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#000|飲食店経営を「バリューチェーン(価値の連鎖)」で考える意味――顧客価値と生産性を、どちらも高めるために

はじめに

飲食店を経営していると、さまざまな数字が目に入ります。

売上。
客数。
客単価。
原価率。
人件費率。

なかでも、
売上=客数×客単価
は、飲食店経営の基本的な式です。

私自身、店舗で働いていた頃、「どうすればもっと売上を上げられるのだろう」と何度も考えてきました。

  • 客数を増やす。

  • 客単価を上げる。

  • 販促を強化する。

もちろん、どれも重要です。

しかし、売上という数字だけを見ていても、店舗のどこに課題があるのかまでは分かりません。

なぜなら売上は、商品、接客、集客、店舗オペレーションなど、さまざまな活動が積み重なった結果として現れる数字だからです。

売上が上がった。
売上が下がった。

その結果だけを見るのではなく、

なぜ、その数字になったのか。

そこまでさかのぼって考える必要があります。

そこで、この連載で軸にしたいのが、飲食店経営を「つながり」で見る視点です。

そのために使うのが、バリューチェーン(価値の連鎖)という考え方です。

飲食店は、料理を売るだけの場所ではない

飲食店には、さまざまな活動があります。

その中でも、私は大きく3つの流れに注目しています。

一つ目は、厨房です。
食材を仕入れ、保管し、仕込み、調理し、料理として提供する。

二つ目は、接客です。
お客様を迎え、席へ案内し、注文を受け、料理を提供し、会計し、送り出す。

そして三つ目が、顧客です。
店を知る。
「行ってみようかな」と思う。
実際に来店する。
料理やサービスを体験する。
そして、
「また来たい」あるいは、「もういいかな」と判断する。

厨房、接客、顧客。

この3つは、それぞれ独立して動いているわけではありません。

例えば、厨房で料理が完成しても、接客による提供が遅ければ、顧客が感じる価値は変わります。

接客が素晴らしくても、料理そのものに魅力がなければ、満足にはつながりにくいでしょう。

反対に、料理も接客も良くても、長時間待たされたり、店内が不衛生だったりすれば、店舗全体への評価は下がるかもしれません。

つまり飲食店では、

厨房、接客、顧客の3つの流れが重なり合いながら、最終的な顧客価値をつくっている。

私はそう捉えています。

私が過去に行った外食サービスに関する研究でも、レストランを、厨房により作られる「料理」という「製品」と、接客により提供される「サービス」、そしてそれらを受け取る「顧客」を同時にマネジメントする場として捉え、顧客・接客・厨房という3者の活動を一つの価値創造の流れとして考えました。

この考え方が、今も私が飲食店経営を見るうえでの土台になっています。

顧客価値は、来店した瞬間に決まるわけではない

例えば、口コミを読んで、または知人からよい評判を聞いて、楽しみにしていた店へ行ったとします。

入店時の対応が良かった。
料理もおいしかった。
ここまでは、とても満足している。

ところが最後の会計で長く待たされ、スタッフの対応も素っ気なかった。

それだけで、それまで積み上がっていた評価が少し下がることがあります。

逆もあります。

多少待たされたとしても、

「お待たせして申し訳ありません」と一言声をかけてもらった。

子どもが困っていたときに、スタッフがさりげなく助けてくれた。

そんな小さな出来事によって、

「この店、いいな」と感じることもあります。

つまり、顧客が感じる価値は一度決まったら変わらないものではありません。

来店前から退店後までの一連の体験の中で、価値は積み上がったり、失われたりする。

この「価値の変化」をどう捉えるかは、この連載の重要なテーマの一つです。

顧客満足か、生産性か

飲食店経営では、しばしば二つの要求がぶつかります。

一方では、

「もっと丁寧なサービスをしよう」と言われる。

もう一方では、

「人件費を抑えよう」
「もっと効率化しよう」

と言われる。

すると、

顧客満足を高めるには、人やコストをかけなければならない。

あるいは、

生産性を高めるためには、サービスを削らなければならない。

という二者択一になりがちです。

しかし、本当にそうでしょうか。

例えば、注文業務をデジタル化し、スタッフの作業時間を減らす。

そこで生まれた時間を、困っているお客様への対応に使う。

仕込みの工程を標準化し、作業時間を短縮する。

同時に、誰が作っても料理の品質が安定するようにする。

メニューを整理して厨房の複雑さを減らし、主力商品の品質と提供速度を高める。

こうした改善なら、
生産性を高めながら、顧客価値も高める
ことができます。

私が外食サービスを研究したときも、中心にあったのは、
顧客満足を高めながら生産性を向上させ、両者をトレードオフにさせないためにはどうすればよいのか。
という問いでした。

そして、この問いは今も変わっていません。

私が目指したいのは、顧客満足と生産性のどちらかを犠牲にする経営ではありません。

顧客にとって価値が高く、働く人に無理がなく、そして経営として利益が残る店。
その3つを同時に成立させる方法を考えることです。

接客を丁寧にするために、人が疲弊する。
生産性を上げるために、顧客体験を削る。
売上を伸ばしているのに、利益が残らない。

それでは「強い店」とは言えません。

顧客価値、生産性、働き方、利益は別々のテーマではなく、同じバリューチェーンの中で考える必要があります。

この連載でいう「バリューチェーン」とは

一般にバリューチェーンとは、企業のさまざまな活動を、価値を生み出していく一連の流れとして捉える考え方です。

飲食店であれば、

  • 仕入れ。

  • 商品開発。

  • 調理。

  • 店舗運営。

  • 販売促進。

  • 接客。

といった活動が考えられます。

しかし、この連載では、それだけではなく、

厨房で何が起きているのか。

接客で何が起きているのか。

そのとき顧客は何を感じているのか。

という3つの流れを重ねて考えていきます。

例えば、SNSは「集客担当だけの仕事」ではありません。

SNSを見た顧客の中には、
「こんな料理が食べられる」
「こんな雰囲気の店だ」
という期待が生まれます。

その期待と、実際に来店したときの料理やサービスが一致しているのか。
そこまで含めて考える必要があります。

厨房の効率化も、厨房だけの問題ではありません。

調理時間が短縮されたことで料理の提供が早くなり、顧客の待ち時間が減るのであれば、それは顧客価値の改善でもあります。

人員配置も、人件費だけの問題ではありません。

人件費率を下げるために人数を減らした結果、注文や料理提供が遅れ、顧客が感じる価値を大きく下げてしまった。

それでは、数字上は効率化していても、経営全体として改善したとは言えません。

だからこそ、飲食店経営を部分ではなく、

価値を生み出す活動の連鎖

として見る必要があります。

「勘と経験」を否定したいわけではない

私自身、店舗で仕事をしていたときは、数字だけを見て店を動かしていたわけではありません。

「今日は何か違う」
「この時間帯はお客様の反応が悪い」
「このやり方ではスタッフが回らない」

現場では、経験から感じ取れることがたくさんあります。

だから私は、勘と経験を否定したいわけではありません。

むしろ、その経験を、
観察し、分解し、数字で確かめ、仕組みに変える。
そうすることで、個人の経験を、再現できる経営の知識に変えていきたいのです。

経験を捨てるのではなく、経験を再現できる知識へ変える。
※これは、暗黙知を形式知に変えるという言い方もあります。

これが、私のいう「飲食店経営を科学する」という意味です。

価値を、設計し、測り、改善する

この連載では、飲食店経営をさまざまな角度から考えていきます。

  • 商品・メニュー。

  • 仕入れ・厨房。

  • 接客・サービス。

  • 集客。

  • 人材。

  • 生産性。

  • 経営数値。

  • DX。

  • 顧客との関係。

一見すると、それぞれ別のテーマに見えます。

しかし、この連載では、すべてを一つの問いにつなげます。

その活動は、顧客にどのような価値を生んでいるのか。

そして、

その価値を、より高い生産性で再現するにはどうすればよいのか。

を考えます。

そのために、

  • 価値を設計する。

  • 価値を仕組みにする。

  • 価値を測る。

  • 価値を改善する。

このサイクルを繰り返していきます。

「100の鉄則」で目指すもの

この連載では、飲食店経営に必要な考え方を、100のTipsとして整理していきます。

ただし、

「SNSはこう使う」
「原価率はこうする」
「接客ではこう話す」

といったノウハウを100個並べることが目的ではありません。

目指しているのは、
飲食店経営を、一つの価値創造システムとして理解できる体系をつくること。
です。

例えば、

「売上が悪いから販促をする」ではなく、
価値を生み出す流れの、どこに問題があるのか。
を考える。

「人件費が高いから人を減らす」ではなく、
顧客価値を維持・向上させながら、どこを効率化できるのか。
を考える。

そうやって一つひとつの活動をつなげて考えられるようになれば、経営改善は単発の施策ではなくなります。

100本できっちり終わるかどうかは分かりません。
100を超えるかもしれません。
それでも構いません。

大切なのは本数ではなく、
飲食店経営を体系として捉え直すこと
だからです。

飲食店経営を、科学する

飲食店には、数字だけでは説明できないことがあります。

人の気持ちを扱う以上、すべてを数式にすることもできません。

しかし、だからといって、
「飲食店は感覚の世界だから、科学できない」
とは思いません。

人の感情が動くからこそ、

  • どの瞬間に価値が生まれたのか。

  • どの瞬間に価値が失われたのか。

  • なぜ、その結果になったのか。

を丁寧に考える必要があります。

顧客価値を高めながら、生産性も高める。

そのために、
価値を設計し、測り、改善する。

この連載では、私自身の外食現場での経験と、サービス設計・評価について研究してきた経験を行き来しながら、飲食店経営を一つずつ解きほぐしていきます。

ここから一緒に、飲食店経営を「科学」していきましょう。

今日、考えてほしいこと

自店で今、一番改善したいことを一つ挙げてみてください。

売上でしょうか。
原価でしょうか。
人手不足でしょうか。
接客でしょうか。

そして、その問題だけを見るのではなく、

「それを変えたら、商品・厨房・接客・顧客・数字・組織のどこに影響するだろうか」

と考えてみてください。

そこから、バリューチェーンで経営を見ることが始まります。

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