ゲタはリタで笑う
水風呂の前に、僕はぽつんと置かれている。
そう、ただの「下駄」だ。
いや、ただのって言ってしまうと身もふたもないけれど、僕にだって役目がある。
ここを訪れるサウナーさんたちが、目をやるたびに「ふっ」と笑う。
その一瞬で、少し肩の力が抜ける。
サウナの熱でカッカした体と心が、ちょっと和むんだ。
僕がここにいる理由は、ちょっとした語呂合わせらしい。
「リタ」と「ゲタ」。
まさか、それだけで選ばれたなんてね。
最初は拍子抜けしたけれど、今では誇らしい。
くだらないきっかけでも、人を和ませられるなら、立派な使命だから。
僕は毎日ここで、水しぶきを浴びながらサウナーたちを見守っている。
水風呂に飛び込む前のあの緊張感、そして頭から冷水を浴びたときの表情。
ふーっと深呼吸して、肩の力を抜く瞬間。
その姿を見るたびに「おお、今日もいいととのいだな」と、胸の中でつぶやく。
……とはいえ、僕は飾り物。
誰かに履かれることはない。
本来の「下駄」としての役割を果たすことは、ここでは期待されていないんだ。
それでも、ほんの時々でいいから――水風呂から上がった誰かが僕を履いて、
木の感触を「カランコロン」と響かせてくれたら、きっと嬉しいだろうな。
まあ、そんな願いを心にしまいながら、僕は今日もここに立っている。
立派な存在感じゃないけれど、なくちゃ少し寂しい。
そんな立ち位置も、悪くないだろう。
水風呂から上がったサウナーが、満足そうに息をつく。
僕は小さな声でつぶやく。
「いやぁ、今日も、いい仕事したなぁ。……でも、いつか一度でいいから、履いてほしいなぁ。」
そのとき、ふと視線を上げると、煙突の先でやさしく煙が揺れていた。
あの「煙突おばさん」も、きっと同じ気持ちで、サウナーを見守っているんだろう。
僕らは場所こそ違えど、同じ景色を分かち合う仲間なのかもしれない。
そして思う。
――ここに立ち続けられるのも、リタサウナがみんなに愛されてきたおかげだ。
これからも、たくさんの笑顔と「ととのい」を見守れますように。
小さな下駄からも、ささやかに。
「リタサウナ、これからもよろしく。そして、ありがとう。」
本作は、サウ賀源内さんとのコラボ作品です。
物語はこちらで、イラストはサウ賀源内さんのページでご覧いただけます。
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