第68回:琴音先生の“四字熟語 ひもとき塾”『温柔敦厚(おんじゅうとんこう)』—— やさしさは、深い誠実の上に咲く。
◆ ある日の放課後、教室で
窓際の席で、瑞希(みずき)さんが静かにノートを閉じた。
「先生、最近、人にやさしくするのが怖いんです。」
その言葉に、琴音先生は少し目を細めた。
「“温柔敦厚(おんじゅうとんこう)”っていう言葉、聞いたことある?」
瑞希さんは首をかしげる。
◆ 「温柔敦厚」の意味とは
「温(おん)」はあたたかく、
「柔(じゅう)」はやわらかい。
「敦(とん)」は誠実で、
「厚(こう)」は思いやりが深いこと。
つまり、“心がやさしくて、まっすぐで、誠実な人柄”を表す四字熟語どす。
やさしさとは、ただ甘いことばや慰めやなく、
人を想って真剣に向き合う力のことなんよ。
◆ 出典・背景
この言葉は『論語』に出てくる孔子の理想どす。
孔子は「温柔敦厚なる人こそ、学びの根にふさわしい」と説いた。
それは、人に寄り添う力がある人ほど、真理を理解できるという意味やね。
◆ 一つの物語──春の風のような人
むかし、戦が絶えぬ国に、一人の若い役人がいた。
民の苦しみを見て、彼は何度も心を痛めていた。
上司は言った。
「情に流されるな。冷静であれ。」
けれど、若者は黙って村の人たちに米を分けた。
「法には背いた」と咎められたが、
その行いを見た老宰相はつぶやいた。
「温柔にして敦厚、まことの徳ここにあり。」
その後、若者は官を辞し、村に残った。
春の風が吹くたび、子どもたちは彼を囲み、
彼は穏やかに笑って言った。
「やさしさは、弱さやない。信じて行うことや。」
◆ 今につながるまなざし
琴音先生は、窓の外を見つめながら言った。
「瑞希さん、やさしさってね、誠実さの上に咲くものなんよ。
誰かを思う勇気がある人は、もう強い人なんや。」
瑞希さんは、そっと笑った。
「少し、怖くなくなりました。」
夕暮れの光が机の上に差し、二人の影をやわらかく包んでいた。
──心に、静かな変化が訪れて
教室を出る瑞希さんの足取りは、
春風のようにやわらかく、しなやかだった。
ことばの奥に物語がある。
そんな世界が好きな方、フォローやスキで応援していただけたらうれしいです。
いいなと思ったら応援しよう!
🌿チップでの応援、ほんの少しでも嬉しいです。いただいたご支援は、新しい記事づくりの糧にします。