シューマン「幻想小曲集Op.12 第2曲:飛翔」焦るシューマンの心が見える演奏:マルタ・アルゲリッチ
作曲者:シューマン
曲名 :幻想小曲集 Op.12 第2曲 「飛翔」
演奏者:マルタ・アルゲリッチ
リズム:★★★★☆
旋律 :★★★★★
構造 :★★★★☆
満足感:★★★★★
この演奏はアルゲリッチの表現の上手さが良く出ている。
シューマンのどういう曲なのかを中心に紹介してみようと思う。
Fantasiestücke, Op. 12: II. Aufschwung
この演奏ではアルゲリッチはシューマンが持つ焦りを良く理解して演奏しているように思う。シューマンのその時の状況とアルゲリッチの表現の上手さが合わさって完成度の高い演奏だなと感じる出来になっている。
この曲はあまりにコミカルなので最初は、
「本気で空を飛ぼうと思って焦っているシューマンのコメディ」
かと思ったけども、シューマンの状況状態を理解しながら考えると、この曲の作りが見えてくる。
この1837年の時期のシューマンはクララとの結婚をクララの父親に反対されて焦っていた時期になる。
売れる前の作曲家で経済力も無いシューマンが、作曲家として成功したいという立場的に「飛躍」したいけど出来ない焦りをこの曲で表現したのではないかと思う。だからタイトルの「飛翔」とは作曲家として成功したいというシューマンの思いのことなんだと思う。
この曲の本当のタイトルの「Aufschwung」の意味を調べてみると、
「下降している状態から、勢いをつけて一気に上へ跳ね上がること」
と出てくるから私の想定した通りかと思う。
誰でも成功したいという焦りを経験していると思うから、そういう焦りの気持ちを曲にしたと思えば、この曲の理解が進むのではないだろうか。
この曲の始まりは作曲家として成功しようと必死に頑張っているのに、なかなか成功できないことへの怒りを表現しているように感じる。
この曲を通してのテーマは、
「また駄目だった。俺は成功して飛躍したいんだよ。くそったれ。」
というストレートなシューマンの心の叫び。これじゃないかと思う。
アルゲリッチの特に序盤の表現が思わず笑ってしまうほど上手い。
アルゲリッチの鋭い打鍵が早く早くとシューマンの焦る気持ちがありありと良く見えるような表現に仕上がっていると思う。
何度も何度も頑張ろうとするんだけどもやっぱり無理で最後の最後に
「やっぱり駄目だ」
と言って終わるような曲じゃないかと私は思う。
きっとシューマン本人は真面目に成功したいとの思いを込めてこの曲を作ったんだろうけども、必死過ぎてどこかコメディでも見ているように、微笑ましく感じてしまう。
この演奏での聴きどころは、生々しいほどのシューマンの心の焦りや動きを上手く表現しているところだと思う。シューマンと言われると狂気という言葉が出やすいけども、私はこの頃の若かったシューマンは狂気と言うよりも、今となっては必死に頑張る若者の喜劇ではないかと感じる。
アルゲリッチの演奏が上手いのはシューマンのドロドロしたような内面の動きを生々しく表現できているところだと思う。
この曲は捉え方が違えば上品な曲になってしまったり、感情を抑えた演奏になってしまったりすると思う。
アルゲリッチだからこそ、これだけリアルにシューマンの心の中に踏み込めたのではないかと私は思う。
