✏️ウメさんと喜三郎の縁側シリーズ『ちびた鉛筆』26/08/30
雨あがりの朝、庭の土がしっとりと黒い。
軒から落ちる雫が、ぽつり、ぽつりと縁石を打っていた。
その音が、静かな座敷に、ゆっくりと響く。
ちゃぶ台には、あられがひと皿。
ウメが、つまんで口に入れると、かりっと軽い音がした。
香ばしい醤油の匂いが、鼻に抜ける。
古い筆箱を開けると、短い鉛筆が転がっていた。
ウメが、そのひとつをつまみ上げる。
指の先ほどしかない、ちびた鉛筆だった。
「まあ、こげん短うなるまで、使うとったとやね」
ウメが、感心したように言った。
喜三郎が、それを覗き込む。
「……もう、握れんやろ、それは」
「握れんばい。
だけん、竹の筒に挿してね、継ぎ足して使うとよ」
ウメが、短い鉛筆を、指先でつまんでみせた。
昔の子どもは、鉛筆を最後まで使い切った。
短くなれば、竹の軸や、別の鉛筆の頭に挿して。
持てる長さに、継ぎ足しながら。
「一本の鉛筆をなぁ、大事に大事に、使うたとよ」
ウメが、しみじみと言った。
「新しかとを、ぽんと買うてもらえん頃たいね」
「今なら、こげん短うなる前に、捨てるやろ」
喜三郎が、ぼそりと言う。
「捨てられんかったとよ。
まだ書けるとに、もったいなか」
「……立派な兵は、最後まで戦うもんたい。
弾が尽きても、竹槍持って踏ん張るとぞ」
「鉛筆に、竹槍持たせて、どげんするとね」
ウメが、あられを噴き出しそうになった。
「最後の一兵まで、無駄にはせん」
喜三郎が、鼻息荒く言い切った。
ウメは、腹を抱えて笑った。
筆箱の中の鉛筆たちが、その笑いに、かたかたと揺れる。
指の先ほどの、短い鉛筆。
そこには、ものを惜しむ心と、使い切る工夫が詰まっていた。
まだ書ける、まだ使える。
その一念で、子どもたちは知恵を絞った。
もったいない、という言葉。
それは、けちけちすることではなかった。
ものの命を、最後まで大切にする心だった。
あんたのそばにも、まだ使えるもののあるやろう。
すぐに新しかとに、飛びつかんでよか。
短うなっても、継ぎ足せば、まだ書ける。
あんたの工夫ひとつで、ものは、もうひと働きしてくれるとよ。
最後まで読んでくれてありがとうね。
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いつでもここ(縁側)で待っとるけんね。
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