クイザ湖の夜明け 第2話:ヴェロ島に立つ影
“人は見えないものを恐れる。だが、本当に怖いのは、見えたあとだ。”
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【1】孤島「ヴェロ島」
トゥベナ共和国の地図に、ヴェロ島は載っていない。
だが誰もが知っている。
クイザ湖の中央に浮かぶ、霧に包まれた小島。
灯りはない。船は近づかない。
村人たちは、あの島を**「見なかったこと」にして生きている**。
かつては祈祷師たちの聖域だったという。
いまは、ドローンすら方向を見失う結界のような霧が、常に周囲を覆っている。
私はその島へ、行くことにした。
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【2】妹の願い
「やめて、ケイ兄。行った人は、みんな帰ってこなかったの」
妹の声が震えていた。
「ルオのためでしょ? だったら戻ってきて。あなたまでいなくなったら——」
静かにうなずいて、私は彼女の手を握った。
「戻るよ。何があっても。お前の“未来”のためにも」
妹は泣きながら、古びたチョーカーを私の首にかけた。
ルオが最後に妹に贈ったものだったという。小さな十字の刻印がついていた。
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【3】違法ログと“35人目”
数日前に受け取った仮想サーバーログを、私はノートPCで開いていた。
【ログイン履歴】
3:42 AM – 合計34アカウント
4:09 AM – 通信断絶
4:13 AM – 35番目のアクセス記録あり(不明ID)
「35人目…?」
ログに表示されたIDは、NULL(記録なし)
通常ありえない数値だった。
仮想通貨プラットフォームに詳しい記者のエリ・トーニャが、そのデータを見て顔をしかめた。
「これ、“神域ルート”って呼ばれてるルートに似てる。eアリーナの運営が違法ゲーム用に使ってた隠しプロトコル」
「つまり、一般ユーザーには存在しない“特別な出入口”があるってことか?」
「……そう。たとえば、特別な“祭壇”が設置された仮想空間のどこかに」
エリは言葉を選びながら、視線をこちらに向けた。
「行く気でしょ? ヴェロ島に」
私はうなずいた。
「そこに、34人目——そして、35人目の正体がある」
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【4】密航
夜の湖は、鏡のように静かだった。
波も音もない。ただ、息苦しいほどの沈黙があった。
地元の老船頭がこっそりと船を出してくれた。
「日の出までには戻れ。あの島が影を落とす前にな」
——なぜ“影を落とす”などという表現を使うのか、私は訊かなかった。
30分ほどの距離だと思っていたが、進めど進めど霧が濃くなり、方角がわからなくなる。
それでもやがて、突然——
霧が切れた。
視界が開けた瞬間、黒い影が目前に立ちはだかった。
島だった。
ヴェロ島。
だがその“島”は、私の予想とまるで違っていた。
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【5】記憶のない地
無人島、廃墟、鳥居、神殿——私はいくつかの風景を予想していた。
だがそこにあったのは、それらのどれにも当てはまらなかった。
それは、何もない広場だった。
石畳。周囲を囲むように立ち並ぶ“柱”。
中心には円形の窪地。底に置かれた黒い台座。
台座には赤黒く乾いた跡があった。
何かが、捧げられていたのだ。
私は慎重に近づき、台座に刻まれた古い文字をスマホでスキャンした。
翻訳が出た。
“入力完了者が贄となる。
出口なき世界の祝祭が始まる。”
その瞬間、スマホが震えた。
通知:e-ARENA Ver.CXログイン成功
「……は?」
私は何も操作していない。
だが画面は、勝手に仮想空間のログイン画面に切り替わっていた。
そして、表示されたオンラインID:
【現在オンライン:2】
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【6】もう一人、いる
私は何者かと同時にログイン中だと示されていた。
だが視界には誰もいない。
風も止まり、空気が一層重くなった。
その時、頭の中に誰かの声が流れ込んできた。
「君は誰だ?」
言葉ではなく、思考そのものが流れ込むような感覚だった。
私は台座に触れようとした。
だが、黒い液体のような“影”が、円の中心からにじむように広がり始めた。
影の中から、白い仮面をかぶった“何か”が立ち上がろうとしていた。
そして、その存在は私の方へ、明らかに向かってきていた。
その瞬間、世界が割れるような警告音が鳴った。
ログアウトしますか?(Y/N)
私は即座に「Y」を選び、画面が一気にブラックアウトした。
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【7】戻った先に
船に戻ったとき、夜明けはすぐそこだった。
島は霧の中へ再び消えていった。
港に戻った私を待っていたのは、妹の無言の抱擁と、
エリからの短いメッセージだった。
「35番目のログインID、特定できた。
名前は——ネメク・ソルダ。“失踪者の一人”よ。」
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【つづく】
第3話「黒い祭壇」へ
(さらなる接続と記憶なき仮想儀式、明かされる“血の連続ログ”)
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