【1/2】第二創業のための3つの視点——締切、評価、終わり方
こんにちは、アカネサス代表の北條竜太郎です。
前回の連載では、経営者が選べる五つの道をお示ししました。
そのうち第五の道として挙げたのが、第二創業です。
既存事業を保ちながら、新しい領域へ踏み出す。
——海外進出、新業態、フードテック、ブランドの再構築。
今日から始まる連載では、この「第二創業」の道を選んだ方に向けて書きます。
【前編】では、「締切が先、制度はあと」と、「フリースローを外す」をお届けします。
締切が先、制度はあと|DTSU、9月上旬開始
まず締切の話から始めます。
◆ 受付は、約1週間しかありません
NEDOのディープテック・スタートアップ支援事業——通称DTSU——が、今月上旬に公募開始の見込みです。
最長6年、1件あたり最大30億円。
食品分野も対象です。
「あれはバイオや半導体のための制度でしょう」と言われることが多いのですが、そんなことはありません。
ただし、この制度には最大の注意点があります。
受付期間は1回あたり約1週間しかないということです。
つまり「公募が出てから準備を始める」という進め方は、この制度に関しては成立しません。
◆ 公募前に必ず済ませておく、三つのこと
1:e-Rad(国の研究開発管理システム)の登録
NEDO系は登録が必須で、取得に2週間以上かかることがあります。
公募が開いてから動いたのでは、その時点で間に合いません。
2:フードテック官民協議会への入会
会費は無料。
農水省のフードテック実証事業では要件になっていますし、入会そのものがフードテック企業・食品メーカーとの接点になります。
公募を待つ理由がありません。
3:提案書を「完成在庫」にしておくこと
開いたら出すだけ、という状態まで仕上げておく。
受付1週間の制度では、これが標準動作です。
この3つはすべて、今日から動けることばかりです。
◆ 「フードテックの補助金は小粒だ」について
よく言われます。
実際、農水省のフードテックビジネス実証事業は上限2,000万円(補助率1/2)で、工場を建てる設備補助金と比べれば、たしかに小さい。
けれども、あれは階段の一段目に過ぎません。
実証事業で2,000万円。
NEDOのSBIRで、フェーズ1が2,000万円、フェーズ2で1億円。
DTSUで最大30億円。
海外での大型実証まで視野に入れれば40億円。
このように、成長段階ごとに、金額の階段が用意されています。
ここで大事なのは、一つの制度で完結させないことです。
実証で得たテストマーケティングのデータは、SBIRの申請書の説得力になります。
SBIRで積んだ研究開発実績とVC調達は、DTSUの土台になる。
この「接続」を最初に設計するかどうかで、貴社の3年後の資金調達力が変わります。
食品だから対象外、ということは絶対にありません。
まずは、自社がいまどの「段」にいるのか。
そこから確かめましょう。
構造的ポイント
・DTSUは受付期間が約1週間しかなく、「公募が出てから準備」という進め方は成立しない
・e-Rad登録、フードテック官民協議会への入会、提案書の完成——この3つは公募前の今日から動ける
・実証事業→SBIR→DTSUと、資金調達には成長段階ごとの「接続」を最初に設計することが3年後の調達力を左右する
フリースローを外す|映画『小説家を見つけたら』
25年前の作品です。
補助金からは離れるように思うかも知れませんが、実は深くつながっています。
◆ バスケットボールで、名門校に入った少年
ご紹介したいのは『小説家を見つけたら』(2000年、ガス・ヴァン・サント監督、ショーン・コネリー主演)という作品です。
主人公のジャマールは、ブロンクスに住む16歳。
バスケットボールの選手を目指していて、実際に抜群の才能を持っていました。
全国規模の学力試験でも高い成績を出し、マンハッタンの名門私立高校からスカウトされます。
ただし、学校側が欲しかったのは、主に「バスケットボールの成果」でした。
けれども彼には、誰にも見せていないものがありました。
書き溜めた文章です。
ひょんなことから、彼は同じ街に隠れ住む老作家フォレスターと出会います。
40年前に処女作一冊でピュリツァー賞を獲り、そのまま姿を消した男。
二人のあいだに師弟のような関係が生まれ、ジャマールの文章は見違えていきます。
そして、ある日事件が起きます。
◆ 「うますぎる」
彼が作文コンテストに出した文章を読んだクロフォード教授は、称賛ではなく疑いを口にします。
「うますぎる」と。
やがて教授は、その文章の題名が、過去にフォレスターが雑誌に発表したエッセイと同じであることを突き止めます。
「剽窃だ」と。
ジャマールは追及されますが、フォレスターのことは誰にも話さないと約束していたため、弁明せず黙るしかありません。
結果、コンテストから外され、退学処分を決める審議にかけられます。
私がこの映画で最初に引っかかるのは、いつもこの場面です。
割り当てられていない領域で示された能力は、証明として扱われないことがある。
むしろ、不正の証拠として扱われる。
彼はバスケットボール選手として入学しました。
だから、文章がうまいことは彼の実績ではなく、かえって彼の疑惑になるのです。
◆ 理事会が持ちかけた取引
そして、学校の理事会が彼に通達します。
今後はバスケットボールに専念し、チームを優勝させろ、と。
言い方は丁寧です。
けれど中身は露骨な取引です。
余計なことをするな、我々が評価したもので結果を出せ、そうすればこの件は収める。
投資を受けたことのある方なら、この文の形に見覚えがあるはずです。
次の調達までは、いまの指標だけを伸ばしてください。
事業承継をされた方なら、別の言い方で聞いているはずです。
「とりあえず、これまで通りやってくれ」と。
そして、決勝戦の日がやって来ます。
◆ 彼は、フリースローを外します
得意なはずのフリースローを彼は外します。
そして、チームは負けます。
私がこの映画を何度も観てしまうのは、まさにこの場面のためです。
彼は辞めません。
抗議もしない。
演説もしない。
ただ、一番得意なことが、できなくなるのです。
観ているこちらには理由がわかりますが、コートの上の彼に自覚があるようには見えません。
おそらく本人にも説明できない。
これは、私が現場で何度か見た形でもあります。
承継して数年経った二代目が、いちばん得意だったはずの営業で、急に数字を落とす。
本人に聞いても、体調が悪いわけでも、市場が変わったわけでもない、と言う。
周囲は気の緩みだと言い、本人もそう思おうとしている。
けれども、その少し前を深掘りすると、必ず何かが起きています。
自分の考えた企画が、検討されもせずに戻ってきた。
設備投資の提案が、理由の説明もなく止まった。
そういうことが、何度か。
反抗は、わかりやすい反抗の形をとるとは限りません。
「得意だったはずのフリースローが入らなくなる」という形で現れることがあるのです。
◆ 今日、お預けしたい問い
貴社は、何を評価されて、いまのお金が入っていますか。
補助金にせよ、融資にせよ、出資にせよ、資金は必ず「評価された何か」に対して入ってきます。
そして、その何かは、たいてい経営者ご自身がいちばんよく自覚しています。
口に出さないだけで。
問題は、それが自分のやりたいこととずれているときに、どう扱うかです。
ずれていること自体は、悪いことではありません。
むしろ普通です。
ジャマールがバスケットボールで名門校に入ったからこそ、フォレスターのいる街に通うことになった、という順番も、この映画は丁寧に描いています。
本当に危ないのは、「ずれを見ないことにしたとき」です。
見ないことにしたずれは、なくなりません。
最も得意だったフリースローのほうに、思いもよらない不調として表れます。
構造的ポイント
・割り当てられていない領域で示された能力は、証明ではなくむしろ疑惑として扱われることがある
・「評価されたことだけをやれ」という取引は、投資や事業承継の現場でも同じ形で現れる
・見ないことにした「やりたいこととのずれ」は消えず、いちばん得意なことの不調として表れることがある
■ 参考
・『小説家を見つけたら』(Finding Forrester、2000年)
監督:ガス・ヴァン・サント
出演:ショーン・コネリー、ロブ・ブラウン、F・マーリー・エイブラハム。(136分)※各動画配信で観られます
次回予告
次回は、ガラリと変わって戦争の話をします。
一見違うテーマに見えるかもしれませんが、同じ話です。
数字が目的の代わりに座ってしまうとき、何が起きるのか。
そして、終わりのない挑戦と、終わり方を持った挑戦を分けるものは何か。
「10年勝ち続けて、負けた」で、その答えに迫ります。
