データ活用を「わかる」から「変わる」に。データを集めてから考えると失敗する理由
「データは、あるんです。使えていないだけで」
ご相談の場で、この言葉を何回聞いたか分かりません。
実際、お話を聞くとデータはあります。購買履歴も、サイトのアクセスログも、配信の開封データも貯まっている。BIツールのダッシュボードも作ってある。月次のレポート会議もある。データ活用のために揃えるべきものは、ひと通り揃っている。
それなのに、今月の施策は先月と同じです。レポートは「見て、終わり」。数字は把握しているのに、打ち手は変わらない。
はじめまして。株式会社Method-Lab 代表の深見徳宏です。前職のMarTech/CDPベンダーで執行役員として600社を超えるB2C企業のCRM・データ活用をご支援し、うち100社超は戦略設計から実装まで自分の手で推進してきました。その経験から、最初に結論を言い切ってしまいます。
データ活用は、データを集めることからではなく、「使い道」を決めることから始めるものです。
貯まっているのに使えない会社に足りないのは、データでも、ツールでも、分析スキルでもありません。「このデータで、誰の、どの行動を変えるのか」という使い道です。使い道が決まっていないデータは、どれだけ貯めても意思決定を1ミリも動かしません。
この記事の要点を、3つにまとめておきます。
データ活用とは「データを見ること」ではなく「データで打ち手を変えること」。分析で終わるか、行動につながるかが分かれ目
進め方の大原則は、全体最適が先、個別最適(パーソナライズ)は後。順番を逆にすると、時間とお金だけかかって頓挫する
実務の中心は「顧客をプロセスで分け、各プロセスの心理を読み、次へ進む情報を設計する」こと。データはそのための材料
この記事では、データ活用の定義から、600社を見てきて辿り着いた進め方、実際の事例までを、順を追って書いていきます。手順の一覧だけならどの解説記事にも載っていますが、「なぜ多くの会社が途中で止まるのか」まで書かれた記事は多くありません。そこを丁寧に書くつもりです。
データ活用とは何か。データ分析との違い
言葉の整理から始めます。
データ活用とは、社内外に蓄積されたデータを、事業の意思決定と施策の実行に継続的に使うことです。ポイントは「継続的に」と「実行に」の2つ。一度きりの調査はデータ活用とは呼びませんし、レポートを作って眺めるだけでも、まだ活用には届いていません。
よく混同されるのが、データ分析との違いです。私はシンプルにこう分けています。
分析は「わかる」で終わる。活用は「変わる」まで行く。
先月の解約率が上がった理由を突き止めるのが分析。その理由に基づいて、今月の解約防止の打ち手を変え、結果を検証するのが活用です。分析はデータ活用の一部にすぎません。そして多くの会社が止まっているのは、まさにこの「わかる」と「変わる」の間です。
なぜ止まるのか。理由は大きく3つあります。
1つ目は、目的のない収集。 「とりあえず貯めておこう」で集められたデータは、粒度も形式も使い道に合っておらず、いざ使おうとすると加工に膨大な手間がかかります。
2つ目は、「見る」姿勢で作られた仕組み。 ダッシュボードは現状を映しますが、次の打ち手は教えてくれません。「何を見るか」から設計された仕組みと、「何を変えるか」から設計された仕組みは、似ているようで別物です。
3つ目は、部門の分断。 購買データはEC部門、行動データはマーケ、問い合わせはコンタクトセンター。データが部門ごとに分かれていると、顧客は「一人の顧客」として見えず、分析も施策も部分的なものにとどまります。
3つに共通するのは、データそのものの問題ではなく、使い道を決める前に仕組みを作ってしまったことです。だから、進め方の話をします。
その前にひとつだけ、データ活用がうまく回り始めた会社で何が変わるのかを書いておきます。第一に、会議が変わります。「なんとなくこう思う」のぶつけ合いが、「この数字がこうだから、これをやる」に変わり、意思決定が速くなる。第二に、施策の精度が上がります。全員への一斉アプローチから、状況に合わせた働きかけへ。第三に、仕事が人につかなくなります。ベテランの勘としてしか存在しなかった「あのお客様はそろそろ離れそう」という感覚が、データとして共有され、チームの誰でも動けるようになる。売上の数字はこの3つの変化の結果としてついてくる。逆に言えば、数字だけを追ってこの3つを変えないデータ活用は、長続きしません。
使うデータの種類。定量と定性、両方を見る
進め方に入る前に、材料の話も短く整理します。B2Cビジネスのデータ活用で使うデータは、大きく3種類です。
購買データ。 誰が、いつ、何を、いくらで、何回目に買ったか。事業の構造を分解するときの土台になります。
行動データ。 サイトやアプリで、どのページを見たか。メールを開いたか。買う前・買った後のお客様の動きが残っています。後述しますが、これは読み方に技術が要るデータです。
顧客の声。 レビュー、お問い合わせ、アンケート。数としては少なくても、数字の「理由」を教えてくれる唯一のデータです。
コツは、定量と定性を往復することです。定量データは「どこで人が減っているか」という場所を教えてくれますが、「なぜ」は教えてくれません。なぜを埋めるのが顧客の声です。場所は数字で、理由は声で。どちらか片方だけのデータ活用は、たいてい打ち手を外します。
なお、これらはすべて自社がお客様から直接いただいたデータ(いわゆるファーストパーティデータ)です。外部データや広告データに頼る前に、まず手元のこの3つを使い切ること。ほとんどの会社は、使い切っていません。
進め方の大原則:全体最適が先、個別最適は後

データ活用の目的としてよく掲げられるのが、「パーソナライズ」「1to1コミュニケーション」です。顧客データを活かして、一人ひとりに合わせた働きかけをする。方向として正しいですし、データ活用の到達点のひとつだと思います。
ただ、600社を見てきた立場から、先に言っておきたいことがあります。
安易にパーソナライズ・1to1に走らないでください。
個別最適化は、基本的に時間とお金がかかります。セグメントを切れば切るほど、施策の数は増え、作るものが増え、検証も複雑になる。まずやるべきは、全体最適です。すべてのお客様に対する「基本の流れ」を本気で作り切ること。そこに本気で取り組まないまま、とりあえず個別の最適化をしようとすると、施策の数だけが増えて、どれも中途半端なまま、絶対に途中で頓挫します。運用が回らなくなるからです。
「うちはデータが揃っているから、最初から細かく出し分けたい」という会社ほど、この罠にはまります。データが揃っていることと、出し分けを運用しきれることは、別の話です。
それに、全体最適には磨く余地が想像以上にあります。全員に送る1本のメールでも、伝えるメッセージを1つに絞る、リンクを1本にする、送る順番をストーリーとして設計する。これだけで数字は動きます。「一斉配信だから成果が出ない」のではなく、一斉配信すら磨き切れていないのに個別化へ逃げるから、成果が出ないのです。
データ活用の進め方。顧客をプロセスで分ける7つの手順

では、「基本の流れ」はどう作るのか。私が実務で使っている手順は、この7つです。データはこの手順の中で、初めて「使われるもの」になります。
1.顧客をプロセスで分けて整理する。
出会う前、初回購入、利用中、継続、離脱しかけ。お客様がたどる道筋を段階に分けます。ここで使うのは購買データと行動データです。「どの段階に、何人いて、どこで一番人が減っているのか」。データ活用の最初の仕事は、高度な統計ではなく、この地図を作ることです。
2.各プロセスにいる人が、どんな心理状態なのかを調査し、仮説を立てる。
初回購入直後の人は、何が不安か。使い続けている人は、何に満足しているのか。離れかけている人は、何につまずいたのか。購買データ、行動ログ、レビュー、お問い合わせの内容。データと生の声の両方から、各段階の心理を読み取ります。
3.その心理状態の人が次のステップに進むためには、どんな情報を提供すべきかを考える。
売り込みではなく、「今のその人に何が伝わったら、次へ進めるか」です。不安が残っている人には安心材料を、効果を実感し始めた人には次の一歩を。
4.どんな施策を、どの目的でやるのかを明確にする。
1つの施策に、1つの目的。「認知も上げたいし、購入もさせたいし、解約も防ぎたい」という施策は、何も達成しません。目的が1つに絞られているから、後でデータで検証できるのです。
5.どんな切り口であれば、興味を持ってもらえるかを考える。
同じ情報でも、入り口の見せ方で、開かれるかどうかが決まります。ここもデータが効く場所です。どの件名が開かれたか、どのページが読まれたか。過去の反応データが、切り口のヒントをくれます。
6.切り口から目的に流れる内容を考える。
興味を引いた入り口から、施策の目的まで、一本の流れでつながる構成にします。切り口だけ面白くて、目的につながらないコンテンツは、読まれても数字を動かしません。
7.クリエイティブに落とす。
ここで初めて、メールやLINE、ページの実物を作ります。
この7つを、まず「全員に向けた1本の流れ」でやり切る。これが全体最適です。遠回りに見えるかもしれませんが、この1本ができて初めて、データは「眺めるもの」から「使うもの」に変わります。
パーソナライズの正体は、「切り口」である
そのうえで、パーソナライズの正体を言ってしまいます。
パーソナライズと呼ばれているものは、さきほどの7手順のうち、「切り口」の部分です。 その人の状況や関心に合わせて、入り口の見せ方をその人向けに変えること。
そして、ここが大事なところです。切り口を変えるなら、そこから目的へ流れる内容も、クリエイティブも変える必要があります。切り口だけ差し替えて中身が同じでは、お客様はすぐに気づきます。つまり、切り口を1つ増やすたびに、工数は単純に倍になっていく。
これが、「全体最適が先」の理由です。パーソナライズをやるなという話ではありません。工数が倍になっても見合う場所——売上インパクトの大きい歩留まり——から、順にやるべきだという話です。基本の1本が回っていて、数字が見えていれば、「次にどこを個別化すると効くか」はデータが教えてくれます。その順番なら、パーソナライズは強力な武器になります。順番を飛ばした1to1は、運用しきれない配信シナリオの山になるだけです。
行動データは、「状況」に翻訳して初めて使える

進め方の話をもうひとつ。データ活用が上手な会社と、そうでない会社の差がいちばん出るのが、行動データの読み方です。
私たちが支援した不動産仲介の例をご紹介します。テーマは、お問い合わせのあと音沙汰のなくなったお客様の掘り起こしでした。
やったことは、成約に至った方と至らなかった方のWeb閲覧データを、全件突き合わせることです。読み方には順番があります。まず「量」、次に「質」。 最初に、再訪の有無や閲覧ページ数で有意な差があるかを確かめる。差があると分かってから、「どのページを見ていたか」という質に踏み込む。
すると、閲覧が「状況」に翻訳できるようになります。マンションのページを見ていれば、住み替えを検討している。費用や段取りのページなら、決断が近づいている。同じ「再訪あり」でも、見ていたページによって、かけるべき言葉はまったく違うのです。
ここで大事なのは、行動データが教えてくれるのは「誰に」までだということです。「何を言うか」は、データから状況を読み取って、人が決める。データ活用というと機械が答えを出してくれるイメージを持たれがちですが、翻訳の部分は人の仕事として残ります。そして、この翻訳こそが成果を分けます。「Webに来たから商品を紹介する」は、データを使っているようで、状況を読んでいません。
事例:データが教えてくれた「絞る」という答え
もうひとつ、化粧品通販の事例です。
あるスキンケアブランドで、お試しセットから定期コースへの引き上げが伸び悩んでいました。データを見ると、案内メールは開かれているのに、その先で人が動いていない。原因はメールの中にありました。1通に複数のメッセージが同居し、リンクがいくつもあり、どこを押せばいいか分からない。伝えたいことが多すぎたのです。
打ち手は、増やすことではなく、絞ることでした。目的を「お試しの方には本製品へ」「本製品の方には1商品のアップセルへ」の2つに絞り、1通に1メッセージ、リンクは1本に。さらに、お客様がお試し品の効果を実感するまでの時間をデータから見立てて、3通目まで売らない構成に組み直しました。
結果、定期コースへの引き上げ率は18.6%から23.7%へ(+5.1pt)。ほぼゼロだった初回定期からのアップセルは、4人に1人以上になりました。
この事例で、データがやった仕事は2つです。人がどこで止まっているかを特定したこと。そして、売り込みを我慢すべき期間を見立てたこと。派手な予測モデルは、どこにも出てきません。データ活用の成果は、多くの場合、こういう地味で確かな判断の積み重ねから生まれます。
もうひとつ付け加えるなら、この事例は先ほどの7手順そのものです。プロセスで分け(お試し→本製品→次の一品)、各段階の心理を読み(効果を実感する前に売り込まれても響かない)、次へ進む情報を設計し(まず使い方と楽しみ方、実感が生まれてから案内)、目的を絞り、クリエイティブに落とす。データはこの各段階で、判断の根拠として働いています。手順とデータの関係は、いつもこの形です。
AI時代のデータ活用。「いらないデータ」はAIに渡してもゴミになる
最後に、ここ1〜2年で急に増えた相談に触れておきます。「AIを活用したいので、まずデータを整えたい」というものです。
方向性は正しい。ただ、ここでも原則は変わりません。目的が先、データは後。
いらないデータをどれだけ貯めて、AIに渡しても、ゴミにしかなりません。AIはデータの量ではなく、データの質と、与える問いの質で働きます。「誰の、どの行動を変えたいのか」が決まっていれば、整えるべきデータは自然に絞られ、AIの出力は施策につながります。決まっていなければ、大量のログを抱えたまま「で、AIで何をしましょうか」という会議が始まるだけです。
むしろAIの登場で、データ活用の勝負所は「使い道を決める力」に寄ってきています。分析や施策の量産はAIがどんどん速くしてくれる。その分、何のために・どの数字を動かすために使うのかという設計の価値が、これまで以上に上がっているのです。
データ活用を定着させるために。組織の話
最後に、仕組みではなく組織の話を短く。データ活用は、一度成果が出ても、組織に根づかなければ元に戻ります。定着した会社に共通していたのは、次の3つでした。
小さな成功を、先に作る。 全社データ基盤の構想から入った会社より、「お試しから定期への引き上げ」のような1つの歩留まりで成果を出した会社のほうが、結果的に遠くまで行きます。数字が動いた実例が1つあると、次の予算も、他部門の協力も、桁違いに得やすくなるからです。
経営には、数字の構造で語る。 「データ活用を推進します」では、経営は動きません。「この歩留まりが5ポイント動くと、年間の売上がいくら変わる」という構造で語ること。データ活用の社内提案は、それ自体が最初のデータ活用です。
完璧な基盤を待たない。 データが完全に統合されてから始めよう、とすると永遠に始まりません。今あるデータで一周して、足りなかったものを次に整える。基盤は、活用の後を追いかけて育てるものです。
よくある質問
Q. データ活用は、何から始めればいいですか?
新しいデータを集めることからではなく、今あるデータで「顧客のプロセス地図」を作ることからです。どの段階に何人いて、どこで一番人が減っているか。これだけで、最初に取り組むべき場所が見えます。たいていの会社は、始めるのに十分なデータをすでに持っています。
Q. データサイエンティストのような専門人材は必要ですか?
最初の段階では、必須ではありません。この記事に書いた進め方は、集計と、データを読んで仮説を立てる力があれば回せます。統計モデルや機械学習が効いてくるのは、基本の流れが回り、数字が見え始めてからです。人材より先に、「データで何を変えるか」を決められる体制のほうが重要です。
Q. どんなツールが必要ですか?
段階によります。まずは今あるデータを見られる環境(表計算やBIツール)で十分です。顧客への働きかけまで自動で回す段階になったら、データ基盤(DWH)やCRMツールの出番です。ツール選定は「データをどこに持つか」で決まるので、その考え方は別の記事で詳しく書いています。
Q. 中小規模の会社でも、データ活用はできますか?
できます。むしろデータ量が少ないぶん、1件1件の顧客の声や行動を丁寧に読めるのは、小さな組織の強みです。大企業の真似をして基盤整備から入るより、この記事の7手順を小さく一周させるほうが、確実に成果につながります。
Q. 個人情報の扱いで、気をつけることはありますか?
顧客データを扱う以上、個人情報保護法への対応と、社内のアクセス権限の設計は前提条件です。誰がどのデータに触れられるのかを決めずに「全社でデータ活用」を始めると、便利さと引き換えにリスクが膨らみます。もうひとつ大事なのは、お客様から見た納得感です。行動データにもとづく働きかけは、状況に合っていれば「ちょうどよかった」になり、外れていれば「監視されている」になります。データで何をするかだけでなく、何をしないかも、最初に決めておくべきことのひとつです。
まとめ:データ活用は、この順番で考える
長くなったので、骨格をまとめます。
使い道を決める。 誰の、どの行動を変えたいのか。動かしたい数字はどれか。
顧客をプロセスで分ける。 今あるデータで地図を作り、人が減っている場所を見つける。
心理を読み、情報を設計する。 各段階の心理状態を仮説立てし、次へ進むための情報と施策を、1施策1目的で作る。
まず全体最適の1本を回し切る。 検証し、数字が見える状態を作る。
それから、個別化する。 工数倍増に見合う場所から、切り口を変えていく。
集めてから考えるのではなく、使い道から逆算して集める。全体を作ってから、個別に向かう。データ活用で私がお伝えしたいことは、結局この順番に尽きます。
おわりに
株式会社Method-Labでは、特定のツールベンダーに属さない立場で、CRM・データ活用の戦略設計から実行までをご支援しています。「運用」で終わらせず、「成果」に責任を持つことを約束にしている会社です。
このnoteでは、CRMツールの選び方、CRM導入の進め方といったテーマも書いています。関連記事はマガジンにまとめていく予定なので、フォローしていただけると嬉しいです。
データはあるのに使えていないと感じている方、これからデータ活用を本格化したい方は、お気軽にご相談ください。まずは、貴社の状況をうかがうところから。
深見徳宏|株式会社Method-Lab 代表取締役
東京大学卒業。MarTech/CDPベンダーにて執行役員を務め、600社を超えるB2C企業のCRM・データ活用を支援。うち100社超は、戦略設計から実装まで自らが推進。2024年12月、株式会社Method-Labを設立。
