「温泉ってどうやって作るんだ?」試行錯誤の「我田引水」チャレンジ@中東の岩肌
あらすじ
魅惑の本屋がヨルダンにあったので「ここで働かせてください!」とアタックし、いろんな国のスタッフと本屋に住み込みしていた連載エッセイ。
●きっかけは、寒すぎた海水浴

中東ヨルダンの本屋で暮らしていた時。ヨルダン人の店長と、そこで働く女子スタッフ(イタリア人と私)は、本屋の定休日に「死海」という体がプカプカ浮く海を訪れ、折角なので泳いでみた。
しかしその日は1月の真冬。海から上がってブルブルと震えていたところ、店長がこんな一言…「近所に温泉あるけど、入ってく?」
おいおい、さすが店長(泣)。「スノボの後はみんなで温泉」という至福コースがあるように、「死海の後にもみんなで温泉」。この法則を、彼はよく知っていたのだった。
●本当にこっち?温泉への道のりは長い…
「こっちだぞー」
冷えた体を温泉で温めるべく、震える身体で店長についていくイタリア人と日本人。

しかしそこには、「本当にこっちなのか?」という、スーパーマリオのような大冒険コースが用意されていた。ゲームと違って私の命は1つだけなのだが、店長はそういうことは知らないみたいだ。日本では結構、常識なんだけど…。
「命綱とか、ヘルメットとか、滑らない靴とかを用意して、何日か練習してから進んだ方がいい」と一目でわかるルートを目の当たりにして、私は足がすくんだ。

あまりにも…危険ではないか?
人生のリスクを何回計算しても、「今からここを進むぐらいなら、一旦帰国して日本の銭湯にサッと浸かって、またヨルダンに戻ってくる方が絶対に良い」という結果が出てしまい、脳が涙を流している。
しかしどんどん進んでいく2人。これは本当に、人生で一番危険な経験で、絶体絶命の場所もたくさんあった。もちろん写真を撮っている場合ではなかったため、危険箇所の画像は無いけれど...。2度とやりたくないほど危ない経験をしながら、大怪我と隣り合わせで進むと…
温泉があった。(チョロチョロチョロ)

「おいおい店長?こ、これが温泉!?」
温泉といっても本当に、ただチョロチョロチョロという"半角カタカナの熱湯"が流れている場所にたどり着いた。
店長「あっちからは、ぬるま湯が湧き出てるから。こっちの熱湯と組み合わせれば、いい温度のお風呂ができるはずだ」
はあそうか。さっき行った死海と同様に、ここも"商業化"されていない温泉。「湯が溜まるスペース」および「適温の湯」を、自分で創作するところから始まるらしい。
●ヨルダンで初めての「我田引水」
そうして、「ちょうどいい窪み」を見つけて「ここを私たちの湯船にしよう」と決めた私とラウラ。私はぬるま湯の湧き出るところから、ラウラは熱湯の湧き出るところからそれぞれ水流を引き、「湯船」に2つの温度の湯が流れてくるように水路を作った。
久々の真剣な砂遊びは、それ自体が楽しい気持ちももちろんあったけれど、私はどうしても「ここまで来たら絶対に温泉に浸かりたい」という熱意があったため、黙々と水路を引き続けた。
そうしてできた、私たちの温泉…。ドキドキして浸かってみた。チャポン…。

やっと温泉が完成し、私とラウラは満足満足。真冬の温泉は、「我田引水の我田は、GADENというよりGADENGだよな」という煩悩さえも忘れさせてくれた。
しかし、なんだか温度に違和感もある。「ちょっとぬるくない?」とラウラに尋ねると、「え?私は、ちょっと熱すぎると思ってた…」と言う。
見ると、本当だ!ラウラの背中が、写真でも見て分かるように真っ赤になっている!まさにポカポカのお湯に浸かった人の背中だった。
そう、私たちは温泉クリエイターとしてビギナーだったため、2つの流水を均等にブレンドする術を持ち合わせていなかったのだ。
試しに湯船の中央に座ると、「右半身がアツアツで左半身がぬるい」という、自律神経もびっくりの感覚に陥った。ちなみにコメダ珈琲のシロノワールのコンセプトは「熱々冷々(あつあつひえひえ)」だが、今言う必要は全くない。
「これさ、どうやったら混ざるんだろ?」
「わからん…」
そうして私たちは、「ときどき2人の場所を交代すれば良くない?」という画期的な策を生み出し、お湯ではなく人間を動かすことで全てを解決した。

「当館の湯は、左方からはぬるま湯が、右方からは熱湯が流れてきて、湯船の中央で文字通り『合流』する仕組みになっております。複数人でご利用の場合は場所を入れ替わりながら。お一人の場合は真ん中に座って、回転しながらご利用していただけます」
「死海の湯」公式HPより

そうして無事にできた、死海で遊んだ帰りにぴったりの「死海の湯」。ちょっと立地に難があり命が危ぶまれるのがたまに傷だが、この地球の岩肌に囲まれながらお湯に浸かるというのはなかなか気持ちがいい。
ヨルダンの死海で泳がれた際は、当湯へのご来訪をお待ちしております。
つづく
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