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回想録|20代の頃、FTMの友達の一人暮らしのアパートに行ったらエロビデオがデッキから飛び出ていた話

20代の頃、同じFTMの友達の家に遊びに行った夜のこと。
お酒を飲みながら笑って過ごした、何気ない時間の中に、
いま思えば“自分が男として生きる”ということを
改めて実感した瞬間があった。
笑い話みたいで、少し切ない、そんな夜の記録。


📖本文

20代のある日、FTMの友達の一人暮らしのアパートに遊びに行った。
玄関を開けると、六畳のワンルームに生活の匂いが漂っていた。
テーブルの上にはカップ麺の容器、ベッドの端には洗い立てのTシャツ。
漂う空気は、まぎれもなく“男の部屋”だった。

僕はその頃、パートナーと同棲していた。
日々の暮らしに安心はあったけれど、
どこか「守られている」ような感覚もあった。
社会では男として暮らしていたけれど、
自分の中ではまだ、“完全に男になりきれていない”と思っていた。

だから、こうして同じFTMの友達が一人暮らしをしているということが、
どこか眩しく見えた。
自分の力で部屋を借りて、自分の匂いで生きている。
それが“男としての完成形”のように思えた。

その日も、コンビニで買ったカップ麺を食べながら他愛ない話をしていた。
仕事の愚痴、恋愛の話、ホルモン注射の副作用。
お酒も少し入っていて、
いつもより少しだけ、笑い声が多かった気がする。

ふと、テレビの下の古いデッキのランプが光っているのに気づいた。

「電源、入ってない?」
「……あ、ほんとだ」

彼がリモコンを押した瞬間──
ガチャッという音とともに、黒いビデオテープが勢いよく飛び出した。

タイトルを見た瞬間、二人で固まった。
白地にマジックで走り書きされた文字。
『となりの居乳人妻、初めての…』

「……おい、これエッチなビデオじゃん」
「ち、違う!兄貴のだよ!借りたんだよ」

その瞬間、吹き出した。
けれど笑いながらも、心の奥が少しざらついた。

──あっ、みんなやってるんだなー。

そりゃね、男性ホルモンの影響で性欲は我慢できない。
性欲って、どんなに理屈をつけても無理なんだよな。
頭じゃ止めようとしてるのに、
身体の方が「はいはい、わかったから」って勝手に動く。
やらずにはいられないわけ。

まあ、僕だってやっているよ。
ただ、僕はパートナーと暮らしていたし、堂々とビデオを借りてくることできなかった。
だから、あの部屋のあのテープが、少し羨ましく見えた。

そのことを口に出すことはなかった。
でも、彼の表情を見た瞬間、わかった。

黙っていたけど──お互い、そうだよね。
そんな静かな沈黙が、部屋の中に流れた。

でもどうやって性欲を抑える行為をしているかは、お互い話題にせず。
そこには越えてはいけない線がある。

持っているものと形は一緒。
たぶん感じる部分も同じだろう。
刺激する部分も同じだとは思う。
何を使うのかは人それぞれだけどね。
でも、そこは触れてはいけない。

そう思った瞬間、なぜか少し笑えて、少し切なかった。
男として生きるというのは、
こういう瞬間を笑ってやり過ごすことなのかもしれない。

恥ずかしさと欲と、ほんの少しの誇りを胸に抱えて。
それでも前を向いて生きていく。


🪶あとがき

たぶん誰にも話したことがない、20代のある夜の記憶。
笑いながら話せるようになったのは、
ようやく自分の「男としての過去」を受け入れられるようになったからかもしれない。

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