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あのひとに怒られたときの話

たとえば3年前の写真を見る。

「このころはまだ痩せてたなあ」と思う。しかしながら3年前の自分としては間違ってもおのれを痩せているなどと思ってはおらず、同じように3年前の、つまりはいまから6年前の写真を見て「このころはまだ痩せてたなあ」と思っていた。この20年くらい、右肩上がりに太っているのだ。このままなんの対策もとらなければ、また3年後に現在の写真を見て「このころはまだ痩せてたなあ」と思うのだろう。いやいや、ぜんぜん痩せてねえってば。

先日病院に行った際、来週の連休明けに人間ドックを受けることを主治医に伝えた。すると主治医は「じゃあ連休中の暴飲暴食はダメですよ」と言う。とくに中性脂肪の値は、前日や前々日に飲み食いしたものの影響がてきめんに発現するらしく、摂生しすぎるのもよくないものの、暴飲暴食のまま人間ドックに臨むといろいろ判定を誤りやすいものらしい。「まあ、いつも通りの食事を心懸けることです。ハメを外さずに」。主治医は笑う。

この人との付き合いも、もう20年以上になる。診察で訪れるたび、この人も老けたなあと思うけれど、こっちだって右肩上がりだ。お互いさまに老けているのだろう。また、最近この人は白衣を着ることをやめ、もっぱらロサンゼルス・ドジャースのユニフォームを羽織って診察をしている。自分のような馴染み客(と言うのか?)はそれでもいいけど、初診で訪ねた病院の院長がドジャース姿だったら、ちょっとたじろぐかもしれない。

とはいえ20年以上もこの病院の、この院長の世話になっているのは、ひとつおおきな理由がある。それこそ20年以上前、引越を機にはじめて訪ねたときの話だ。

当時の院長はいかにも理知的で、おだやかで、若々しさもあって、当然のように白衣に身を包んでいて、住宅街のすてきな開業医を絵に描いたような人物に映った。そしてはじめましての問診のなか、常用薬に話がおよんだ。

「こちらのお薬、飲み忘れなく、ちゃんと飲んでますか?」

ややリラックスしたぼくは、自分のずぼらを自嘲するように言った。

「まー、だいたいは守れてるけど、お酒飲んだときとかは忘れちゃうこともありますかねー」

途端、院長は血相を変えて怒った。これは大事な薬なんです、笑ってそんなこと言うもんじゃない、食後の服用ということになってるけど飲まないよりは食前だろうと飲んだほうがいい、自分のためにもう絶対そんなことはしないでください、ぼくと約束してください。そう顔をまっ赤にして怒った。

偉そうなお医者さんに会うことは何度もあったけれど、こんなふうに怒ってくれるお医者さんに会ったのははじめてで、しかも決して理不尽にキレたのではなく、ほんとうにこっちの身体を思って怒っていることが伝わった。

以来、処方薬というもの全般への意識が変わったし、よそで処方されたものについても薬を飲み忘れたり自己判断で服用を中止することはなくなった。そしていまも、その病院に通い続けている。とてもとても、感謝している。

まあ、あのとき怒った院長がドジャースのユニフォーム姿だったら、こっちも反発したのかもしれないけれど。


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