2026年5月後半の核酸医薬業界動向
RNA編集の臨床前進、肝外送達の実用化、そして「機能的治癒」が現実味を帯びる
2026年5月後半の核酸医薬業界では、RNA編集技術の臨床的成熟、肝外送達技術の実用化、そして慢性疾患における「機能的治癒」の実現可能性が一段と高まったことが印象的でした。
4月後半にはRNA編集、個別化mRNA、肝外送達が次の競争軸として浮上し、5月前半にはAI創薬との融合や組織特異的送達技術の進展が加速しました。そして5月後半は、それらの技術が単なるプラットフォーム競争から脱し、具体的な臨床成果や承認申請へ結びつく段階へ入りつつあることを示した半月だったといえます。
RNA編集が「次世代プラットフォーム」から「臨床モダリティ」へ
最も注目すべきテーマの一つはRNA編集です。
4月後半にはAIRNAやKorro BioがRNA編集技術の可能性を示し、5月前半にはAIRNAがGalNAc結合型RNA編集薬AIR-001の前臨床データを発表しました。
そして5月後半には、Wave Life SciencesがRNA編集オリゴヌクレオチド「WVE-006」のPhase 1b/2a試験データを公表しました。
本剤はGalNAc抱合型RNA編集薬であり、AATD(α1-アンチトリプシン欠損症)患者において、有害なZ-AATタンパク質を最大71%低下させるとともに、正常型M-AATタンパク質を総AATの約64%まで回復させることに成功しています。
これは単なるRNA編集効率の改善ではありません。
実際の患者において疾患原因タンパク質を減少させながら正常タンパク質を回復させたという点で、RNA編集が初めて「治療モダリティ」として成立しつつあることを示しています。
同じAATD領域ではAIRNAも臨床試験を進めており、RNA編集は2026年を境に本格的な競争フェーズへ突入したといえるでしょう。
ASOが新たな標的へ拡大する
ASO領域では、「発現抑制」から「発現制御」へと概念が広がっています。
CAMP4 Therapeuticsは、SYNGAP1関連疾患を対象とするASO「CMP-002」の前臨床データを発表しました。
本剤は一般的なASOのように遺伝子発現を抑制するのではなく、非コードRNA(regRNA)を標的とすることでSYNGAP1タンパク質発現を正常レベルまで増加させる「アップレギュレーション型ASO」です。
核酸医薬はこれまで「遺伝子を止める薬」というイメージが強くありました。しかし今後は、発現を増やす、編集する、修復する、といったより高度な遺伝子制御技術へ進化していくことが予想されます。
またHAYA Therapeuticsは、心筋線維化を対象とするlncRNA標的ASO「HTX-001」の臨床試験を開始しました。
長鎖非コードRNA(lncRNA)を標的とする創薬はまだ初期段階ですが、心血管疾患領域における新たな核酸創薬アプローチとして注目されます。
肝外送達競争は筋肉・肺・心臓へ
4月後半から続く「GalNAc以後」の流れは、5月後半にさらに加速しました。
特に注目されたのはDyne Therapeuticsです。
同社はDMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)治療薬候補DYNE-251について、Phase 3試験開始とFDAへのBLA申請を相次いで発表しました。
DYNE-251はTfR1を利用した筋肉標的送達技術を活用しており、PMO単独では困難だった筋組織への高効率送達を実現しています。
これは核酸医薬業界において極めて重要な意味を持ちます。
GalNAcが肝臓送達の標準技術になったように、TfR1は筋疾患領域における新たな標準プラットフォームになる可能性があります。
また、ReCode Therapeuticsは吸入mRNA製剤RCT1100の臨床データを発表しました。
原発性線毛運動不全症(PCD)患者で粘液線毛クリアランス改善が確認されており、「肺へ直接mRNAを届ける」という長年の課題に対する重要な前進といえます。
さらに、ethernaとDropshot Therapeuticsの腎疾患向けmRNAプログラムも臨床段階へ移行しており、送達先の多様化はますます加速しています。
HBV領域で「機能的治癒」が現実味を帯びる
HBV領域では、5月後半も大きな進展が見られました。
GSKはASO製剤bepirovirsenのPhase 3統合解析データを公表しました。
6か月投与により、全体集団で19%、低ウイルス活性群では26%という機能的治癒率を達成しています。
従来の核酸アナログ治療では機能的治癒率は1%未満であったことを考えると、この数字は極めてインパクトがあります。
さらにAligos Therapeuticsは、低分子薬pevifoscorvirとASO「ALG-170675」の併用による相乗効果を報告しました。
HBV領域は現在、
RNAi
ASO
低分子薬
免疫療法
を組み合わせた「機能的治癒競争」の中心地になっています。
核酸医薬が感染症治療を根本的に変える可能性を最も強く示している領域といえるでしょう。
mRNAは感染症から免疫再プログラミングへ
mRNA領域でも興味深い進展が続いています。
University of Houston、MIT、Harvardの研究グループは、IRF8とNIKのmRNAを利用した新しい免疫再プログラミング技術を発表しました。
従来のmRNAワクチンが抗原をコードするのに対し、本技術は免疫細胞そのものを再設計するアプローチです。
また、Modernaは国内で低用量COVID-19ワクチン「エムネクスパイク®」の承認を取得しました。
さらにライム病ワクチンmRNA-1982の開発も進めており、感染症領域における製品ポートフォリオ拡大を継続しています。
一方、ファンペップとCrafton Biotechnologyは治療用mRNAワクチン開発で提携を発表しました。
個別化がんワクチンに加え、免疫調節や抗体誘導など、mRNAの用途はますます多様化しています。
siRNAは「慢性疾患の標準治療」へ
siRNA領域では、Arrowheadが引き続き存在感を示しています。
plozasiranでは腎機能障害や肝機能障害患者においても用量調整不要のデータを提示しました。
また、ARO-INHBEでは半年に1回投与による肥満・MASH治療の可能性を示しています。
さらに、Suzhou Riboは冠動脈疾患向けsiRNA「RBD1119」のPhase 2試験申請を提出しました。
心血管疾患、代謝疾患、免疫疾患へと適応が広がる中で、siRNAは希少疾患向け技術から慢性疾患の標準治療へ進化しつつあります。
5月後半を俯瞰して——核酸医薬は「実装競争」の時代へ
以上を踏まえると、2026年5月後半の核酸医薬業界は、次の4つのキーワードで整理できます。
第一に、RNA編集の臨床的成熟です。Wave、AIRNAを中心に、RNA編集が実際の患者治療へ近づいています。
第二に、肝外送達の実用化です。TfR1を利用した筋送達、吸入mRNAによる肺送達など、GalNAc以後の世界が現実になりつつあります。
第三に、HBVにおける機能的治癒競争です。RNAiとASOを中心に、慢性感染症の治療パラダイムが変わろうとしています。
第四に、mRNAの用途拡大です。ワクチンに加え、免疫再プログラミングや治療用ワクチンへと応用領域が広がっています。
4月後半は「技術選別後の実装戦略」、5月前半は「AIと肝外送達の加速」がテーマでした。そして5月後半は、それらの技術が実際の患者価値へ結びつき始めたことを示した半月でした。
核酸医薬は今、プラットフォーム競争から臨床価値競争へと明確に移行しつつあります。
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