元女今男の回想:あのとき“朝勃ち”を誇っていたFTMの彼の気持ちが、今なら少しわかる
「オレ、最近ずっと朝勃ちしてるんだよね。すごくない?」
正直、朝勃ちの自慢とか、人生で初めて聞いたし、聞いた瞬間「うわ、無理」って引いた。
男アピールしたいのかもしれないけど、やり方がダサすぎる。
それ、“誇り”なんかじゃなくて、ただの必死さが透けて見えてて、むしろ見てて痛かった。
当時の僕は、彼の言葉にただ困惑していた。
なんでそんなことをわざわざ口にするのか、本気で理解できなかった。
でも今、あのときの彼の気持ちが、少しだけわかる気がしている。
男性ホルモンと、目に見える変化
トランス男性がホルモン治療を始めると、身体はいろんな変化を起こす。
声が低くなる
体毛が濃くなる
筋肉がつきやすくなる
生理が止まる
性欲が高まる
そして、“朝勃ち”が起こるようになる
その一つひとつが、「男になってきた」という確かな手応えになる。
たぶん、彼にとって朝の勃起は、自信の証だった。
「見てくれよ、ちゃんと“男”になってきただろう?」
そんな心の叫びが、あの言葉の奥にあったのかもしれない。
当時の僕には、まだ理解できなかった
あの頃の僕は、まだ性別違和に向き合い始めたばかりだった。
ホルモンも打ち始めたばかり。
声は高くて、顔も丸く、見た目は“元女子”感がぬけていなかった。
「どうやったら“男”に見えるだろう」
「どの服を着たらいい?」
そんなことばかり考えていた。
彼の“自慢”が、うらやましかったのかもしれない。
自分の中に“男”が根づいてきたという感覚を、
僕はまだ持てていなかったから。
勃起は「男らしさ」の証なのか?
あれから年月がたった今、考える。
朝の勃ちを誇ることが、「男らしさ」なのか?
──たぶん、違う。
でも、あのときの彼にとっては、
それが確かな変化であり、心の支えであり、「これでいいんだ」と自分を受け入れるための、小さな証明だったんだと思う。
今、僕は「探すこと」をやめた
今の僕は、もう朝の身体の反応に一喜一憂しない。
ホルモンのリズムも理解して、変化にも慣れた。
「男としてちゃんと見えてるかな?」と焦ることも減ってきた。
昔は、“自分の中の男らしさ”を探していた。
今は、“自分なりの男らしさ”を、生きている。
だからこそ、ようやく気づいた。
彼があのときやっていたのは、「確認作業」だったんだと。
他人の“誇り”を笑わない
トランスとして生きるっていうのは、
「目に見えない男らしさ・女らしさ」を、自分の手で組み立てていくことだと思う。
だからこそ、誰かの「俺、朝勃ちするんだ」って言葉を聞いたとき、
前みたいに笑ったり、引いたりする前に、一呼吸置いてみたい。
それはきっと、誰かが“自分”を証明しようとした、ひとつの足あとなんだ。
あなたにとっての“男らしさ”って、何ですか?
声の低さ?
ヒゲの濃さ?
朝の勃起?
それとも、誰かを守りたいと思える気持ち?
人それぞれの“男”があっていい。
僕は、自分の身体と折り合いをつけながら、
今日も「僕の男らしさ」を、生きている。
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