【生々しいビジネス考察】プリキュアはなぜ毎年「主人公」を捨てるのか?──20年以上続くIPビジネスの異常な仕組み
「人気キャラクターを長く使う」
普通のビジネスなら、当然そう考える。
人気商品が売れているなら、同じ商品を売り続ける。
人気タレントなら、長く起用する。
人気キャラクターなら、続編を作る。
ところが。
プリキュアは、毎年それを壊す。
主人公が変わる。
世界観が変わる。
敵が変わる。
衣装が変わる。
必殺技が変わる。
そして、当然ながら商品も変わる。
一見すると、ものすごく非効率だ。
ところが、この「毎年壊す仕組み」が、実はプリキュアという巨大IPを長期的に維持するための強烈なビジネスモデルになっている。
2026年現在、バンダイナムコグループのIP別売上高を見ると、プリキュアは2026年3月期に93億円。
2025年3月期の79億円から増加している。
もちろん、これはプリキュア関連商品のすべての市場規模を意味する数字ではない。
しかし、20年以上続くIPとして、毎年主人公を入れ替えながらこれだけの売上規模を維持していることは注目に値する。
では、なぜそんなことができるのか。
今回は、プリキュアを「アニメ」ではなく、
経営
マーケティング
商品開発
顧客獲得
ブランド戦略
という5つの視点から解剖してみたい。
1.プリキュアの最大の戦略は「同じ商品を売らない」
プリキュアのビジネスモデルで最も重要なのは、
「毎年、新商品を買う理由を作る」
ことだ。
もし同じプリキュアを10年間使い続けたらどうなるか。
当然、子どもは成長する。
そして、新しい子どもが市場に入ってくる。
つまり、
「去年のプリキュアを知っている子」
と
「今年初めてプリキュアを見る子」
が混在する。
ここでブランドを毎年刷新する。
すると、
去年から見ている子には、
「新しいプリキュアだ!」
という新鮮さが生まれる。
今年初めて見る子には、
「これがプリキュアなんだ」
という入口が作られる。
つまり、
毎年リセットすることで、毎年新規顧客を獲得できる。
これはマーケティングでいう「新規顧客獲得」と「既存顧客の卒業」を同時に設計しているとも考えられる。
2.実は「卒業」がビジネスモデルに組み込まれている
ここが、かなり生々しい。
普通のサブスクリプションサービスは、
「顧客に長く使ってもらう」
ことを目指す。
しかし、子ども向けIPは少し違う。
子どもは成長する。
興味も変わる。
つまり、
顧客が永遠に同じ商品を買い続けることは期待できない。
だったらどうするか。
「卒業」を前提にビジネスを設計する。
これが強い。
プリキュアは、
「同じ顧客を20年間囲い込む」
というより、
「毎年、新しい子どもを入れて、成長した子どもを送り出す」
という循環型のモデルになっている。
だからこそ、
「主人公を変える」
という一見するとブランド毀損に見える行為が、実は顧客ライフサイクルに合っている。
3.「ターゲットを変える」のではなく「入口を変える」
ここも重要だ。
プリキュアは毎年テーマを変える。
たとえば近年では「アイドル」を前面に出した作品も登場した。
2025年に放送された『キミとアイドルプリキュア♪』では、タイトルそのものに「アイドル」が入っている。
公式サイトではダンスレッスンや楽曲なども展開されていた。
これを単純に、
「今年はアイドルが流行っているから」
と考えると浅い。
本質は、
「プリキュアに入ってくる入口を変えている」
ことだ。
戦うヒロイン。
魔法。
学校。
食べ物。
動物。
アイドル。
友情。
夢。
さまざまなテーマを使いながら、
「プリキュアを見る理由」
を毎年変えている。
ブランドそのものは維持する。
しかし、
入口だけは変える。
これが長寿ブランドには極めて重要だ。
4.「商品を売る」のではなく「世界観を商品化する」
プリキュアの強さは、アニメだけで終わらない。
キャラクターが生まれる。
↓
衣装が生まれる。
↓
変身アイテムが生まれる。
↓
音楽が生まれる。
↓
イベントが生まれる。
↓
映画が生まれる。
↓
グッズが生まれる。
↓
コラボ商品が生まれる。
↓
ファン向け商品が生まれる。
つまり、
一つのコンテンツから複数の売上ポイントを作っている。
これはIPビジネスの基本だ。
「アニメを見てもらって広告収入」
だけではない。
アニメを中心にして、
周辺に巨大な経済圏を作る。
バンダイナムコは、2025年3月期に玩具・ホビー事業で過去最高の売上・営業利益を更新しており、多数のIPを活用した商品展開を行っている。
つまりプリキュアを見るとき、
「アニメが儲かっている」
だけではなく、
アニメを起点にどれだけ多くの接点を作れるか
を見る必要がある。
5.そして、ここが一番エグい。「ファンの年齢」で商品を変える
子ども向けIPというと、
「子どもにおもちゃを売る」
と思いがちだ。
しかし実際には、もっと複雑だ。
子どもが作品を好きになる。
↓
親が商品を買う。
↓
子どもが成長する。
↓
大人になった元ファンがグッズを買う。
この構造がある。
実際、近年のプリキュア関連商品を見ると、子ども向け玩具だけではない。
たとえば東映アニメーションの公式ストアでは、『キミとアイドルプリキュア♪』のキャラクターをモチーフにしたアクセサリーなども展開されている。
ここから見えるのは、
「子ども向けブランド=子どもだけが買うブランド」ではない
ということ。
むしろ長寿IPになると、
「子どもの頃に好きだった」
という記憶そのものが価値になる。
6.ビジネスで一番怖いのは「ブランド疲労」
長く続くブランドには問題がある。
飽きられることだ。
同じ商品。
同じキャラクター。
同じ広告。
同じメッセージ。
これを繰り返せば、既存ファンにも新規顧客にも新鮮味がなくなる。
だからプリキュアは、
ブランドを守るために、ブランドを壊している。
ここが最大のポイントだ。
「プリキュア」という大きなブランドは残す。
でも、
「今年のプリキュア」は毎年変える。
これは企業経営でも応用できる。
7.「会社名」は変えなくていい。でも「売り方」は変えろ
例えば塾。
10年前から、
「成績が上がります」
だけを言い続けている。
しかし顧客は変わっている。
保護者の価値観も変わっている。
SNSの使い方も変わっている。
大学入試も変わっている。
AIも出てきた。
それなのに、
「うちの塾は30年間この指導法です」
と言い続ける。
これはブランドの一貫性ではない。
単なる思考停止かもしれない。
プリキュアから学ぶべきなのは、
「毎年ブランドを変えろ」
ではない。
むしろ逆だ。
ブランドの核は変えるな。
ただし、
「顧客が入ってくる入口」
「商品」
「メッセージ」
「体験」
は変えろ。
8.マーケティングで考えると、プリキュアは「毎年のリブランディング」
企業のリブランディングには大きなリスクがある。
ロゴを変える。
商品を変える。
広告を変える。
ブランドメッセージを変える。
すると既存顧客から、
「前のほうがよかった」
と言われる。
だから多くの企業は怖くて変えられない。
ところがプリキュアは、
変えることそのものを商品価値にしている。
「今年は何だろう?」
という期待が発生する。
つまり、
変化=ニュース
になっている。
これは強い。
9.「新作発表」が無料の広告になる
毎年新しいプリキュアが発表される。
すると、
「今年のプリキュアは○○らしい」
という話題が生まれる。
新キャラクターが出る。
↓
SNSで話題になる。
↓
玩具が発表される。
↓
イベントが開催される。
↓
映画につながる。
↓
次年度へ。
つまり、
新作そのものがマーケティングイベントになる。
広告費を払って、
「新しい商品があります」
と伝えるのではなく、
新しい物語そのものをニュースにする。
これはコンテンツマーケティングとして非常に強い。
10.ただし、プリキュアにも「難しさ」はある
ここを無視すると、ただのプリキュア礼賛になる。
毎年ブランドを刷新するということは、
毎年ヒットを作らなければならない
ということでもある。
新キャラクターが必ず人気になるとは限らない。
新しい玩具が必ず売れるとも限らない。
新テーマが必ず刺さるとも限らない。
つまり、
「毎年リセットする」
という戦略は、
毎年、新規事業を立ち上げるようなもの
でもある。
これは相当な経営負荷だ。
だからこそ、
「変える部分」と「変えない部分」
を明確にしなければならない。
11.プリキュアが変えないもの
ここがブランド戦略の核心だと思う。
キャラクターは変わる。
衣装も変わる。
世界観も変わる。
テーマも変わる。
しかし、
「女の子たちが仲間と力を合わせて困難に立ち向かう」
というブランドの大きな思想は維持されてきた。
つまり、
表面は変わる。
しかし、
ブランドのDNAは残す。
これが「長寿ブランド」の条件だ。
12.ビジネスに置き換えるとこうなる
企業にも、
「変えてはいけないもの」
と
「毎年変えるべきもの」
がある。
変えてはいけない
・企業理念
・顧客への約束
・ブランドの核心
・提供する価値
変えるべき
・商品
・広告
・SNS
・キャンペーン
・顧客接点
・営業手法
・クリエイティブ
・顧客体験
ここを混同すると、
「昔から変わらない会社」
か
「何をやっている会社なのかわからない会社」
になる。
13.プリキュアから学ぶ最大の経営論
結局、プリキュアが教えてくれるのは、
「ブランドは固定するものではなく、更新するもの」
ということだ。
ブランドを守るために、
変化する。
顧客を維持するために、
新しい顧客を迎える。
ファンを増やすために、
入口を変える。
商品を売るために、
まず世界観を好きになってもらう。
そして何より、
「卒業する顧客」がいることを前提にする。
これが恐ろしく現実的だ。
14.塾経営にも、そのまま使える
例えば塾なら、
「うちは30年間、東大合格者を輩出してきました」
だけでは弱い。
それは既存顧客には安心材料でも、
新しい顧客にとっては、
「だから自分の子どもに何が起きるの?」
だから、
毎年テーマを変えていい。
「AI時代の受験戦略」
「夏休みの逆転戦略」
「推薦入試攻略」
「高校受験からの大学受験設計」
など。
ただし、
「この塾は生徒一人ひとりの可能性を最大化する」
というブランドの核は変えない。
商品は変える。
メッセージも変える。
顧客接点も変える。
でも、
約束は変えない。
これが長く選ばれるブランドの作り方だ。
最後に
プリキュアを見て、
「かわいいアニメだな」
で終わるのはもったいない。
そこには、
顧客の入れ替わり
ブランド維持
商品開発
クロスメディア
ファンマーケティング
リブランディング
顧客ライフサイクル
という、かなり高度なビジネス設計がある。
そして一番面白いのは、
「毎年主人公を変える」という、一見するとブランドを壊しているような戦略が、実はブランドを20年以上生き延びさせる仕組みになっていること。
会社も同じだ。
「昔からこうやってきた」
ではなく、
「何を守り、何を壊すのか」
を決める。
ブランドとは、
変えないことではない。
変えてはいけないものを守りながら、変えるべきものを変え続けること。
プリキュアは、子ども向けアニメでありながら、
実はかなり優秀な
「ブランド経営の教科書」
なのかもしれない。

