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上位馬の「上がり差」からトラックバイアスを読み解く


同じコース・同じ距離の重賞でもこれだけ上がりが違う

 皆様こんにちは。まぐです。
 トラックバイアスを読む時、多くの人は、内外の有利不利や、逃げ・先行馬が残っているか、差しが届いているか、といった結果を見ると思います。
 もちろん、それが重要であることは言うまでもありません。

 ただ、もう一歩踏み込むなら、先行馬と差し馬の間でどのくらいの「上がり差」が出ていたのかも見たいところです。

 差し馬が先行馬を交わすためには、当然ながら先行馬より速い上がりを使わなければなりません。極端な話、差し馬が上がり32.9秒の脚を使っても、先行馬が33.0秒でまとめていれば、位置取りの差を大きく埋めることはできません。逆に、先行馬の上がりが34秒台まで掛かっていれば、差し馬が前を捕まえる余地が一気に生まれます。
 つまり、トラックバイアスを読む時は、内外の有利不利や位置取りだけでなく、出走馬間でどれくらい上がり差が出ていたかを見ることも重要になるわけです。

 実際のレースで見ると、違いはより分かりやすくなります。
 差しが届きやすかった昨秋の東京芝で開催されたサウジアラビアRCとアルテミスS、先行有利だった今年のDコース東京芝で開催されたクイーンCとを比較してみましょう。いずれも東京芝1600mで行われた世代限定重賞です。

 サウジアラビアRCは800m通過47.6秒。
 1〜5着馬の上がりが33.2秒、34.0秒、33.8秒、34.4秒、34.2秒で、上位5頭間での上がり差は1.2秒
 勝ったエコロアルバは4角8番手から差し切りました。ペースが遅かったので逃げ馬も踏ん張っていましたが、4着まで。

 アルテミスSは800m通過47.0秒。
 1〜5着馬の上がりが33.9秒、34.0秒、33.7秒、34.7秒、35.2秒で、上位5頭間での上がり差は1.5秒。こちらも上位馬同士で大きく上がり差が出ていました。逃げたマルガは5着に失速。離れた3番手にいたフィロステファニが差し切り、後方待機のタイセイボーグが上がり最速の33.7秒を使い、3着まで追い込んできました。
 
 一方、今年2月の東京Dコースで行われたクイーンCは800m通過46.8秒。
 1〜5着馬の上がりが33.8秒、33.8秒、34.5秒、34.1秒、34.1秒で、上位5頭間での上がり差は0.7秒しかありません。逃げたヒズマスターピースが3着に残り、勝ったドリームコアもインの好位から抜け出した形。前有利な結果になりました。

 クイーンCは800m通過46.8秒と、先に挙げた2レースよりも前半が流れていたにもかかわらず、前有利になり、上位馬同士の上がり差が0.7秒に収まる結果に。差し馬が前との差を大きく詰めるだけの脚色差が生まれにくい馬場だったと考えられます。

 そこで今回は、成績表を見て簡単に確認できる「上がり差」の目安を提示したいと思います。

上がり差を見る基本ルールとその目安

 対象は芝のみとします。ダートは芝に比べて着差や上がり差が開きやすく、能力差や失速の影響を強く受けやすいからです。

 見るべきは「1〜5着馬内の上がり差」。
 計算方法は簡単で、1〜5着馬の中で最も遅い上がりから、最も速い上がりを引くだけです。
 たとえば、1〜5着馬の上がりが33.8秒、34.0秒、34.1秒、34.2秒、34.3秒だった場合、上がり差は34.3−33.8で0.5秒となります。

 1〜5着馬に絞るのは、実際に上位争いをした馬同士の上がり差を見た方が有効だからです。全頭を対象にすると、能力不足の馬、展開に乗れなかった馬、最後まで追われていない馬なども含まれてしまい、馬場による上がり差なのか、単なる凡走なのかが分かりにくくなります。
 また、実際のレースにおいて、掲示板を先行馬だけ、あるいは差し馬だけが独占するケースはそこまで多くありません。多くの場合、1〜5着の中には前で運んだ馬と差してきた馬がある程度混ざります。
 そのため、馬場読みの簡易指標としては、1〜5着馬内の上がり差を見るだけで十分だと考えています。

 目安は以下の通りです。

・0.7秒以下
 上がり差が小さいレース。上位馬が似たような上がりで走っており、差し馬が前との差を詰めにくくなります。
・0.8〜1.1秒
 標準的なレース。
・1.2秒以上
 上がり差が出ているレース。差し馬が前との差を詰める余地があったと考えられます。
・1.5秒以上
 かなり上がり差が出ているレース。

 特に重要なのは0.7秒以下です。
 上位馬同士の上がり差が小さいということは、差し馬が前との差を大きく詰めるだけの脚色差が生まれていないということです。
 前の馬が止まらなかった場合もあれば、後ろの馬が伸び切れなかった場合もありますが、いずれにせよ、差し馬が前をまとめて捕まえるには厳しいレースだったと考えやすい数字です。

 一方、1.2秒以上は上がり差が出ているレースになります。その要因は複合的になりやすく、差しが届きやすい馬場だったのか、ペースや能力の違いで上がり差が開いたのかは、上位馬の位置取りも合わせて見る必要があります。
 
 1レースだけで判断するのは危険なので、同じ日の芝レースを5レースほど見て、全体として上がり差が小さい方に寄っているのか、大きい方に寄っているのかを確認するのが実戦的でしょう。

 では、2023〜2025年の中央芝を競馬場別・コース別で見てみます。
 なお、表の「上がりのばらつき」は、1〜5着馬の上がりがどれくらい散らばっていたかを示すものです。この数値が小さいほど、上位馬が似たような上がりで走っていたということ。反対に大きいほど、上位馬同士の上がり差が開きやすかったということになります(いわゆる標準偏差)。

競馬場別 1〜5着馬の上がり差(芝のみ・2023〜2025年)

 全体的な傾向としては、皆さんが「前残りになりやすい」と感じている競馬場やコースほど、上がりのばらつきが小さく、1〜5着馬内の上がり差が0.7秒以下に収まる割合が高くなっているのではないでしょうか。
 反対に、差しが決まりやすい印象のある競馬場やコースほど、上がりのばらつきが大きく、上がり差が1.2秒以上開くレースの割合が高くなっています。

 もちろん、全てが綺麗に一致するわけではありません。開催時期や馬場の内外差によって、コース本来のイメージと違う数字が出ることもあります(たとえば、集計期間内の京都外回りは先行有利な開催が多かったため、上がりのばらつきが小さくなっています)。

開幕日から差し有利を見抜けた今年の夏コク

 夏の小倉開催は高速馬場になりやすく、開幕前は先行馬有利のイメージを持ちがちです。
 しかし、今年の第2回小倉開催は、いざレースが始まってみると上がり差がよく出ており、早い段階で差しが決まりやすい馬場だと判断できました。上がり差に着目することで先入観から脱することができます。
 開幕日の6月27日における、小倉芝の上がり差を見てみましょう。

1R 2歳未勝利 35.8−34.0=1.8秒
3R 3歳未勝利 35.6−34.4=1.2秒
5R 2歳新馬 36.8−35.7=1.1秒
6R 3歳未勝利 37.6−35.4=2.2秒
8R 3歳以上1勝C 36.2−34.8=1.4秒
9R 八代特別(1勝C) 35.4−34.8=0.6秒
10R 宗像特別(2勝C) 34.7−34.1=0.6秒
12R 3歳以上1勝C 35.2−34.1=1.1秒

 8レース中6レースで上がり差が1.1秒以上あり、そのうち4レースは1.2秒以上。開幕初日から上位馬同士の上がり差がかなり出ていたことが分かります。

 今回のコラムのために楽しみにしていた北九州記念が先行馬で決着したのは残念でしたが、このレースの1〜5着馬内の上がり差は34.8−34.5=0.3秒。上がり差が小さかったからこそ前有利の結果になったと、逆説的に説明できます。

 上がり差は万能の指標ではありません。
 ただ、「前が残ったから前有利」「差しが決まったから差し有利」と結果だけで判断するよりも、上位馬同士の上がり差を見ることで、馬場の中身をより具体的に確認できます。
 差し馬が前を捕まえられるだけの上がり差を作れていたのか。あるいは、前の馬も似たような上がりでまとめていて、差し馬が届きにくい馬場だったのか。
 この視点を持つだけでも、トラックバイアスの見え方はかなり変わります。非常に単純な指標なので、ぜひ成績表を見る時に確認してみてください。

まぐ
期待値馬券が全盛だからこそ、数字の裏付けがある「強い馬」を狙うべきという信念のもと予想理論『余力ラップ』を開発。立川優馬氏のオンラインサロンで行われた予想コンペティションで最優秀賞を受賞し、2023年10月より『ウマい馬券』に参画。2024年はプラス回収を達成し、トップ予想家としての地位を確かなものにした。
競馬予想の基礎を全7章にわたってまとめた電子書籍はこちら
X(ツイッター) @33magu

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