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【第十章】見ていないところで起きていたこと

私が知らないところで、
息子の世界は、ちゃんと続いていた。



ホストファミリーから、
アルバムとメールが届いた。

写真を開いた瞬間、
息子は少しだけ目を見開いて、
「なつかしっ」と言った。

それだけ。

たった一言なのに、
その顔を見たら、
向こうで過ごしていた時間が
ちゃんと息子の中に残っているんだと分かった。

メールには、
今月末に新しい日本人の男の子が来ると書いてあった。

それを教えてくれた時、
息子は少しだけ、
寂しそうで、羨ましそうな顔をしていた。

私は何も言わなかった。
でも心の中では、
「また行けばいい」と思っていた。

世界は、もう一度行きたいと思える場所になっていた。



留学先で仲良くなった友だちが、
今月末に揃ってニュージーランドに戻るらしい。

その話をしている時も、
息子は同じような顔をしていた。

「俺もまた行きたい」
そう言ったわけじゃない。

でも、
きっとそう思っているんだろうな、と
私は勝手に分かった。

そしてそれを、
止めたいとも、急かしたいとも思わなかった。



ある日、
友だち家族とご飯を食べに行った時のこと。

友だち同士の喧嘩の話になって、
私は何気なく、
「どう思ってるの?」と聞いた。

息子は少し考えてから、
こう言った。

「両方の話を聞かないとどうこう言えないし、
言っちゃいないと思う。
でも、また前みたいに仲良くしてほしい。
仲裁に入ってもいい。
でも、めんどくさいのは嫌。」

女の子の友だちの話だった。

はっきりしていて、
でも冷たくはなくて。

自分の気持ちを、
ちゃんと自分の言葉で言っていた。

私はその横顔を見ながら、
知らないところで、
こんな風に考えるようになっていたんだな、と思った。



最近、
息子はやたらとおしゃれにこだわる。

香水をつけたり、
原宿の美容院を予約したり。

お気に入りの服は、
ちゃんとクローゼットにしまう。

前は、そんなことしなかった。

でもそれを見て、
注意したいとも、管理したいとも思わなかった。

ただ、
自分の世界を大事にしているんだな、と思った。



私が見ていないところで、
息子はちゃんと、
息子の人生を進めていた。

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