2026年4月後半の遺伝子治療・細胞療法業界動向
in vivo化、BBB送達、小型編集酵素――「実装競争」は次の段階へ
2026年4月後半の遺伝子治療・細胞療法業界は、4月前半に見られた「CAR-Tの適応拡大」「AAVの実用化前進」「製造・送達基盤の競争力強化」という流れを受け継ぎながら、さらに一段踏み込んだ半月だったといえます。前半が、既存モダリティの臨床・製造・承認面での前進を示した期間だったとすれば、後半は、in vivo化、次世代送達、精密編集、RNAプラットフォーム化が一気に前面に出た期間でした。
CAR-Tは「他家化」の次へ
in vivo CAR-T競争が本格始動
特に目立ったのは、細胞療法における「他家化」の先にある、体内で直接CAR-T細胞を作るin vivo CAR-Tへの関心の高まりです。
Eli Lilly and CompanyによるKelonia Therapeutics買収は、その象徴的な出来事でした。KeloniaのiGPS®技術は、患者から細胞を取り出して加工する従来型CAR-Tとは異なり、体内で直接T細胞をエンジニアリングすることを目指すものです。これは、4月前半に見られた他家CAR-Tや外来投与可能なCAR-Tの流れを、さらに一歩進める動きと位置づけられます。
同じ方向性では、CREATE Medicines, Inc.がmRNA-LNPを用いて体内でT細胞、NK細胞、骨髄系細胞を同時にエンジニアリングするRetroTプラットフォームのin vivoデータを発表し、HER2陽性固形がんを対象とするMT-304で初回患者投与を完了しました。
また、Circio Holding ASAとAcuitas Therapeuticsは、長期発現が可能なcircRNA技術と標的型LNPを組み合わせたin vivo CAR-Tの技術評価を開始しています。Strand Therapeuticsも、circRNAと標的化LNPを組み合わせたin vivo CAR-Tプラットフォームで、非ヒト霊長類における強いB細胞枯渇データを示しました。
これらの動きは、CAR-Tの競争軸が「自家か他家か」だけではなく、
そもそも細胞を体外で作るのか、体内で作るのか
という段階に移りつつあることを示しています。
製造コスト、リードタイム、施設要件、患者アクセスの課題を考えると、in vivo CAR-Tはまだ初期段階ながら、細胞療法の産業構造そのものを変える可能性があります。
in vivo CRISPRが商業化フェーズへ
第3相成功と“小型編集酵素競争”
遺伝子編集領域でも、4月後半は非常に重要な進展がありました。
Intellia Therapeutics, Inc.は、遺伝性血管性浮腫を対象とするin vivo CRISPR療法lonvo-zの第3相HAELO試験で、主要評価項目および主要副次評価項目を達成したと発表しました。単回投与により発作率をプラセボ群と比較して87%低下させ、さらにFDAへの段階的BLA申請も開始しています。
これは、
in vivoゲノム編集療法が商業化に近づいた
ことを示す、業界にとって大きな節目です。
AAV搭載を見据えた“小型化”競争
加えて、小型かつ高効率な編集酵素の開発も加速しています。
The University of Texas at Austin
Metagenomi Therapeutics, Inc.
東京大学
などが、超小型CRISPR酵素や高性能SaCas9変異体を相次いで発表しました。
4月前半に見られた塩基編集やHBV向け編集療法の流れに対し、後半は、
小型化
広PAM化
高精度化
高活性化
といった、「編集酵素そのものの性能競争」が本格化した印象です。
AAV競争は“BBB突破”へ
次世代カプシド開発が加速
AAV領域では、前半の焦点がBLA再提出、製造高速化、ITR安定性、筋肉標的ベクターであったのに対し、後半は次世代カプシドとBBB突破が際立ちました。
TfR1標的AAVへの注目
Apertura Gene TherapyとBroad Instituteは、ヒトTfR1を標的として血液脳関門を通過する次世代AAVカプシドTfR1 CapX™のデータを発表予定としています。
さらにAviadoBio Ltd.は、このカプシドを導入し、アルツハイマー病やタウオパチーを対象とする静脈内投与型遺伝子サイレンシング療法を進めています。
これは、中枢神経疾患向け遺伝子治療が、
局所投与
脳内限定送達
から、
全身投与
広範脳送達
へ進化しようとしていることを意味します。
安全性と肝毒性の課題
一方で、AAV遺伝子治療の厳しさも改めて示されました。
Astellas Pharmaは、XLMTM向けAT132の開発を中止し、次世代候補ASP2957へリソースを集中すると発表しました。
AAV領域では依然として、
肝毒性
投与量
免疫原性
再投与性
が大きな課題であり、単に「届く」だけでは勝てない時代になっています。
mRNAは“ワクチン”を超え始めた
がん、細胞療法、AI設計へ拡張
mRNA領域では、感染症ワクチンからがん免疫、細胞療法、T細胞誘導分子、RNA設計AIへと応用範囲がさらに広がりました。
Modernaは混合ワクチン時代へ
Moderna, Inc.は、
インフルエンザ+COVID-19混合ワクチン「mCOMBRIAX」のEC承認
H5鳥インフルmRNAワクチンPhase 3開始
を発表しています。
個別化がんワクチンは長期生存へ
Memorial Sloan Kettering Cancer Centerは、膵がん向け個別化mRNAワクチンBNT122の長期追跡結果を報告し、長期生存データを示しました。
また、
Everest Medicines
Epitopea
なども、個別化・共有抗原型mRNAがんワクチンを推進しています。
AIがRNA創薬を変え始めた
“RNAをどう設計するか”が競争軸に
RNA設計そのものを高度化する動きも出ています。
Eclipse Bioinnovations, Inc.は、AI設計、試作、NGS解析を統合したlab-in-the-loop型プラットフォームeCOMPASS™を発表しました。Cas9 mRNAでは、タンパク質発現400%向上、編集効率58%向上を示しています。
また、Profluentは、Eli Lilly and Companyと提携し、AIによる次世代リコンビナーゼ設計を推進しています。
今後は、
RNAを“作れる”企業ではなく、
RNAを“最適設計できる”企業
が競争優位を持つ可能性があります。
細胞療法は“早期介入”へ
CAR-Tは前がん状態にも拡大
細胞療法では、既存CAR-Tの適応拡大に加え、治療介入タイミングの前倒しも重要テーマとなっています。
Dana-Farber Cancer Instituteは、高リスクくすぶり型多発性骨髄腫を対象にcilta-celを用いたCAR-PRISM試験の結果を発表し、投与患者全員がMRD陰性となったことを示しました。
これは、CAR-Tが、
再発・難治例
末期患者
だけでなく、
前がん状態
早期疾患
へ適応拡大する可能性を示しています。
4月後半の総括
“体内で完結する医療”へのシフト
4月後半を総括すると、遺伝子治療・細胞療法業界は、4月前半に示された「臨床成果の積み上げ」と「製造・送達基盤の強化」から、さらに進んで、
体内で細胞を作る
体内で遺伝子を編集する
BBBを越えて脳へ届ける
RNAをAIで設計する
という次の局面に入ったといえます。
4月前半のキーワードが、
他家CAR-T
AAV製造
肝外LNP
非ウイルス送達
塩基編集
であったとすれば、4月後半のキーワードは、
in vivo CAR-T
in vivo CRISPR
小型編集酵素
BBB通過AAV
circRNA
AI×RNA設計
です。
つまり業界は、
「新しい治療法を作る」段階から、
「いかに体内で完結させるか」
を競う段階へ移行しています。
2026年後半に向けて、ASGCT、TIDES、ASCOなどでは、これら技術がどこまで臨床・製造・規制の壁を超えられるかが最大の焦点になるでしょう。
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