📦第204話:流行ったのに、今は誰も語らないモノたち『電子ブロック ― 家で電子回路を組み立てた科学少年』
🟩 はじまりの放課後
放課後、風太が理科室の棚を見ていた。
「これ、ブロックみたいですけど、普通のおもちゃとは違いますね」
大悟がのぞき込んだ。
「線とか部品の絵が描いてあるな。これで遊ぶん?」
ももが言った。
「電子ブロックって聞いたことある。
回路を作るおもちゃなんだよね」
喜三郎じいちゃんは、懐かしそうにうなずいた。
「そうじゃ。
電子ブロックは、家の机の上で小さな実験室を作れる玩具じゃった」
🟦 喜三郎じいちゃん、語り出す
電子ブロックは、抵抗やコンデンサー、トランジスタなどの部品をブロック状にした学習玩具じゃ。
説明書を見ながらブロックを並べると、電子回路ができる。
うまく組めば、ラジオが鳴ったり、ブザーが鳴ったり、ランプが光ったりした。
今の子には、少し地味に見えるかもしれん。
けれど当時の子どもにとっては、目の前で電気が働く不思議を見られる夢の道具だった。
配線図を読む。
部品の向きを考える。
間違えたら、動かない。
その少し難しいところが、また面白かったんじゃ。
🟨 あの頃の、あの空気
電子ブロックを机に広げると、そこだけ空気が変わった。
小さなブロックを説明書通りに並べていく。
カチッとはめるたびに、少しずつ回路が形になっていく。
紙の説明書には、回路の番号が並んでいた。
「まずはブザー」
「次はラジオ」
「今度は光センサー」
そんなふうに、ひとつずつ挑戦していく。
ももが言った。
「動いた時、すごくうれしそう」
喜三郎じいちゃんは笑った。
「そりゃあ、うれしい。
ただの部品が、自分の手で音を出すんじゃからな」
ブザーが鳴った瞬間は、少し誇らしい。
ピーッという小さな音。
ランプがぽっと光る瞬間。
ラジオからかすかに声が聞こえた時の驚き。
それは、理科の教科書とは違う体験だった。
大悟が言った。
「でも、間違えたら全然動かへんのやろ?」
喜三郎じいちゃんはうなずいた。
「そうじゃ。
そこが大事なんじゃ。
動かん時に、どこが違うか探す。
それがまた勉強になる」
電気は目に見えない。
けれど、回路を正しく組むと音や光になって現れる。
その瞬間、見えないものが少し分かったような気がした。
電子ブロックで遊んだ子の中には、機械や電気に興味を持った者も多かったじゃろう。
やがて、ゲーム機やパソコンが家庭に入り、子どもの興味は少しずつ変わっていった。
電子工作そのものに触れる機会は、昔より少なくなったかもしれん。
🟥 今の子らの反応は…
風太は言った。
「完成品で遊ぶのではなく、仕組みそのものを作る玩具だったんですね」
ももはうなずいた。
「動かない時に考えるの、ちょっと大変だけど楽しそう」
大悟は笑った。
「ブザー鳴っただけで喜べるって、なんかええな。
自分で作ったからこそやな」
喜三郎じいちゃんは、目を細めた。
「そうじゃ。
音が出ることより、自分の手で音を出したことがうれしいんじゃ」
🟫 忘れられても、残ってるもん
電子ブロックは、ただの科学玩具ではなかった。
子どもたちに、仕組みを知る喜びを教えてくれた。
説明書を読む。
部品を並べる。
電池を入れる。
スイッチを押す。
そして、音が鳴る。
その小さな成功が、胸に残るんじゃ。
今は、完成された便利な機械に囲まれている。
中身を知らなくても、使うことはできる。
けれど、昔の電子ブロックには、機械の中を少しだけのぞく楽しさがあった。
電子ブロックは、家で電子回路を組み立てた科学少年たちの相棒だった。
あの小さなブザーの音には、見えない電気を初めてつかまえたような喜びが響いていたんじゃ。
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