不正・不祥事が起こりやすい組織から考える
先日、仲間内で、月刊誌「致知」8月号を使った読書会を行う機会がありました。
その日は、8月号の中から、100年プランニング代表 田村 潤氏と商工組合中央金庫社長 関根 正裕氏による対談「企業の盛衰はリーダーにあり」がテーマでした。
読書会では、同記事の読み合わせと内容に関連する意見交換を行いました。
全国最下位クラスだったキリンビール高知支店を立て直し、その後全社の営業改革を牽引した田村氏。一方の関根氏は、第一勧業銀行の総会屋事件後の改革、西武グループの経営再建、そして不正融資問題に揺れた商工中金の改革に携わってきた方です。
歩んできた道は異なるお二人ですが、対談を読んでいると、組織を立て直す際の考え方には共通点を見いだせることを示唆しています。
個人的に印象に残ったことに関連して、ここでは5つ取り上げてみます。
1.衆知を集め、現場が考える組織にする
同記事から、順不同で一部中略しながら抜粋してみます。(敬称略)
田村 私が大学卒業後、縁あってキリンビールに入社したのは1973年で、最初に配属されたのは岡山工場の労務課でした。これが私にとってすごく幸運でした。
というのは、当時のキリンビールは上意下達、大卒の事務職が現場に指示してマネジメントするというスタイルだったんですね。ところが、岡山工場は、現場が自分たちで決めたことを大卒の事務職がサポートするというスタイルで運営していたんです。
仕事が終わると、毎日のように現場の人と飲みに行き、いろいろ対話をするのですが、その中で会社というのは現場が中心であり、現場に本質があることを実感していきました。また、毎日一緒に飲んでいると、「地道に愚直に徹底的に」という言葉があるように、一所懸命仕事に向き合っている人ほど、ある日突然、「この人、急に成長したな、すごいな」と感じる瞬間があるんです。発する言葉や行動が急に変わるんですよ。
こうした経験から人間ってすごいな、人間の能力を最大限発揮させていけば仕事というのはうまくいくんだな、ということが感覚として体に入っていったんです。
田村 それともう一つ、労務課ですから、現場のディティールと同時に、工場全体のことも考えなくてはいけないんです。岡山工場の次は本社の労務部門で仕事をしましたが、例えば賃上げをいくらにするかという時も、当然キリンビール全体のことを考えないと適正な金額は出せません。20代でそうした木も森も両方見る習慣を培うことができたのは、すごく幸運でしたし、勉強になりました。
実際、32歳の時に営業畑に移り、大阪支店でスーパーマーケットや百貨店といった量販店を担当したのですが、労務課で学んだことを実践したところ、1年目にして量販店担当の中で全国1位になったんですよ。キリンビールの営業も上意下達で、本社の意向を大事にしていました。一方、私は何事も現場基点で考え、量販店の人に、「どういう状態ができれば、お客さんが買いやすいですか」と聞いて、とにかくお客様の視点から戦略を考えていったんです。
上から言われたことを相手に押し付けるだけの営業と、顧客視点で考える営業とでは、明らかに成績が違います。
関根 (第一勧業銀行時代に)浜松町支店の後は企画部広報室に配属され、1996年に副支店長として名古屋支店に異動しました。ところが、その半年後に総会屋事件が発覚し、急遽、広報室に呼び戻されたんです。私が40歳の時でした。
そこから、記者会見の対応や、社内のコンプライアンス整備、情報開示の強化など、行内の立て直しに奔走する日々が始まりました。
その中で得た教訓は、上意下達、同質性の高い組織では不正・不祥事が起こりやすいということです。第一勧業銀行では逮捕者も出ましたが、皆さん優秀で人柄も立派な方が多かったと認識しています。
でも上意下達の組織風土だと、自浄作用が働きにくく、先輩や前任者のやり方を否定できず、前例踏襲で引き継がれてしまう傾向があります。加えて、同質性が高く組織の風通しが悪いと、正しい情報が上まで上がってきませんし、組織内で共有もされにくくなってしまうんです。
それから、情報開示に後ろ向きな組織も、不正・不祥事が起こりやすいと感じました。当時の広報業務においては、必ずしも積極的な開示が重視されず、結果として不都合な情報をいかに表に出さないかに重きが置かれていた側面がありました。しかし、そのような情報を隠そうとすると、却って総会屋のような勢力に察知され、つけ込まれるリスクが高まります。
また、過度な業績至上主義の組織は、やはり現場にプレッシャーがかかり過ぎ、会計不正や品質偽装などに繋つながってしまいます。上意下達、同質性が高い、情報開示しない、業績至上主義の4つが揃そろった組織では不正・不祥事が起こりやすい、これは私の実感です。
関根 西武グループは堤さんの並外れたリーダーシップや構想力、決断力、実行力により大きく成長してきたことは間違いありません。一方、その強いリーダーシップがゆえに、現場が指示待ちの姿勢になり、自ら考える機会が減っていた面もあったように感じます。
特にバブル期には、営業を行わなくてもホテルやゴルフ場にお客様がどんどん来てくださる状況で、申し込みを断るのが仕事になっていたようなところもありました。それでは「お客様のために何ができるか」という発想が生まれにくいですよね。時代が変わっているのに、マネジメントの形が追いついていなかったのだと思います。
実際、ホテルの年配の支配人と話をした時、「私はお客様のアンケートには目を通していません」と言われました。理由を聞いたら、「(上の指示通りに運営する必要があり)読んでも実現できないからです」って答えたんですよ。これは本当に衝撃的でした。
田村氏がキリンビールで最初に配属された岡山工場での「会社というのは現場が中心であり、現場に本質がある」という経験が、後の高知支店改革にもつながったとあります。同記事では、高知支店でメンバーと県内の飲料店を回ってお客さまの声を聞き続け、「キリンらしさを取り戻す」「高知の人に感謝を伝える」といった方向性を見いだしていったそうです。
商工中金でも、関根氏は本部から各営業店へのノルマの割り振りをやめ、それぞれの地域の特性を踏まえて、営業店自身が目標や計画を考える形へと変えていったとあります。支店長や管理職だけでなく、地元採用の事務職員の意見も取り入れたと言います。
これらに共通するのは、「上にいる人が一番よく分かっている」という発想と一線を画した、衆知を集める行動だと思います。
上意下達は必要です。
組織全体が決めた方針を浸透させ、全社をけん引してひとつの方向に向かわせる。特に創業直後の急成長期や、変革が求められる局面、社員も半信半疑の新事業を強力に推進していくときなど、強いトップダウンが必要です。意思決定を早め、組織全体を強力に導く必要があります。上意下達は不可欠でしょう。
一方で、松下幸之助氏は「衆知を集める」重要性を説きました。組織や事業の規模が大きくなり、環境が複雑になればなるほど、トップだけがすべての情報を持つことはできません。また、お客さまの変化や現場の小さな異変を最初に察知するのは現場です。リーダーのなすべきことのひとつは、トップマネジメントまで情報が的確に上がってくるよう、衆知が集まる環境づくりとその実践だと言えます。
それも、会社にとって都合の悪い情報ほど早く上がるようにすることが必要です。
関根氏が示唆する「不正・不祥事が起こりやすい4つのうちの1つである上意下達」は、指示されたことのみに動く人であふれた結果現場の思考が停止し、現場のまずい状況に疑問を持たなくなる状態を指していると考えられます。上の指示通りに運営する必要があるからお客様のアンケートには目を通さないなどは、それがよく現れている事象だと思われます。
上意下達の一辺倒では、上が間違った方向を示した時にも、真面目な人ほどその方向に一所懸命走ってしまいます。
リーダーは、組織の問題や課題の定義、各判断にあたり、自分の中にある情報や思考だけですべての答えを出すことではなく、多くの人から情報や知恵を集めたうえで、答えを見出して結論を出すことなのだと、改めて認識します。
2.多様性を活かして、同質性と情報の閉鎖性を乗り越える
関根氏は、不正・不祥事が起こりやすい4つのうちの2つ目として、同質性の高い組織であることを挙げています。
興味深いのは、不正を起こした人たちについて、「皆さん優秀で人柄も立派な方が多かった」と振り返っていることです。つまりは、不祥事が「悪い人がいるから起こる」とは限らないということです。そもそも、人はいろいろな面を持っていて、単純に良い人と悪い人のどちらかに分けられるというものでもありません。
同じ会社で長く働き、似たような経験を積み、似たような価値観を持つ人たちだけで意思決定を続ける。それ以前に、そもそも似たような特徴の持ち主が採用されている。このような環境は、いつの間にか「これが普通だ」「昔からこうしている」などの組織独自の常識が形成されやすくなります。
そこに上意下達が加わると、「これはおかしいのではないか」という声はますます出にくくなると容易に想像されます。
さらに、「不正・不祥事が起こりやすい3つ目の情報非開示」の文化が重なれば、自分たちに都合の悪い情報は組織の中でも外でも共有されなくなります。すると、自分たちの常識を問い直す機会が組織内外から失われてしまいます。
多様性というと、性別、年齢、国籍、職歴などの違いを思い浮かべますが、本質は、異なるものの見方が組織の意思決定過程に入ってくることなのだと考えます。そうした属性の違いは、異なるものの見方の持ち主の可能性が高まるということだと思います。
大切なのは、多様な人を集めることだけではありません。異なる意見を言えること、それが実際の意思決定で取り上げられること、そして必要な情報が開かれていることです。
「自分たちと違う意見」は、ともすると面倒に感じます。しかし、その違和感こそが組織の思考停止を防ぐ安全装置にもなります。よく「風通しのよい組織を目指す」と聞くことがありますが、それは仲のよい組織ではなく、「違う」と安心して言える組織なのだと思います。
続きは、次回考えてみます。
<まとめ>
多用な情報源からの周知を活かす
