第8話 | 身体の限界
日による彼女の対応の波も、なんとなく乗り分けられるくらいには慣れてきていた。
今日は機嫌がいい。
今日はちょっとピリピリしている。
質問してもテキトーに返されることにも、少しずつ慣れてきた。
この頃にはもう、それが私にとっての通常運転になっていて、そこについていちいち考えないことが当たり前になっていた。
そしてこの頃助かっていたのは、掛け持ちでやる仕事が減った事だ。
そんなある日、私の所属する部署で全体ミーティングがあった。
1時間くらいの会議が終わったあと、部署内全員が揃っている席で、彼女が突然、まだ公表されていない人事の話を始めた。
他部署の今のリーダーが降ろされて、新しい人がリーダーになる。
そんな話を、鼻息荒く話していた。
「あの人、頑張ってるけど要領悪すぎて、何の資格も取ることできなさそう」
私が尊敬している先輩については、
「あいつはバカだから、要領だけはいいから資格は取れそう」
そんなことまで言っていた。
私は、聞いていて結構苦しかった。
まだ公表されていない人事のことを、部署内全員がいるところで話していること。
そして、頑張っている人のことを、本人がいないところでそんなふうに貶めること。
これが、リーダーとして正しい姿なのかな。
そう思った。
こういう発言が続いていくと、リーダーという立場を使って、自分の力を誇示したいようにも見えた。
私に気に入られないと、こうなるからね
そんなふうにも取れた。
強く見せたいのか。
威圧したいのか。
その全部なのか。
今となっては分からない。
ただ、私は改めて、この人は気に入らない人のことは、見えない場所でどこまでも貶めるんだ。
そう思った。
前回で感じていた、いつか私も、吊るし上げられる側になるんじゃないかという恐怖も、少しずつ大きくなっていった。
そして、この頃、身体にも変化が出ていた。
私はもともと持病があって、お腹の調子を崩すことは珍しくなかった。
だからこそ、自分でも分かっていた。
お腹が痛くなるときは、ただお腹の調子が悪いだけじゃない。心で感じ取っている以上に、身体がストレスを感じていることが多い。
この頃、調子が優れないことがよくあって胃腸科に通院していた。病名は伏せるが、私の病気は過剰なストレス(心理的、肉体的のどちらも含む)により、腸が痙攣する病気だ。数年前に悪化したときは高熱が出て、点滴を余儀なくされた。
だから、仕事がかなりのストレスになっていることには気づいていた。
それでも、辞めるわけにはいかなかった。
子どもたちに習い事をさせてあげたい。
これからやらせてあげたいこともある。
たかがパートかもしれない。
でも、我が家にとっては大切な収入源だった。
そして何よりも、やりたかった憧れの仕事を辞めるという選択肢は私にはなかった。
今思えば、私は精神的には頑張れてしまうタイプなんだと思う。
人生のドン底も経験したからそれに比べればまだ大丈夫。と思えてしまう。
私は強い。
今振り返ればこの言葉は支えであり、呪いだった。
この頃朝決まった時刻に起きれなくなっていた。具合が悪いわけじゃないのに、身体が重くて起き上がれないことが何度もあった。睡眠時間が足りないわけじゃない。目覚しは分散させて30分間隔でかけていたがそれでも起きられない日があった。
疲れている。
でも、子育て中のママってきっとみんなこんなもんだ。そう言い聞かせて、また仕事に行った。
