物語の主人公は自分Ⅲ / 第3回:動くことで見えてくるもの
こんにちは、ヒロTです。
前回は「動けない理由」をテーマにお話ししました。
今回のテーマは
「動くことで見えてくるもの」です。
私は26歳のとき、
イラストレーターとして独立しました。
それから今年で39年が経とうとしています。
こんなに長く活動を続けてこられた要因は、
大きく二つあると思っています。
一つは
「変化することを恐れない」こと。
そしてもう一つは
「自分から動く」ことです。
今回の話は、
私が芸大の専任講師をしていた頃の実話です。
ある一人の学生の行動が、
周りの人を動かしていった出来事です。
今から10年前の2015年7月。
フランス・パリの
ノール・ヴィルパント見本市会場で開催された
「ジャパンエキスポ」
というイベントに、
教員と学生あわせて12名で参加しました。
このイベントは、日本のアニメや漫画を中心に
さまざまな日本文化を紹介する
ヨーロッパ最大級のイベントです。
当時、日本の大学が
単独で出展するのは初めてでした。
そのため、どんなブースにするのか
何を展示するのか
学生と教職員みんなで
意見を出し合いながら準備を進めました。
3m×3mのブースには
学生のオリジナルイラストをベースに
・Tシャツ
・トートバッグ
・缶バッジ
・シール
・お面
などの商品を並べました。
プロではない学生の作品が
ヨーロッパの人たちに受け入れられるのか。
そんな検証の意味も込めて
4日間の出展に挑みました。
今回の第一のテーマは
学生が主体的に行動すること。
初日から積極的に呼び込みをする
学生もいました。
しかしブースの前を通る人は多いものの、
なかなか足を止めてもらえません。
興味はあるけれど
来場者の方から話しかけてくることは
ほとんどありませんでした。
初日を終え、ホテルへ戻る途中。
ある一人の学生が
暗い表情でトボトボ歩いていました。
「どうした?気分悪いんか?」
と声をかけると、彼女はこう言いました。
「なんか…
みんな自分から声をかけていってたのに
自分はまったく何もできなくて…
めっちゃ自分に腹が立つんです」
私はこう返しました。
「そうかぁ。自分ができることを
精いっぱいやったらええやん。
明日また頑張ろう」
そんな会話をしながら
二人で歩いたことを覚えています。
そして二日目。
その学生は
相変わらず曇り顔でした。
彼女は普段から
他の学生と群れて行動するタイプではなく
どちらかというとマイペース。
そのため
周りの学生から声をかけられることも
あまりありませんでした。
外から見ると
少し浮いている存在だったかもしれません。
昼に向かって来場者が増えてきた頃。
その学生が私のところへ来て言いました。
「先生、要らない段ボール紙ってありますか?」
展示机の下にあった余りを渡すと
彼女はそれを通訳さんに差し出して言いました。
「“似顔絵描きます!”って書いてくれますか?」
通訳さんがフランス語で書き始めると
彼女はさらに言いました。
「“無料”も追加してください」
完成した即席のボードを持って
彼女はブースを離れました。
そして
それを頭の上に掲げながら
会場を歩き始めたのです。
似顔絵の告知ボードを持って
自ら客を呼びに行ったのです。
私は心の中で
「おー、なかなかやるやん!」
と叫んでいました。
それから20〜30分ほどして
彼女が戻ってきました。
そして…
後ろには
4〜5人の来場者がついてきていたのです。
「え、うそやろ…」
急遽、似顔絵スペースを作り
彼女が一人目を描き始めました。
似顔絵は一人約10分。
次の人は立って順番を待っています。
すると…
その様子を見てブース前で立ち止まる人が
どんどん増えていきました。
最初は様子を見ていた
他の学生たちも言い出しました。
「私らもやろう!」
そして3〜4人で似顔絵を描き始めたのです。
完成した似顔絵を見て喜ぶ来場者。
それを見てまた人が集まる。
気がつけば
長蛇の列ができていました。
正直、私も驚きました。
そして迎えた三日目。
似顔絵コーナーに
ひときわ目立つ男性が現れました。
タンクトップに
短パンのジーンズ。
足元は虹色のスニーカー。
黙っていてもかなり目立つ人です(笑)
イベント終了後に分かったのですが
この人はフランスでゲーム関連の
パッケージイラストを手掛けている人物でした。
そしてなんとその学生に
「自分の仕事でイラストを描いてくれないか」
と声をかけたのです。
突然の話に
本人もすぐには答えられなかったのですが
帰国後に連絡を取り
実際に仕事の依頼を受けることになりました。
本当に何がきっかけで
何が起こるか分からないものです。
フランスから戻ったあと
学生たちに感想を書いてもらいました。
その中の一つを紹介します。
--------------------------------------------------
フランス語どころか、英語も、日本語でさえ怪しいくせに
JAPANEXPOに行きました。
が、ブースを設けて
いざお客さんを迎えてみれば、
言葉が喋れる・喋れないの問題ではないことに気づかされました。
声をあげて、体を動かした者が
一番強いんだということが
明確に理解できた研修だったと思います。
この研修をこれから絵を描いていく為に
生きていく為に、活かしていきたいです。
そしてもう一つ。
1回生で参加した唯一の学生の感想です。
--------------------------------------------------
JAPANEXPO研修は挑戦と気づきの旅でした。
私達はブースに人を集めるために
何ができるかを各々が考え、実行しました。
4日目には、未経験の似顔絵で沢山の笑顔を貰い、
全学年の士気が高まり一体感が生まれました。
自然と筆が進んだことを思い出します。
行動を起こしたからこそ得られた経験です。
『成功の反対はなにもしないこと』
この言葉を胸に、
これからの大学生活を有意義に過ごしたいと思います。
たった4日間の出来事ですが
他の学生も同じように
「自分から動かなければ何も変わらない」
という感想を書いていました。
そして私はこの出来事から
とても大切なことを
改めて教えられました。
人は頭で理解するだけでは
なかなか変われません。
けれど
一度でも「行動した結果」を体験すると
人は驚くほど変わります。
そしてその行動は
周りの人の行動まで変えていくことがあります。
動く前は未来は見えません。
でも
動いた人にだけ
次の景色が見えてきます。
そしてその景色は
最初に思い描いていたものとは
まったく違うことも多いのです。
だから私は今でも学生にこう言っています。
「とにかく一回動いてみ」
動けば何かが起きます。
動かなければ何も起きません。
あなたの物語の主人公はあなた自身です。
その物語を動かせるのも
やっぱりあなたしかいません。
もし少しでも
「やってみたい」と思うことがあるなら
小さくてもいいので
一歩動いてみてください。
きっとその一歩の先に
今まで見えなかった景色が
待っているはずです。
📣次回予告:第4回「丁寧にする力」
動くことで新しい景色が見えた。
でも、その景色を本当に味わい、
未来に活かすためには何が必要なのか?
次回は、僕の座右の名でもある
「丁寧にする」ことをテーマに話します。
疲れたとき、しんどいとき、
そして何もかもどうでもよくなりそうなときほど、
自分を丁寧に扱うこと。
小さな行動の先にある景色を、
もっと確かなものにする力の話。
どうぞお楽しみに。
