PoCで測るべきなのは「AIの精度」だけではない――AI導入のPoCは「技術検証」ではなく「効果検証」である
編集長シンゴです。
企業のAI導入でよく聞く言葉に「PoC」があります。
PoCはProof of Concept、つまり概念実証のことです。
新しい技術が本当に使えるのか、小さく試して確認する。AI導入でも、多くの企業がまずPoCから始めています。
ただ、最近いろいろな企業の話を聞いていて感じるのは、AIのPoCが“技術が動くかどうか”の確認で終わってしまっているケースが多いということです。
AIが回答できた。
社内文書を検索できた。
要約できた。
コードを書けた。
もちろん、それも必要です。
でも企業が本当に知りたいのは、そこではないはずです。
「そのAIを入れることで、業務がどう変わったのか」
ここまで確認して、初めてPoCだと思います。
「AIが使えた」と「AIを導入する価値がある」は別の話
生成AIは、今や驚くほど多くのことができます。
社内文書を検索する。
メールを要約する。
議事録を作る。
コードを書く。
レポートを作成する。
そのため、PoCをすると比較的簡単に「できました」という結果が出ます。
しかし、企業導入で重要なのは、「できたか」ではなく、
「その結果、何が改善したか」です。
たとえば、これまで設計者が過去の図面や仕様書を探すのに1日1時間かかっていたとします。
AIを導入した結果、それが20分になった。
これなら、
「1人あたり1日40分の削減」
という効果が測れます。
100人の設計者が使えば、会社全体でどれくらいの時間が削減できるのか。
人件費に換算するとどれくらいなのか。
ここまで見えて初めて、
「このAIに年間いくらまで投資できるか」
という経営判断ができます。
PoCで測るべきなのは「AIの精度」だけではない
AIのPoCでは、どうしても「回答精度○%」といった技術指標に目が向きがちです。
もちろん精度は重要です。
しかし、業務導入を判断するには、それだけでは不十分です。
たとえば、
これまで3時間かかっていたレポート作成が30分になった。
品質トラブルの原因調査に2日かかっていたものが半日になった。
営業担当者が過去案件を探す時間が1日30分減った。
問い合わせ対応が平均15分から5分になった。
こうした業務上の変化のほうが、経営にとってははるかに重要です。
つまり、
「AIが何%正しく答えたか」
だけではなく、
「誰の、何の仕事が、どれくらい変わったのか」
まで測る必要があります。
「とりあえずAIアカウントを配る」はPoCではない
以前、ある企業の方からこんな話を聞きました。
エンジニアに生成AIのアカウントを配り、自由に使ってもらう取り組みを始めた。
最初は利用者も増えた。しかし、気がつけばAI利用料だけで数百万円になっていた。
「この金額に対して、どれだけ効果が出ているのか分からない」
という話になり、一旦利用を止めることになった。
その後、AI導入の話自体がなかなか前に進まなくなってしまったそうです。
これは決して珍しいケースではありません。
問題はAIの性能ではありません。
最初に、「何を改善するためにAIを使うのか」を決めていなかったことです。
AI導入は、ゴールから逆算したほうがいい
「まずAIを使ってみよう」
という進め方も、学習という意味では悪くありません。
しかし、企業として本格導入を考えるなら、最終的に何を実現したいのかを先に決めたほうがいい。
たとえば、
「設計者が過去資料を探す時間を50%減らしたい」
「品質トラブルの原因調査を2日から半日にしたい」
「営業提案書の作成時間を3時間から1時間にしたい」
「問い合わせ対応コストを30%削減したい」
というように、業務のゴールを置きます。
すると、AIに何をさせるべきかが見えてきます。
必要なデータも見えてきます。
必要な精度も見えてきます。
そしてPoCで何を測ればいいのかも決まります。
AI導入の順番は、
AIで何ができるか
ではなく、
何を改善したいか
↓
そのためにどんなデータが必要か
↓
AIにどこを任せるか
↓
実際に業務がどれくらい変わったか
で考えるほうが、はるかに現実的です。
PoCは「実際の業務」でやらなければ意味がない
もう一つ重要なのは、PoCをできるだけ実際の業務に近い環境で行うことです。
きれいに整えたサンプルデータだけでAIを試すと、かなり良い結果が出ます。
しかし、実際の企業データはそうではありません。
古いファイルが混ざっている。
表記が違う。
必要な情報が別部署にある。
アクセス権が違う。
担当者の経験で補完されている。
こうした現実の中でAIが本当に機能するのか。
ここを試さなければ、本番導入時に一気に問題が噴き出します。
だからPoCは、小さな範囲でもいいので、本当の業務、本当のデータ、本当の利用者で試したほうがいい。
その中で、
どこまでAIに任せられるのか。
どこに人の判断が必要なのか。
どんなデータが足りないのか。
を確認する。
これこそがPoCの価値です。
FTが考えるPoCは「業務効果」と「データの現実」を同時に見る
私たちFTがAI導入を支援するときも、単に「AIが動くか」を確認するだけでは不十分だと考えています。
見るべきなのは二つです。
一つは、業務にどれだけ効果があったか。
もう一つは、その効果を継続的に出すために、どのデータをどう整える必要があるかです。
たとえば、設計資料の検索時間を半分にできたとしても、元データが更新されなければ、その効果は長続きしません。
品質トラブルの原因分析が速くなっても、工場ごとの表記やルールがばらばらなままでは、全社展開したときに精度が落ちるかもしれません。
つまり、PoCで確認すべきなのは、
「このAIが使えるか」
ではなく、
「この業務が本当に改善するか。そして、その改善を支えるデータを運用し続けられるか」
です。
小さく始めて、効果が見えたところから広げる
FTでは、最初から全社規模で大きなAI基盤を作るよりも、効果が測りやすい業務から小さく始めることが重要だと考えています。
一つの部署、一つの工程、一つの課題から始める。
実際のデータを使う。
効果を測る。
そこで見つかったデータの課題や現場のルールを整理する。
そして、成果が確認できたら対象を広げていく。
この進め方なら、投資判断もしやすくなります。
さらに重要なのは、PoCのたびに個別の仕組みを作って終わらせないことです。
検証を重ねるたびに、整理されたデータや現場のナレッジが次の取り組みにも使える状態にしていく。
FTがKraken.で目指しているのも、まさにそこです。
Kraken.は、最初から全社のデータ構造を固定してしまうのではなく、現場で使いながら必要なデータや関係性を後から追加・変更し、少しずつ企業独自のデータ基盤へ育てていけるように設計しています。
PoCで見つかった知見をその場限りで終わらせず、次のAI活用につながる企業のデータ資産として残していく。
それが、PoCを「実験」で終わらせないために重要だと考えています。
技術検証から「事業検証」へ
AI導入がPoC止まりになる理由を、私は技術不足だけの問題だとは考えていません。
むしろ多いのは、
「技術的にはできた。しかし、導入する理由を説明できない」
という状態です。
経営層から、
「それで、いくら効果があるの?」
と聞かれたときに答えられない。
するとPoCはそこで止まります。
逆に、
年間○万時間の業務時間が削減できる。
年間○千万円のコスト削減余地がある。
品質問題の調査時間が○%短縮できる。
という効果が見えていれば、次の投資判断はずっとしやすくなります。
AIのPoCは、単なる技術検証から、
「この技術を入れることで、事業にどんな変化が起きるのかを検証する実験」
へ変えていくべきです。
最後に
AIはこれから、ほぼすべての企業で使われるようになると思います。
だからこそ、「AIを導入した会社」
であること自体には、いずれほとんど価値がなくなります。
差がつくのは、
AIを使って、どの業務を、どれだけ良くしたか です。
そのためには、最初に目的を決める。
実際の業務で試す。
効果を数字で測る。
その過程で見つかったデータの課題を整理する。
そして、小さな成果を確認しながら段階的に広げていく。
FTは、このプロセスを企業と一緒に進めながら、PoCで終わるのではなく、その先で企業自身が継続的にAIとデータを活用できる状態をつくることが重要だと考えています。
AIが動いたかどうかではなく、会社が変わったかどうかを検証する。
そして、その変化を継続できるデータの仕組みを残す。
それが、これからのAI導入におけるPoCの本当の役割ではないでしょうか。
企業のデータを整理して使えるようにする
編集長 鳥井シンゴ
