夜店から【シロクマ文芸部】
夜店からの帰り道はほんの少し大人の女になったような気がした。母の縫ってくれた浴衣に、「三尺」という柔らかい帯をふわりと金魚のような形に結んでもらい、少しつま先を意識して下駄をカタカタと鳴らしながら歩く。指には買ってもらったばかりの万年青の実のようなまっかな玉のついた指輪。兄の腕にそっとつかまり、恋人気分をちょっと味わって。
ヨーヨー売り場も素通りできなかった。鮮やかすぎる色に塗られて吊り下げられたもののなかから選んだのは、ピンク色に赤や青で波打つ線が描かれたもの。結び付けられたゴム紐のわっかを中指にはめ、ポン!とつくと離れ、グン、と戻る。それは本物の恋を知ったころの想いのように、離れては吸い寄せられ、吸い寄せられては離れた。けれどもこのヨーヨーはどんなに大切にしても二日でしぼんでしまった。
兄は金魚すくいが得意だった。紙でできた網をななめにそおっと水に浸し、その角度のまま持ち上げる。小さな金魚が掬い上げられたと気づくより早く金属のボールに放す。何回か繰り返しついに紙が破れてしまうと、金魚の背びれが舌打ちのような音を立てた。
植木市もあり、柏の苗木を買った。祖母が月遅れの端午の節句に柏餅を手作りしてくれたが、毎年葉を近所の家からもらい受けていたため。苗木を大事に抱えて帰った道は楽しくて、夕闇のなか家へと白く伸びる道がもっと長かったらいいのにと思ったものだった。
家に着いて浴衣を脱ぐとシンデレラの魔法がとけたような寂しさを味わった。あの夜買ってもらったヨーヨーも金魚もとうに消えてしまったが、指輪だけはずっと大事にしていた。兄との大事な思い出だったから。
おわり
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