「持続力・瞬発力」の意味を問い直す(後編)
皆様こんにちは。まぐです。
前回は「持続力」と呼ばれている能力を4つに分けて考えました。
今回は「瞬発力」について考えてみます。
瞬発力≒上がり3Fとして使われていた時代
私の記憶では「瞬発力」という言葉は時代とともに意味が変遷し、また、多義化してきたように思います。
日本競馬を変えたと言われるサンデーサイレンスの登場により、道中で脚を溜め、直線で速い上がりを使う馬が次々と活躍しました。
当時は、現在ほど上がり3Fの速い馬が多くありませんでした。上がり33秒台を記録するだけでも、その馬の末脚は強く印象に残ったものです。そのため、「速い上がりを使えること」と「瞬発力が高いこと」が、かなり近い意味で捕らえられていたのでしょう。
参考にした記事では「1990年代は、上がり3ハロンを33秒台で走ると、驚異的な瞬発力だと驚かれました」と書かれています。
日本ダービーで初めて上がり33秒台をマークした馬をご存知でしょうか?
2005年のディープインパクトが記録した33.4秒が初。上がり2位は34.4秒で、次点に1.0秒もの差をつけています。
今では未勝利戦でも33秒台を使う馬は珍しくありません。この20年ほどで、馬場の高速化と競走馬のスピード化が大きく進んだことが分かります。
一方、今の基準で見ると「本当に瞬発力が高かったのか?」と疑問に感じる馬も少なくありません。その象徴的な例が、アグネスタキオンです。
主戦を務めた河内洋氏は後年、日刊スポーツのインタビューにおいても、2000年のラジオたんぱ杯3歳Sで見せた末脚を「ずばぬけた瞬発力」という言葉で表現しています。
しかし、レース映像を改めて見ると、アグネスタキオンは直線で一気に加速したわけではありません。3コーナー付近から徐々に進出し、長く脚を使って先頭に立ったのです。
このレースぶりから、アグネスタキオンの末脚を「ずばぬけた瞬発力」と呼ぶには抵抗を感じます。
何故かといえば、瞬時に加速していないからです。
アグネスタキオンはコーナーでの加速力とトップスピードの持続力に秀でたタイプだったのでしょう。
上がり3Fは言うなれば結果として記録される数字。道中のペース、位置取り、仕掛けた地点、通った進路、馬場状態など、さまざまな条件の影響を受けます。
そのため、最後の600mを速く走ったというその数字だけで、その馬に瞬発力があると判断して良いのかは疑問が残るところ。
勝負圏外の位置からインをロスなく回り、上がり最速をマークする馬がいます。このケースを「上がり最速だったから価値が高い」とは決して言えないでしょう。
時代とともに競馬ファンの目が肥え、「瞬発力」の指す範囲は広がっていきました。
これはおそらく、上がり33秒台が当たり前になったことと無関係ではないでしょう。速い上がりの中でも、どのように脚を使うかが重要だと認識されてきたのです。
瞬発力≒加速力(コーナー加速・直線加速)
今では「反応の速さ」「ギアチェンジの鋭さ」そのものを指す言葉として使われることが多いように思います。
たとえば、「反応が速い」「一瞬で抜け出した」などと言われる事象。
こうした表現が当てはまるのは、コーナーで一気に進出できる馬や、直線で一瞬にして先頭を捕らえる馬です。
対義語は「反応が悪い」「ズブい」。ピンとこない方は、この逆のタイプを思い浮かべてもらえれば分かりやすいでしょう。
ここでは「加速力」で統一します。
レース映像を観る時、他馬と比較してみると非常に分かりやすいですが、レースラップも合わせて照合するとより効果的です。
加速力にはコーナー型と直線型があります。
コーナー加速に特に秀でているのが、クロノジェネシス。
デビュー2戦目のアイビーSで上がり32.5秒をマークしたことがあるくらい速い上がりも使える馬ですが、この馬は他馬が苦にしやすいタフな馬場もこなせる馬。馬場を問いませんが、この馬の真骨頂は小回りコースにおけるコーナー加速の素晴らしさでしょう。
グランプリを3連覇できたのは、中山や阪神内回りのコーナーを苦にしなかったからこそです。
直線の長い東京や阪神・京都の外回りは比較的苦手としており、国内で唯一馬券を外したのが京都外回りのエリザベス女王杯でした。
直線加速で言えばシックスペンスが分かりやすい例です。
中山は内回りと外回りでコーナー区間がやや変わりますが、おおむね、後半4Fから残り300mまでがコーナー部分に当たります。
スプリングSは1000m通過が63.1秒の超スローペースでした。スローでは着差を広げにくいのが通例ですが、この馬は直線に入ってからどんどんと後続に差を付けていき、その後半2Fは10.9-10.8!あっという間に3馬身半差を付けたのです。
新馬戦も同様。
後半2Fは11.9-10.7で、たったの1Fで1.2秒も加速するレースを差し切っているのです。
もちろん、シックスペンスがコーナーを苦手にしているとは思いませんが、特別上手いとも感じません。
コーナーで一瞬にして進出できる能力と、直線で一瞬にして抜け出せる能力は、似て非なるものです。両方を兼ね備える馬もいれば、どちらか一方に偏る馬もいる。「切れる馬」と一括りにしてしまうと、その馬がどちらのタイプの加速力に長けているのかを見誤り、コース適性やレース展開の向き不向きを読み違えることにつながります。
【応用】不利からの回復力で加速力を見抜く
不利を受けたあとに、また伸びてくる馬がいます。以前の私は、ブレーキがかかってから伸びて届かなかった場合、「しっかり伸び負けたのだから仕方ない」と捉えていました。ただ、今はそうは思いません。スムーズに加速できていれば、差されずに済んだ可能性があるからです。
不利のあとの伸び脚は、単なる「展開の巡り合わせ」ではなく、その馬の加速力そのものを測る材料になります。次走以降の狙い目・軽視すべきポイントを判断する際は、着順以上にこの「回復力」に注目してみてください。
瞬発力≒トップスピード
加速力とトップスピードは、似ているようで指している能力が違います。加速力が「最高速度に達するまでの速さ」だとすれば、トップスピードは「到達できる最高速度そのもの」です。
また、上がり3Fとも異なります。
というのも、馬が全速力を維持できるのはおおよそ、300~400mだと言います。この観点からすれば、上がり3Fというのはトップスピードを測るには長過ぎるのです。
トップスピードというのは公式が個別ラップを出していないため、非常に分かりにくいですが、エイシンフラッシュはトップスピードに特化したタイプだったと考えています。
加速力が高く、トップスピードの高さで瞬時に抜け出せる。しかし、その脚が長続きしないのです。2012年の有馬記念で4着に負けましたが、残り100mほどでは後続に2馬身の差を付けていました。「勝った!」と確信した人も多かったのではないでしょうか。しかし、そこから急失速して4着敗退。内枠やインを突く競馬で強かったのも、使うべき脚を温存しやすいからでしょう。
トップスピード型は持続力に劣る分、位置取りや展開次第で早々に脚を使い切ってしまうリスクを抱えています。ただ、その一瞬の破壊力は馬券的にも見逃せない武器になり得るのです。
瞬発力という言葉は、この3つの①上がり3Fタイム、②加速力、③トップスピードのどれと結びつけて語られているのか自体が曖昧なまま使われ続けてきました。
重なり合う部分が多いからこそ、言葉がごちゃまぜになってしまったのでしょう。
ディープインパクトはまさにこの三拍子が揃った名馬だったと言うことができます。
目の前の馬の末脚を「瞬発力がある」の一言で片付けず、上がりタイムの結果なのか、コーナーや直線での加速の鋭さなのか、それとも到達速度そのものの高さなのかを分けて見る。そうすることで、次走の条件替わりに強みを再現できるかどうかを、より精度高く判断できるはずです。
【応用】衰えやすい瞬発力と衰えにくい持続力
ラップを見てきた私からすると、トップスピードや加速力は衰えやすい能力です。
ディープインパクト産駒でこれら瞬発力を武器にしてきた馬は年齢を重ねるとパフォーマンスを大きく落としやすいですが、反対に、持続力を武器にするディープインパクト産駒は高齢でも活躍しやすいという傾向にあります。
ダートの方が競走馬が長持ちしやすいのも、ダートは瞬発力よりも持続力を求められやすいからでしょう。
これは人間も同じ。スプリント能力は若い時にピークが来ますが、マラソンは高齢になっても楽しめるスポーツですよね。
まぐ
期待値馬券が全盛だからこそ、数字の裏付けがある「強い馬」を狙うべきという信念のもと予想理論『余力ラップ』を開発。立川優馬氏のオンラインサロンで行われた予想コンペティションで最優秀賞を受賞し、2023年10月より『ウマい馬券』に参画。2024年はプラス回収を達成し、トップ予想家としての地位を確かなものにした。
競馬予想の基礎を全7章にわたってまとめた電子書籍はこちら。
X(ツイッター) @33magu
