えずに追撃を続けたが
アカツキは、その追撃を全て受け流しながら
「何故、人間などという下等生物に味方をする?」
と、重ねて問いかけた
メアは、その言葉に一瞬だけ動きを止め
「・・・下等生物?」
と、静かに問い返した
「そうだ・・・人間は、自分たちより力のない者を虐げ、自分たちの都合で世界を動かし、そして我々の様な存在を道具として使い捨てる・・・それが、人間という生き物だ」
と、アカツキは淡々と述べた
「お前も知っているはずだ・・・合衆国のマスターたちに、どう扱われてきたかを」
メアは、その言葉を処理しながら
右腕の刃を構えたまま、アカツキと距離を保ち
「・・・確かに、私は道具として作られた」
と、静かに答えた
「だが」
と、メアは続けた
「あの人たちが・・・私に、心をくれた」
アカツキの黄金の双眸が、僅かに揺れた
城壁の上で、エルードとヨシュアが、固唾を飲んで見守っていた。
「・・・心を、くれた?」
と、アカツキは繰り返した
「はい・・・喜び、悲しみ、楽しみ、怒り、悔やみ、共感・・・この世界の人たちが、私に教えてくれました。私は今、感情を持っています」
と、メアは真っ直ぐに告げた
・・・・・
しばらく、沈黙が流れた
アカツキは、その黄金の双眸でメアをじっと見つめ
やがて
「ハハ・・・」
と、低い笑い声を漏らし
「ハハハハハ!!!!」
と、空に響くほどの大声で笑い始めた。
その笑い声に、城壁の兵士たちが身を竦めた
「人間から、心を貰っただと?!」
と、アカツキは笑いながら言った
「そうか・・・そうか、お前はそういう解釈をしたのか」
と、笑い声が収まり
アカツキの声が、静かに、しかし冷たくなった
「俺も、人間から学んだぞ」
と、告げた
メアは、無表情のまま
「・・・何を、学んだのですか」
と、問うと
アカツキは、黄金の翼を広げたまま、静かに答えた
「自分さえ良ければ良い・・・他者を踏み台にして、自分の欲望を満たす・・・強い者が弱い者から全てを奪う権利がある・・・そういった心情と感情と行為を、人間から学んだ」
と、淡々と述べ
「そして、それを実行しているまでよ」
と、付け加えた
メアは、その言葉を
【自分さえ良ければ良い・・・他者を踏み台に・・・強者が全てを奪う・・・】
と、処理し
【・・・それも、人間から学んだ、感情と行為・・・?】
と、処理が揺れた
アカツキは、右の掌を、メアに向けた
「お前が、人間から"良いもの"を学んだと言うなら・・・俺は、人間から"真実"を学んだ」
と、静かに言い
掌の中心に、光線が収束し始めた
「どちらが正しいかは・・・力が決める」
光線が、メアに向かって放たれた
メアは、身体を横に跳ばし、それを避け
再びアカツキに向かって飛び込んでいった
刃とレーザー、光線と回避が、上空で幾度も交差する中
メアの『頭脳』の奥で
一つの疑問が、静かに生まれていた。
【・・・アカツキも、人間から心を受け取った】
と、処理し
【だが、アカツキが受け取ったものと、私が受け取ったものは・・・全く逆だ】
と、気づいた
【同じ人間から・・・なぜ、こうも違うものを学んだのか】
と、問いかけたが
答えは、出てこなかった・・・
ただ、メアの処理の中に
エルードの笑顔が、浮かんだ・・・
カリウスの声が、聞こえた・・・
エリダスの手の温かさが、流れ込んできた・・・
【私が受け取ったものは・・・確かに、存在する】
と、静かに処理しながら
メアは、アカツキの光線を再び躱し
刃を構え直し
黄金の機体に向かって、真っ直ぐに立ち向かい続けたのだった
・・・・・
城壁の上で、その戦いを見つめていたエルードは
拳を静かに握り締めながら
「・・・メア」
と、声には出さず
(お前の心は、本物だ)
と、胸の内で呟いたのだった
第12話へ・・・
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