(小説) アンメッタブル 30. オディールと連絡を取り合わないまま、数年が過ぎた。
30.
オディールと連絡を取り合わないまま、数年が過ぎた。
モニークと一緒に始めたストレッチ教室は、効果があったようで、その後は股関節の話を聞かなくなった。だが、モニークは失恋を機に、半年ほどでやめてしまった。
それから、なんとなく入会した別のジムで、ヨガとピラティスの間をうろうろし続けていた。いつの間にかモニークは退会し、疎遠になっていった。
ある1月の金曜の夜、シャワーを出た後でスマホを確認すると、オディールから留守番電話が入っていた。
「ナタリー、元気にしてる?
いいピラティスの先生を見つけたんだけど、一度レッスンに来てみない?」
四十代のふっくらとした、落ち着いた女の先生だった。
少人数で、私たちの身体の悩みをしっかりと聞いてくれて、それに合ったメニューを考えてくれる。
レッスンの終了時には、久々に腰痛から解放された。その場で入会を決めた。
シャンタルとモニークにも、オディールが連絡したらしい。元の四人が教室に集まっていた。
一番最初に教室に来ていたシャンタルは、オディールへの恨みも忘れてしまったようで、「きゃっ、オディール! モニーク、ナタリーも!」と高校生のように喜んで、皆の手を握った。
ジムを出ると、濃い霧のような雨が降っていた。
傘を持たずに来てしまった。ネイビーブルーのレインコートのフードをかぶり、むわりと暖かいカフェに、逃げるように滑り込む。
数年ぶりの再会なのに、まるで毎週会っていたかのように、自然に話が弾んだ。
ひとしきりおしゃべりを済ませて、カフェを出ようと立ち上がったところだった。見覚えのある男が、ドアを開けて入って来た。
私が密かに気に入っていた「人類」だった。
彼は、店を大股で横切り、私たちのテーブルに歩み寄った。
「僕のプリンセス!」と低い声でささやくと、馴れ馴れしくオディールを抱きしめた。
それから、「ボンジュール」と礼儀上、私たちにも挨拶をした。
青ざめたシャンタルが、「きゃっ」と私の耳が識別できる下限ぎりぎりの音量で叫び、「あの人……、人類!」とささやいた。
「嘘でしょ!」とモニークがささやき返した。
濃いジーンズに、生成り色のセーターをあわせた彼の服装はシックで、穴などひとつもない。以前の無精ひげもきれいに剃られ、栗色の髪も、薄いなりに清潔にカットされている。
つい反射的に、鼻をひくひくさせたが、悪臭はしない。控え目なシトラス系の男性用香水の匂いが、鼻腔に心地よく流れ込んできた。
「オディール、どういうこと?」とシャンタルが攻めるように尋ね、続けて声を出さずに、「人類はアンメッタブルじゃなかったの?」と口パクで詰め寄った。
オディールは、愉快そうに口をとがらせ、天井を仰ぎ見た。
「人は意見を変える生き物なのよ!」と肩をすくめた。
ふと人類に視線を移す。彼は目尻にシワを寄せながら、オディールのまた少し老いた天使の笑顔を、嬉しそうに見つめていた。
