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もう一度、あなたと聴くために

亡くなった大切な友人へ
MONOEYESライブツアー2025


ライブの帰り道、夜風が冷たくて心地よかった。
さっきまでの熱気は、まだまだ冷める気配が無い。
あの光と音の中で、私は確かにあなたと再会していた。

✴︎

大学時代、バイト先のバーの常連だったあなた。なんだかチャラついたお兄さんだなぁ、とはじめは思っていたけれど、すぐに意気投合して、親友になった。

あなたはフロントマンである細美さんの大ファンで、ELLEGARDENも、the HIATUSも、MONOEYESも大好きだった。
高校の頃からエルレが好きだった私にとって、あなたは同じ景色を見られる大切な存在だった。
ライブに行って、帰りに語り合って、音楽の話をするときのあなたの目はいつも真剣で、どこか切なかった。

あなたはよく言っていた。
「細美さんみたいに、心でまっすぐ向き合える人間になりたい」と。
その言葉の奥に、どれほどの生きづらさを抱えていたのか、当時の私は気づけなかった。
あなたの優しさはいつも少し痛みを帯びていた。
それでも人を嫌いにならないところ、
何度傷ついてもまっすぐでいようとするところが、細美さんになんだか似ているような気がした。
ギターを弾く横顔も、笑うときの表情も、少し似ていた。

そんなあなたが、コロナ禍で自ら命を絶った。
その知らせを聞いた瞬間、世界の音がすべて止まった。
あれほど好きだった音楽も、細美さんの声も、聴くのが怖くなった。
あなたと聴いた曲たちは、思い出ではなく、痛みになってしまった。

それでも、時間が少しずつ心の輪郭を変えていって、
1年ほど前から、また細美さんの歌声を聴けるようになった。
そして今回、MONOEYESの10周年ツアーの告知を見たとき、なぜか胸の奥が熱くなって、「行こう」と思った。
あなたが背中を押してくれた気がした。

当日、私はあなたが遺したスカジャンを着て行った。
細美さんがMVで着ていたのと同じもの。
それを羽織れば、また一緒にライブへ行ける気がした。

整理番号に従って会場に入り、思わず息を呑んだ。
まさかの前列、しかもほぼセンターで、開演前から涙を堪えるのに必死だった。
きっとあなたが導いてくれたんだと思った。

照明がつき、メンバーが入ってきて、音が鳴った瞬間、全身の細胞が震えた。
何度も遠くから見てきた細美さんが、今日はすぐ目の前にいた。
彼がステージ上から身を乗り出すたびに、まるで真上から覗き込まれているような距離感。
声が、言葉が、まっすぐ自分に届く。
「夢みたい」という言葉では足りなかった。

✴︎

ライブの途中、細美さんが静かに話し始めた。
東日本大震災があってから、自分が生きる意味をずっと考えてきたと。
それまでは自分のことが大嫌いだったけれど、
50歳を過ぎた今、ようやく「震災以降の自分を好きになれた」と。
その言葉に、堪えていた涙が溢れた。

あなたを亡くしてから、私はずっと命の使い方を探していた。
なぜ自分はまだここにいるのか、東北でどう生きていくのか。
元夫の仕事で来た土地に、離婚後も取り残されたように感じていた。
動けなくなって、何も信じられなかった日々。
なんだって話せたあなたはもういなかった。
あなたのいない世界で、何を抱いて生きていけばいいのか分からなかった。
お願い、一人にしないでーーーと何度も泣いた夜があった。

細美さんの言葉を聴きながら思った。
もしかしたら、悩み続けることも、止まりながら考え続けることも、それ自体が“生きる”ということなのかもしれない。
自分を責めながらも前に進もうとする姿を、誰かがいつか、愛しいと思ってくれる日がくるかもしれない。

✴︎

ライブの終盤、「アンカー」が流れる。
会場全体がひとつになって、あの歌詞を合唱した。

──このストーリーの終わりはまだ知らない

その瞬間、あなたの笑顔が鮮やかに蘇った。
あのスカジャンを羽織って、少し照れくさそうに笑う姿。
ギターを抱えて、細美さんの曲を何度も弾いていたあなた。
顔も、雰囲気も、声も、どこか細美さんに似ていた。
あなたが彼を好きだった理由が、今は痛いほど分かる。
この時きっとあなたも、この会場のどこかで、私と同じように涙をこぼしていたんだと思う。

あなたは性的マイノリティとして、この世界を生きるのが本当に辛かった。
孤独や誤解の中で、それでも人を愛し、音楽を信じていた。
細美さんの音と言葉が、あなたにとっての灯だったのだろう。
その灯を、今、私が受け取っている。
あなたが残した優しさが、確かにこの胸の中で生きている。

もしもこの人生がひとつのストーリーなら、あなたとのページはまだ終わっていない。
目には見えなくても、音の粒の中に、風の匂いの中に、あなたはいる。
私はこれからも、あなたと一緒にこの音を聴く。
悩みながら、立ち止まりながら、それでも笑える日を増やしていく。

私も細美さんやあなたのように、人と繋がることを恐れず、愛や優しさをまっすぐに届けられる人になりたい。
そしていつか、自分の物語をまるごと受け入れられるようになりたい。

この日のライブは、音楽以上の何かをくれた。
それは「もがきながら生きていい」という、小さくて確かな灯。

「このストーリーの終わりはまだ知らない」

だから私は、もう一度あなたと生きていく。

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