第1回「なんでも相談してもいいですか?」
弁護士をしていると、時々こんな瞬間がある。
「それは今じゃなくても……」と思う連絡と、
「それ、もっと早く言ってほしかった……」という報告。
依頼者から見れば、「何が大事かわからない」。
弁護士から見れば、「全部聞いていたら進まない」。
このすれ違いのあいだで、事件は静かに動いていく。
■ 「何でも話してください」は半分本音、半分建前
多くの弁護士は、初回相談でこう言う。
「どんな小さなことでも構いません。何でも話してください。」
これは半分は本音で、半分は建前だ。
本音では、本当に何でも聞きたい。
でも現実には、「そこまでは聞かなくても」と思うこともある。
弁護士の仕事は、法的思考であり、同時に“情報整理業”でもある。
受け取った情報を意味づけし、優先順位をつけ、行動に変える。
だから「どこまで聞くか」「いつ扱うか」は、意外と難しい。
■ 依頼者にも“情報タイプ”がある
何でも逐一報告する人。
「大したことない」と黙る人。
どちらもいる。
弁護士が本当に困るのは、
「言わなかったけれど実は重要だった」ケースだ。
些細な一言が、訴訟をひっくり返すこともある。
だから、入口を狭めるのは危険だ。
入口は広く、出口で仕分ける。
それが、弁護士の思考整理の基本だと思う。
■ 情報の“流れ”を設計する
依頼者には、こう伝えるようにしている。
「関係ありそうと思ったら遠慮なく教えてください。
ただ、事件に直接関係しない内容は、次の打合せでまとめて伺います。」
この一文で、依頼者は安心し、
弁護士は時間を守れる。
情報の流れを設計することも、専門性のひとつだ。
“聞く力”は依頼者を安心させ、
“見抜く力”は事件を動かす。
■ 「情報の共同管理者」という関係
最終的にめざすのは、弁護士と依頼者が
「情報の共同管理者」 になること。
依頼者は「分からなくても言ってみる」。
弁護士は「何でも聞くが、重要度は自分で判断する」。
その関係ができると、事件は不思議なほどスムーズに進む。
情報が過不足なく流れると、信頼関係も自然に整っていく。
■ 結びにかえて
「そんなことで連絡しないで」と思う日もある。
「それは早く言ってほしかった」と思う日もある。
でも、その間をつなぐのが弁護士の仕事なのだと思う。
事件を動かすのは、証拠だけではない。
依頼者の、何気ない一言かもしれない。
