ホテル ネイキッドキング 第1話
「帰国して仕事を手伝ってくれませんか?」
朝、PCを開くと、一通のメールが届いていた。送り主は大林さん。
長年、取引先である「ホテルネイキッドキング」の直営ショップでアルバイトとして働いていた彼が、この度、正社員として登用されたという報告だった。
「良かったですね。おめでとうございます」 そう返信すると、すぐに彼らしい、少し照れを含んだ決意の言葉が返ってきた。
「もう歳ですしね。こんな会社ですが、僕はやれるだけのことをやってやろうと思ってるんです」
当時、私は台湾にいた。
「これからはアジアの時代だ。日本なんて終わりさ」 そんな生意気な捨て台詞を吐いて飛び出したものの、現実は甘くはなかった。
数々の裏切り、複雑な人間関係。経験のない小売業への進出という選択も、今振り返ればベストからは程遠い、大きなミステイクだった。
増え続ける赤字に、肝を冷やす毎日。 にもかかわらず、不思議なことに人は、その異常な環境にさえ慣れてしまう。 それはまるで、ガソリンを垂れ流し、機体が燃え盛っているにも関わらず、引き返すことも着陸することも考えずに飛び続けている飛行機のようだった。墜落の恐怖を抱えながら、ただ前へ進むことしかできない、そんな狂気の中に私はいた。
そこへ飛び込んできた、大林さんからのメール。
「この際、この店を大いに改革してやろう。そう思っているんです」
彼の言葉には、今の私にはない、純粋で巨大なエネルギーが宿っていた。
「そこに赤羽さん、あなたの支えがあれば、僕はとても心強く感じます」
画面越しに大林さんの声が聞こえてくるような、温かいメッセージ。
私の心が、大きく揺れた。
わずか数年で、あんな格好悪い捨て台詞を吐いた日本に戻るなんて、我ながら情けない。自分を責める言葉が何度も頭をよぎったが、それ以上に「自分を必要としてくれる人がいる」という事実が、私の心を捉えて離さなかった。
この大林さんの決意に、そして私を必要としてくれるその気持ちに、自分自身の「復活」を賭けてみても良いのではないか。その想いが、次第に膨らんでいった。
「メール拝読。とても感激しました。来週、一度帰国しますので、お話を聞かせてください」 そう返信すると、すぐに、彼らしい実直な返事が届いた。
「本当ですか!嬉しいです。はい、日程を調整しましょう。僕、休みを返上してでも店に出てきますので、ご都合の良い日を教えてください」
数日前までアルバイトだった彼に、一体何ができるのだろうか。そんな不安も、正直あった。 けれど、今の私には、彼という人間に自分の人生を少しだけ預けてみることも、悪くない選択のように思えた。
大林さんからのメールを読み終えると、私はすぐに日本への帰国便を予約した。

日々増え続ける赤字に身動きが取れなくなっていた私
大林さんからのメールには救われる想いだった
