熱中症対策提言シリーズ第1回「作業着は長袖・長ズボン」は、本当に安全なのか
はじめに
少し季節外れに感じるかもしれませんが、来年の夏を少しでも安全に迎えるために、今年度のうちからぜひ検討していただきたいことを「熱中症対策提言シリーズ」として取り上げていきます。暑くなってからすぐに始められるものもあれば、設備やルール、作業方法など、時間をかけて見直す必要があるものもありますしね。
この記事を読んでほしい人
職場の熱中症対策に関わる方、安全衛生・総務・人事・現場管理の担当者、産業医・保健師などの産業保健職、作業着やユニフォームの選定・運用に関わる方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
先に超簡単な記事の要約です。
この記事では、長袖・長ズボンの作業着が持つ保護機能と、暑熱環境での負担の両面から、作業着のあり方を考えます。半袖やハーフパンツ、インナーウェアの活用、現場に応じた服装の選択など、熱中症対策としての作業着の見直しを提案します。
第1回のテーマは、「夏に作業着は長袖・長ズボンは安全なのか」です。
工場や建設現場などでは、「作業着は長袖・長ズボン」が当たり前になっている職場が少なくありません。真夏でも長袖、長ズボンであることも、「安全のため必要です」「作業着はそもそも長袖、長ズボンであるもの」と言われれば、それ以上疑問を持たれないことも多いでしょう。
しかし、夏の暑さが厳しくなり、熱中症そのものが生命に関わるリスクとなるなかで、本当にすべての作業で「長袖・長ズボン」と考えてよいのでしょうか。今回は、この「当たり前」をリスクの観点から考え直してみたいと思います。
作業着のいろいろな役割
そもそも、作業着は何のために着るのでしょうか。まず大きいのは、身体を危険から守る保護具としての役割です。たとえば、機械や資材に接触したときの切創や擦過傷、飛来物によるけがから皮膚を守ります。溶接作業であれば、火花や高温物による熱傷を防ぐ必要があります。化学物質や油、粉じんなどを扱う作業では、皮膚への曝露を減らす役割もあります。また、可燃性物質を扱う職場や電子部品を扱う職場などでは、帯電防止性能を備えた作業服が静電気対策として重要になる場合もあります。屋外作業では、紫外線や虫刺されなどから身体を守ることもあります。
また、作業着の役割は安全だけではなく、会社や職種を示すユニフォームとしての役割や、従業員の服装に統一感を持たせることもできます。お客様と接する仕事であれば、清潔感や身だしなみも重要です。
このように、作業着には、安全性、作業性、快適性、清潔感、統一感、対外的な印象やマナーなど、いくつもの役割があります。
問題は、それらを実現する方法が、本当に一年を通じて「長袖・長ズボン」でなければならないのか、ということです。
リスクに見合った対策を選ぶ
安全対策は、強ければ強いほどよいわけではありません。重要なのは、リスクに見合った対策を選ぶことです。
これは保護具を考えると分かりやすいです。わずかな粉じんしか発生しない作業で、最高レベルの呼吸用保護具を常時装着する必要はありません。過剰な防護(オーバースペック)は、動きにくさや身体的負担などを生じさせ、別のリスクにつながります。
作業着も同じように考えることができます。作業着自体が保護具とも言えますからね。溶接の火花が飛ぶ作業、化学物質が付着する可能性のある作業、切創や擦過傷の危険が高い作業では、皮膚を覆う必要性は高くなります。一方、そうした危険がほとんどない作業では、長袖・長ズボンの必然性はぐっと下がります。
「安全のために長袖・長ズボン」と考えるのであれば、もう一歩踏み込んで、何のリスクを、どの程度下げるために必要なのかを確認する必要があります。
安全対策はトレードオフ
安全対策はそれぞれのリスクのトレードオフであり、何かのリスクを下げたら、何かのリスクが上がります。皮膚を覆うことによって下げられるリスクがある一方で、身体を覆うことによって高まるリスクもあります。特に、暑い環境では熱がこもりやすくなり、身体への負担を大きくすることがあります。

これは「安全を取るか、快適さを取るか」という話ではありません。熱中症は、単に「暑い」「つらい」という問題ではなく、重症化すれば命に関わることもあります。涼しく働けるようにすることは極めて重要な安全対策です。だからこそ、仕事内容や暑さに応じて、より安全な服装を考えることが大切です。
暑熱環境はますます悪化するかも
この問題を今あらためて考えたい理由は、夏の暑熱環境が年々変化しているからです。同じ作業、同じ作業着であっても、気温や湿度が上がれば身体への負荷は大きくなります。かつては許容できた長袖・長ズボンによる暑熱負荷が、次の夏でも同じように許容できるとは限りません。
リスクアセスメントは、一度実施したら終わりではありませんよね。新しい設備を導入した。作業工程が変わった。使用する化学物質が変わった。こうした変化があれば、リスクを再評価します。それならば、作業する環境そのものが変化しているときにも、これまでの安全対策を再評価するのが自然です。「昔からこの服装でやってきた」ということだけでは、現在もその服装が最適であることの根拠にはなりません。
作業着も熱中症対策の一つ
熱中症対策では、暑熱環境や作業のやり方への対策がまずもって重要です。空調設備やスポットクーラーの導入、遮熱、暑い時間帯の作業を避ける、休憩場所の確保、連続作業時間の短縮、休憩頻度の確保、水分・塩分の設置・摂取の励行、クーリングなどです。そして、作業者ごとに暑熱順化を進めることや持病の管理、当日の体調管理などの複数の対策を組み合わせて、熱中症リスクを下げていきます。
そして、さらにその選択肢の一つに、作業着の見直しもあります。素材を変える。通気性や透湿性を高める。ファン付き作業服を使用する。半袖を選択できるようにする。作業内容によって長袖と半袖を使い分ける。作業によっては、ハーフパンツを選択肢にすることも考えられます。
設備や休憩、水分補給、WBGTについては毎年見直していても、作業着については「長袖・長ズボンが当たり前」として、検討対象にすらなっていない企業も多いのではないでしょうか。熱中症リスクが変化しているのであれば、作業着もまた見直すべき対策の一つだと思います。
すでに半袖やハーフパンツを導入している企業も
実際に、日本企業でも作業着を見直す動きが始まっています。いくつかご紹介します。
矢作建設工業株式会社
矢作建設工業株式会社はSDGs への取組みの一環として、工事現場の労働環境改善を目的に新たにハーフパンツのユニフォームを導入しましたので、お知らせいたします。 年々厳しさを増している夏場の暑さにより、屋外で作業する機会の多い建設業従事者の熱中症リスクは高まっています。当社では、熱中症対策を始め工事現場の労働環境を改善するため、新たにハーフパンツのユニフォームを導入しました。このハーフパンツのユニフォームは、インナーパンツと組み合わせて使用することで、安全性と通気性を確保し機能性も向上するものです。また、ハーフパンツのユニフォーム導入に合わせて、ファンジャケット(空調作業服)も袖を長袖や半袖に調整できるようリニューアルしました。 これら新しいユニフォームの導入により、作業内容や天候などに適したユニフォームを選択することが可能となり、 様々な環境下において安全を確保しながら快適に作業ができるようになります。
佐川急便株式会社
対策ウェアで熱中症対策を実施
クールファンベストやネッククーラー、ネックファン、ハーフパンツ、帽子など、対策ウェアを用いて熱中症対策を行っています。また、アイスラリーや冷感スプレーの使用、ならびに冷感機能付きアンダーウェアの着用も可能としています。
アサヒロジスティクス株式会社
配送先などで顧客と対面する場面が多い同社だが「荷主側に熱中症のリスクを説明し、ハーフパンツに対して理解をもらった」と説明する。「安全面や衛生面を考慮し、ハーフパンツの下にスパッツを身に着ける必要があるが、長いズボンよりも涼しい」という。 ズボンは自身で選択でき、長いズボンを好む人は長ズボンも選択できる。ハーフパンツは今年夏から本格的な運用となる。
株式会社平成建設
近年、空調服や冷却ミストスプレー、アイスネッククーラーなど、様々な熱中症対策グッズが続々と発売されていますが、工務部でも数年前から利用している空調服に加え、今年度から新たに制服として “ハーフパンツ” を導入することとなりました。
株式会社コマテック
2025年の夏服への衣替えから、従来の半袖作業服に加えて新たにポロシャツを導入しました。このポロシャツは、暑い時期に注意が必要な熱中症への予防対策を意識し、通気性が良く、軽量で伸縮性のあるポリエステル素材を使用しています。また環境に配慮して作られたリサイクルポリエステルを100%使用したタイプも採用しました。
株式会社フジテック(エアコン総本舗)
体温上昇を抑えるため、涼しい服装(短パン・通気性の高いウェア)の着用を推進しています。
「具体的にどう見直すか」
現場ごとに作業服を選択できるようにする
同じ会社であっても、すべての従業員が同じ危険にさらされているわけではありません。たとえば、火花や薬品の飛散・被液などのリスクがある現場では、皮膚を覆う必要性が高くなります。一方、間接部門や、こうしたリスクがほとんどない現場では、長袖・長ズボンでなければならない理由は小さくなります。
また、細かい作業を行う職場や身体を大きく動かす仕事では、動きやすさも重要です。機械を扱う作業では、袖の形状によっては巻き込まれのリスクにも注意する必要があります。
そこで、会社全体で一律に「長袖・長ズボン」と決めるのではなく、現場や作業内容に応じて、長袖、半袖、長ズボン、ハーフパンツなどを選択できるようにするという方法があります。さらに、季節やその日の暑さによって選択肢を変えることも考えられます。
インナーウェアとの重ね着も

安全面や、清潔感、身だしなみの観点から、半袖の作業着やハーフパンツの下にインナーウェア(スパッツ・レギンス・コンプレッションウェア)を着用するという方法もあります。インナーウェアには、接触冷感素材や吸汗速乾性・通気性に優れたものもあり、肌の露出を抑えながら、暑さへの負担を軽減する工夫ができます。
つまり、「長袖・長ズボン」から「半袖・ハーフパンツ」に変えることは、必ずしも肌をそのまま露出することを意味しません。半袖+長袖インナー、ハーフパンツ+スパッツという組み合わせも、作業内容に応じた選択肢の一つです。
ただし、一般的なインナーウェアは、耐切創性や耐熱性、耐薬品性などを備えた保護具とは異なります。必要な保護性能がある作業では、そのリスクに適した作業着や保護具を選ぶことが前提です。
「安全面や衛生面を考慮し、ハーフパンツの下にスパッツを身に着ける必要があるが、長いズボンよりも涼しい」という
ハーフパンツにコンプレッションという組み合わせが最強に涼しいと言われている理由は、吸汗速乾性と通気性がポイントになっています。ご存知の通り、コンプレッションウェアには、汗をかいてもすぐに吸い取って発散してくれるという、非常にすぐれた吸汗速乾性が備わっています。コンプレッションウェアを着て汗をかいたとき、風が当たるとスーッとして気持ちよく感じるのは、この吸汗速乾性によるものです。コンプレッションの上に、普通の作業ズボンではなく、ハーフパンツタイプの作業ズボンを穿くことで、より通気性が確保され、コンプレッションの吸汗速乾性を最大限に感じることができます。この組み合わせが最強に涼しいと感じる理由です。
色やロゴをそろえれば、一体感や統一感は出せる
作業着を現場ごとに変えると、「会社としての統一感がなくなる」「人によって服装が違うのは不公平だ」という意見が出るかもしれません。しかし、ユニフォームの統一感は、全員がまったく同じ形の服を着ることだけで生まれるものではないと思います。
長袖シャツ、半袖ポロシャツ、長ズボン、ハーフパンツなど複数の選択肢を用意しながら、色やデザイン、会社のロゴなどを共通にすることで、会社としての統一感や清潔感を保つことはできます(学校現場ではそのようになってます)。
そして、全員に同じ服装を求めることが、必ずしも公平とは限りません。炎天下で身体を動かす人と、空調の効いた室内で働く人。火花や薬品を扱う人と、そうした危険のない人。それぞれが置かれている環境や仕事内容は違います。
「全員に同じものを着てもらう」のではなく、「それぞれのリスクに応じて必要な服装を用意する」。一律にすることよりも、違いに応じて適切な選択肢を用意することの方が、安全という目的に照らせば合理的ではないでしょうか。
長袖・長ズボンのまま、涼しくする選択肢も
作業着の見直しは、半袖やハーフパンツに変えることだけではありません。肌を覆う必要がある作業では、長袖・長ズボンを維持しながら、夏向けの作業着に変更する方法もあります。通気性や吸汗速乾性、透湿性に優れた素材を選ぶ、薄手の生地にする、熱がこもりにくい設計にするなど、同じ長袖・長ズボンでも暑さへの負担を軽減する工夫ができます。「長袖か半袖か」だけではなく、素材や構造まで含めて作業着を見直すことをご検討ください。
コラム|作業着の見直しは、人材採用にも効くかも
作業着の見直しは、熱中症対策以外の副次的な効果として、人材採用にも効いてくるかもしれません。求人サイトや会社説明会で職場の写真を見たとき、そこで働く人の服装は意外と目に入ります。特に若い世代にとって、作業着のデザインや働いている姿は、「ここで働く自分」をイメージする材料の一つになります。
最近では、製造業や建設業、物流業でも、従来のいわゆる「作業着」だけでなく、ポロシャツやストレッチ素材、ハーフパンツなどを取り入れる企業が出てきています。機能性や涼しさだけでなく、デザイン性を意識したユニフォームも増えています。
同じような変化は、農業でもみられます。農業というと、長袖・長ズボン、長靴、帽子といった昔ながらの「農作業着」をイメージする人も多いかもしれません。しかし近年は、アウトドアウェアのようなデザインの農作業着や、機能性とファッション性を両立したウェアも増えています。農業法人などが統一感のあるウェアを採用したり、SNSで働く姿を積極的に発信したりする例もあります。背景には、暑さへの対応や動きやすさだけでなく、「農業を格好よく見せたい」「若い人にも働きたいと思ってもらいたい」という発想があります。
これは製造業や建設業にも共通する話ではないでしょうか。暑い時期には涼しい服装を選べる。動きやすく、見た目にもすっきりした作業着にする。現場で働く人の意見を聞いてユニフォームを変える。こうした取り組みは、働く人の負担を減らすだけでなく、「働く人を大切にしている会社」「古い慣習にとらわれず、働き方を変えている会社」という印象にもつながります。
特に、人材確保が課題となっている製造業、建設業、物流業、農業などでは、仕事そのものだけでなく、「そこで働く姿をどう見せるか」も無視できません。
真夏でも昔ながらの作業着を一律に求める職場と、安全性を確保しながら、涼しく、動きやすく、見た目にも配慮した服装を選べる職場。求職者から見た職場の印象は、少し違ってくるはずです。熱中症対策として始めた作業着の見直しが、職場のイメージを変え、結果として人材採用にもプラスに働く。そんな副次的な効果も期待できるかもしれません。
おわりに
「長袖・長ズボン」という当たり前を、一度見直してみませんか
この記事で提案したいのは、ただ単に「長袖・長ズボンをやめましょう」ということではありません。「長袖・長ズボン」という一律の服装ルールそのものを、職場の状況に合わせて、再検討したり、リスクアセスメントの対象にしてみませんか、ということです。
特に熱中症という文脈では、命に関わる病態であるからこそ、今年の熱中症対策を振り返り、来年に向けた対策を考える一つのテーマとして、作業着のルールを見直してみてはいかがでしょうか。
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