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ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番  月光:第3楽章」演奏法の違いで曲がどう変わるのかを比較してみた:ギレリス、ポリーニ

作曲者:ベートーヴェン
曲名 :ピアノソナタ第14番 Op.27-2「月光」第3楽章
演奏者:エミール・ギレリス、マウリツィオ・ポリーニ
リズム:★★★★★
旋律 :★★★★★
構造 :★★★★☆
満足感:★★★★★

ギレリスとポリーニでは演奏方法が大きく違う。
そこのところを中心に比較して紹介してみようと思う。


ギレリス:Piano Sonata No. 14 in C-Sharp Minor, Op. 27 No. 2 "Moonlight": III. Presto agitato

ポリーニ:Piano Sonata No. 14 in C-Sharp Minor, Op. 27 No. 2 "Moonlight": III. Presto agitato

演奏を2つ用意したのは演奏を比較することによって、
演奏方法の違いを分かりやすくするためだ。

ギレリスもポリーニも緻密な設計の元に演奏をするタイプではあるのだけども、演奏法に大きな違いがある。

ギレリス:旋律とリズムをそれぞれ独立した運動として扱う演奏。
ポリーニ:旋律とリズムを密接に一体化した運動として扱う演奏。

ギレリスの演奏は、旋律とリズムを別々に独立した回転運動をさせながら、リズムから旋律へと一定の間隔で推進力を伝えることで旋律に力強さを与えている。

これは一般的な演奏方法で、旋律が独立した回転運動をしているのでリズムから制限を受けにくく、自由な旋律を歌わせやすい。
ギレリスのような爆発的な感情表現をするタイプとの相性がいい。

その反面として旋律とリズムが別々の回転運動になるので、リズムからの推進力の受け渡しが制限される。そして旋律とリズムの一体感がポリーニほどは出しにくい。


それに対してポリーニの演奏は、旋律とリズムを密接に一体化して同じ回転運動を行う。ギアで言えば旋律とリズムが完全に噛み合った状態で同時に回転することで、驚異的な旋律とリズムの一体感を持つ精密な構造として演奏することが可能になる。

旋律とリズムが常に噛み合った状態で密接しているので、旋律に常に推進力の受け渡しが可能になり、力強い旋律にすることができる。

その反面、旋律とリズムが密接に連動して動くので、旋律での歌がリズムにより制限を受けて自由に歌う事が難しくなる。それと同時に常にリズムの制限を受けることにより旋律が平均化されやすい。


ギレリスとポリーニの演奏には、旋律とリズムでの回転の独立性の違いと推進力の受け渡しの違いがある。
この演奏法の違いは、旋律の歌わせ方に大きな違いを生む。

だけども演奏方法の違いはあるものの、この曲の演奏においては、どちらの演奏でも構造的に問題があるわけではなく、構造の美しさを維持している。

一見するとポリーニのほうが旋律とリズムの一体感を持つ強靭な構造を持つように見えはするけども、どちらの演奏でも構造の堅牢さも美しさも失わない。これには両者ともに絶対的なリズムの安定性による構造への支えが必要になる。

つまりベートーヴェンの曲の構造には、旋律を自由に歌わせるだけの余裕があるし、旋律をリズムが過剰に制限するような構造を、この曲自体は持っていない。
その証拠に、ギレリスは旋律を必要以上に制限されることなく旋律をかなり自由に歌わせることが出来ている。
このことから、旋律とリズムの密接な一体感がなくてもこの曲の演奏においては問題が起きないことが分かる。

これは、ベートーヴェンの曲の構造が強靭だからこそ、違う演奏方を受け入れても、「曲そのものが崩れにくい」のではないか。


構造の堅牢さと美しさが両者ともに維持されるなら、旋律を自由に歌わせることができるギレリスに対して、旋律をリズムによって制限されるポリーニのほうが一見すると不利に見える。
しかし実際のベートーヴェンの曲の演奏では旋律を美しく歌うことよりも、堅牢な構造を構築することがまずは大事なのではないか。


良く考えてみるとベートーヴェンの演奏には色んな解釈がある。
ショパンほど演奏法が統一されたり制限されている感じがしない。
だけども、ベートーヴェンで共通するのは旋律の歌わせ方ではなく、いかに構造をきっちりと構築するかではないだろうか。
そこの優先の違いがショパンとベートーヴェンの違いではないかと思う。


この演奏の聴き方は、旋律に対してリズムがどうなっているかを感じることだと思う。ポリーニの旋律とリズムが一体になった演奏を聴きながら、ギレリスでは旋律とリズムがどう違う動きをするのかを感じられると、他の曲の演奏も違って聴こえてくるんじゃないかと思う。


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