「適材適所」ではなく、「適材適時」。―人も、会社も、人生も変わる。ならば「最適な配置」も変わっていい。
「適材適所」という言葉があります。
能力に合った仕事へ人を配置する。とても合理的です。
でも最近、少し違和感があります。
人にとっての「適所」は、本当にずっと同じなのでしょうか。
30歳では、とにかく挑戦したい。
35歳では、子育てとの両立を考える。
40歳では、マネジメントに挑戦したい。
50歳では、経験を活かして人を育てたい。
もちろん、人によって全く違います。
会社側だって変わります。
成長期には営業力が必要になる。
変革期にはリーダーが必要になる。
AIが普及すれば、求められるスキルも変わる。
そして社会も変わります。
物価。人口。テクノロジー。働き方。価値観。
つまり、人も変わる。会社も変わる。社会も変わる。
それなのに、人事配置だけを固定的に考えることに無理があるのかもしれません。「優秀な営業だから管理職へ」は、本当に最適なのか。
例えば、営業成績が高い。だから課長へ。課長で結果を出した。だから部長へ。よくあるキャリアです。でも、売る能力と、人を育てる能力は違います。さらに本人が、「今はマネジメントより顧客と向き合いたい」と思っているかもしれない。行動経済学でいうハロー効果によって、
「営業として優秀」という評価を、「管理職としても優秀」へ広げてしまうこともあります。能力が高いことと、今その役割に置くことが正しいことは別。ここを混同してはいけないと思います。
人事は「過去」を見て、「未来」を決めている。
もう一つ面白い矛盾があります。人事評価で使われるのは、過去の実績。過去の経験。過去の評価。過去の役職。でも、人事配置とは、その人の未来を決める意思決定です。ここに大きなズレがあります。「あの人は営業型。」「あの人は管理職向きではない。」「あの人は企画タイプ。」一度ラベルが貼られると、確証バイアスによって、それを裏付ける情報ばかり見えやすくなります。
でも人間は変わります。
経験する。失敗する。学ぶ。家族ができる。価値観も変わる。人はアップデートされているのに、会社の中の人物像だけがアップデートされていない。
これは、かなりもったいないことです。
本人だって、自分の「適所」は分からない。
だからといって、「本人の希望を聞けばいい」というほど簡単でもありません。人には現状維持バイアスや損失回避があります。
新しい仕事に興味はある。でも失敗したくない。違う部署へ行ってみたい。でも今の評価を失いたくない。管理職を降りたい。でも肩書や給与は失いたくない。だから、「今の仕事を続けたい」=「今の仕事が最適」
とは限りません。会社にも本人にも、バイアスがある。だから適材適所は難しいのです。そこで、「適材適時」という考え方。
私は、「適材適所」より、「適材適時」という考え方がこれから重要になる気がしています。大切なのは、「この人は何に向いているか」だけではない。「今、この人が最も力を発揮できるのは何か」を見ることです。
能力 × 意欲 × ライフステージ × 働き方 × 組織課題。その交点は、時間とともに変わります。ならば配置も変わっていい。
人事配置を「決定」から「実験」へ。
そう考えると、人事の仕組みも変わります。いきなり異動させるのではなく、プロジェクトへ参加する。兼務してみる。短期間マネジメントを経験する。社内副業をする。AIでスキルや経験を可視化する。本人と定期的にキャリアを話す。そして、合わなければ変える。
配置を「正解を当てる仕事」から「仮説を検証する仕事」へ変える。この方が、人間という変化する存在には合っていると思います。
AI時代だからこそ、「人を見る」ことが重要になる。
AIによって、スキル。経験。実績。キャリア。エンゲージメント。希望。こうした情報から、配置候補を提案することは増えるでしょう。
これは大きな可能性です。でも、「子どもが小さい今は、少し仕事を抑えたい。」「3年後なら海外へ挑戦したい。」「実は人を育てる仕事に興味が出てきた。」そんな人生の文脈まで、データだけで完全に理解するのは難しい。だからAI時代ほど、データを見ることと、人と話すことの両方が重要になると思います。
適材適所は、「この人を、どこに置くか」を考えます。適材適時は、「今、この人が活きる場所はどこか」を考える。似ていますが、かなり違います。
人は変わる。会社も変わる。社会も変わる。人生も変わる。だから、最適な場所だって変わっていい。人的資本経営で本当に大切なのは、完璧な人事配置を一度つくることではなく、人の変化に合わせて「最適」を何度でも更新できる会社をつくること。
これからの人事は、「適材適所」から、「適材適時」へ。
人をポジションに当てはめるのではない。
人と組織の“今”を捉え、“これから”を見据えて、最適な役割を戦略的にデザインする。人も変わる。会社も変わる。社会も変わる。
だから、最適解も変わり続けていい。
「人をどこに置くか」ではなく、「いつ、どこで、その人を活かすか」。
それが、これからの人事戦略なのだと思います。
そこに、人を活かせる会社と、人を消耗させる会社の違いが生まれるのかもしれません。
