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町内会長の、いつもより長いお辞儀


 気がついたのは、先月のことだった。

 町内会長が、いつもより深くお辞儀をしていた。

 いつもは会釈くらいだ。

 すれ違いざまに、軽く頭を下げる。

 それが、いつもの会長だった。

 でも先月から、角度が変わった。

 深い。

 明らかに深い。

 九十度とは言わないが、それに近い。

 しかも長い。

 下げた頭が、なかなか上がってこない。

 すれ違うたびに、会長の頭頂部を見る時間が増えた。

 何かあったのかと思った。

 でも聞けなかった。

 お辞儀が深くなった理由を本人に聞くのは、どこか据わりが悪い。

 隣のおじさんに話した。

 「うちにも来てる」

 と言った。

 何がですか、と聞いた。

 「深いお辞儀」

 と言った。

 二人で少し考えた。

 町内会長のお辞儀が、少しずつ深くなっている。

 理由は思いつかなかった。

 でも、この町では理由が思いつかないことほど、理由がある気がしていた。

 次に会長とすれ違った。

 俺も少し深めに頭を下げた。

 会長は、それより少し深く下げた。

 どちらが先に頭を上げるのか、少し迷った。

 その時間だけ、町が静かになった気がした。

 翌週には、隣のおじさんも少し深くなっていた。

 気のせいなら、それでいいと思った。

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