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癒しは蕎麦とWEEKEND VIBES

金曜日の夜、時計の針はとうに23時を回っていた。

なぜ、年齢と反比例して仕事量は増えていくのだろうか。50を過ぎた肉体は、もはや自分が重力に逆らって立っていること自体が奇跡のように思えてくる。疲労というより、摩耗。そんな言葉が似合う夜だ。

重い足取りでホームに降り立つと、視界の端にぼんやりとした明かりが見えた。立ち食い蕎麦屋である。

普段ならとっくにシャッターが下りている時間だが、なぜか今日は暖簾が揺れている。幻覚だろうか? いや、あの漂ってくる出汁の香りは本物だ。鰹節と醤油、そして少しの油が混じり合った、あの独特の匂い。高級料亭の繊細な香りではない。もっと暴力的で、直接脳髄に「腹が減っただろう?」と語りかけてくる引力がある。

私の「ビジョン」としては、健康のために夜遅くの炭水化物は避けるべきだと分かっている。分かっているのだが、私の足は勝手に券売機の前に立ち、指は迷うことなく「かき揚げそば」のボタンを押していた。意思の弱さよ。

店内には、私と同じような背中の丸まったサラリーマンが二人。無言ですすっている。

数十秒で供されたその一杯は、黒い。関東特有の濃い醤油色のつゆ。冷静に見れば、この黒いつゆの見た目は美しくない。しかし、出汁の匂いが強烈に胃袋を刺激する。また、湯気がすごい。この寒空の下、器から立ち上る湯気だけが、私を優しく包み込んでくれる唯一の存在に見える。

箸で持ち上げると、ふにゃふにゃの麺。だが、それがいいのだ。疲れた胃袋には、アルデンテなんて洒落たものは凶器になりかねない。この頼りない柔らかさが、この時間帯には最適だ。

そして、つゆを吸ってグズグズになったかき揚げ。サクサク感ゼロ。もはや揚げ物としての尊厳を失い、つゆと一体化しようとしている。これを口に運ぶ。

……美味い。

五臓六腑に染み渡るとは、まさにこのことだ。熱いつゆが食道を通り、冷え切った身体を内側から強制的に再起動させていく。480円。昼に付き合いで食べた1280円のランチより、なぜこんなに心が震えるのか。世界の七不思議、いや八不思議である、などと無駄なことを考える。

たった5分ほどの滞在。

店を出ると、さっきまで冷たく感じた夜風が、少し心地よく感じられた。

胃袋が温かいだけで、世界は少しだけ優しく見えるらしい。これで、いい週末が迎えられそうだ。

まあ、週末の予定なんて、DJ TAROのWEEKEND VIBESを聴くことぐらいしか楽しみないんだけどね。おっと、明日も早起きだ。はよ、帰ろ。

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